現在56歳の林さんが、デニムに目覚めたのは10代の頃。そのときの憧れは、今も林さんのなかに息づいているという。
「10代の頃は、“ファッションの発信地はアメリカ”という時代。当時、アメリカのデニムブランド『ビッグジョン』が日本に入ってきて、『やっぱり本物はアメリカ製だな』と感動しました。それ以降は、ヨーロッパのファッションに惹かれて。映画『太陽がいっぱい』や『冒険者たち』で、アラン・ドロンがデニムにシャツや革靴を合わせているのをみて、『わ、かっこいいな!』と。それらが、デニムに憧れたはじまりでした。
今でも、映画のなかの男たちのように、自分の生き方や世界観を持っている人がかっこいいと思いますね。そういう人って、みんな夢を持ってるんです。ぼくの夢は、60代になってもデニムをつくり続けること。夢って、他人から見たら、どうでもいいことかもしれない。でも、ジーパン屋にはジーパン屋なりの夢があるんです」。
憧れからスタートし、実際にデニムに携わって20年以上が経つという林さん。「林さんにとって、デニムとは?」と尋ねると、「デニムは洋服ではなく、いわば道具」と教えてくれた。その心とは……。
「デニムの魅力をひとことでいうと、“履いた人の顔になる”こと。職業やライフスタイルによって、色の落ちるスピードも、落ちる箇所も違ってくるんです。
現在、デニムの名産地・備後地区の西に位置する広島県尾道市で、『尾道デニム プロジェクト( http://onomichidenim.com)』という企画に携わっています。これは、250人の町民が1年間毎日デニムを履いて、本物の古着をつくるというプロジェクト。参加している人たちの職業はさまざまです。農業を営む人だったり、医者だったり、役場の人だったり。すると、2本として同じ古着はでき上がらない。動作による擦れ、ポケットに携帯や財布を入れていた跡はもちろん、太陽の光をどれだけ浴びたかでも、色の変化が違ってきます。日々愛用したデニムからは、持ち主の顔が見えてくる。そういう洋服って、デニムしかない。だから多くの人が、デニムに愛着を持つんだと思います」。
また、林さんがデニムを“道具”と呼ぶのには、こんな理由もあるという。
「こんな便利な服って、ほかにないでしょ。汚れを気にせずどこにでも座れるし、汚れたら洗って太陽の下に干せばいい。一時、『デニムは洗濯・日干しをしないほうがいい』という風潮もありましたが、実際は洗ったほうが丈夫さを保てるし、日光を浴びることでインディゴが鮮やかになり、きれいに色落ちします。使うほどに馴染み、長持ちする。これはもう、職人が自分の体の一部として大切にするような、道具に近いと思うんです」。
年代問わずに着用でき、カジュアルな服に限らず、白シャツやジャケットなど、ざまざまなアイテムを合わせられるのも、デニムの魅力だ。林さんが考える、大人に似合うデニムの着こなしとは?
「デニムはそれ自体が主役になる必要はない。だから僕は、クセがなく、シンプルなものが好きです。選ぶときに大切なのは、サイズ感。生地の伸びを考えてキツめのものを選び、丈は短めに。すると、靴のかかとに裾がのらず、脚がすらりと長く見えます。大人になるとラクを追求しがちですが、細身の服を着ていると、姿勢も体型も変わってくるのです。
デニムは、10代が着たら10代の顔に、50代が着たら50代なりの表情になります。僕もそうなんですが、大人の男性だったら、派手な色をトップスに選ぶといいんじゃないでしょうか。目立つと、その分周囲の目を意識するようになって、ファッションも仕草も変わってくる。それに、無難に生きているより、“粋な派手オヤジ”っていわれたほうがいいでしょ?
でもね、なにより大切なのは、自分のスタイルを持つこと。年齢や体型、職業に関係なく、自分の意志や美意識を持ってデニムを履いている人が、かっこいいと思いますね」。