半世紀以上の昔、東京下町で誕生した『前原光榮商店』。同店の傘は現在も、皇室をはじめ、数多くの著名人をファンに持っている。まずは初代から受け継ぐ傘づくりの精神を、3代目社長・前原慎史さんにうかがった。
「大切にしているのは、古きよき日本の傘づくり。オリジナルの生地づくりから手もと(柄)の加工まで、すべての工程を国内で行っています。日本の職人は、自分の仕事に誇りを持っている。だからこそ、『前原ができないものは、どこのメーカーもできない』といわれるほど、レベルの高い傘づくりをかなえてくれるんです」
同店の代名詞といえば、昭和の時代からつくり続けている16本骨の傘だ。同店には、一般的な傘と同じ8本骨や12本骨の傘もあるが、やはり一番人気は16本骨のものという。
「骨が多いと、傘布のアーチがなだらかで美しい。また、開いた際の迫力も違います。ただ16本骨は、重くなりがち。うちではこれを改善するため、生地の厚さを調整し、骨にはスチールよりも軽いカーボンを使用。全体のバランスがよく見えるよう、手もとはやや長めにつくっています」
妥協なき素材選びとデザインで生み出された、16本骨の傘。それを求め、台東区のショールームには、日々大勢のファンが訪れるという。とくに多いのは、60代の男性だ。実際、トラディッショナルな『前原光榮商店』の傘は、成熟した男性にこそよく似合う。
数百円で傘が変える時代にあってなお、装い・道具のひとつとして、仕立てのいい傘にこだわる。その楽しみは、多くのモノに触れ、年を重ねてきたからこそ、わかるのかもしれない。
すべての傘に、左画像のような紐がついている。右画像のように指に巻き、傘が安定しやすくするためだ。細かな部分にまで、使い手への心遣いが溢れている。
選べるのは、無地・ピンストライプなど4デザイン。さらに、各デザイン4〜5色のバリエーションが用意されている。 傘には、織った後にプリントを施したものではなく、染めた糸で織り上げた「先染め」生地を使用。そうすることで、深みのある色表現が可能とか。生地づくりを依頼しているのは、140年の歴史を持ち傘の生地を知り尽くした、山梨県の生地問屋だ。手間ひまかけたからこその、絶妙な色合いを楽しんで。
左から、無地・チェス・ボーダー・ピンストライプ。どれもシックなデザインで、さまざまな装いにマッチする。
『前原光榮商店』に訪れる男性たちの多くは、手もとにもっともこだわるという。寒竹・楓・藤・エゴなど、10種類からチョイスを。 木材に天然染料を塗り重ねて仕上げられた手もとは、どれも個性豊かだ。木目・色合いなど、ひとつとして同じ表情のものがないのは、天然素材の手もとならでは。どれも堅牢で、年を経るほどにツヤとシブさが増すのが特長だ。長く使う喜びを、味わうことができる。
前原光榮商店
東京都台東区三筋に本社とショールームを構え、紳士・婦人用の雨傘、婦人用の日傘を扱う。同店の傘は、伊勢丹・タカシマヤ・三越などでも取り扱っています。 http://maehara.co.jp