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第11回 西麻布コントワール ミサゴ オーナーシェフ 土切祥正氏 第3章 マウンテン・オイスターってご存知ですか。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

いろんなメディアにミサゴのヒグマのステーキのことを書いたので、よくお客さまから土切シェフのところに電話があるらしい。
「ヒグマはいつ入るんですか」
「それは未定です。頻繁にうちに通っていただかないとヒグマとの遭遇は難しいですね」
 そして土切シェフは内心では「ほとんどシマジさんが食べてしまうので、運がよければ食べられますが」と声にはならないが、そう答えている。
 ヒグマを撃ちに行く猟師も大変である。白銀のなか黒いヒグマの影を探して一ヶ月ほど標高1000メートル以上の北海道の山に籠もるのだ。ヒグマの姿をみつけると50メートルくらい間隔を取って追跡する。ヒグマは頭のいい猛獣である。追跡する猟師のニオイをかぎつけると大きな大木の脇に逸れる。未熟なハンターがそのまま進んで行くと、ヒグマは素早く木に登りハンターが巨木の真下にきたとき、もんどり打ってハンターを目がけて落下する。ヒグマの体重は4〜500キロはある。立ち上がると体長は4メートルは優にある。
 だからヒグマ撃ちの猟師は命がけなのだ。運よく仕留めても1000メートル以上の山から町まで下ろしてくるのがこれまたひと仕事だ。やっと携帯が繋がるエリアに入ってくると、猟師は土切に電話を入れる。と同時に土切がわたしの携帯を鳴らす。
「シマジさん、何キロ欲しいですか」
「そうだな。左の腿を6キロ頼む」
 それからわたしは親しい友人(すべて男だけど)に電話を入れる。どうしたわけか、友人たちは万難を排してわたしのスケジュールに合わせてくる。それくらいヒグマの肉を食べると精がつくのを実感するのであろう。

立木 シマジ、ヒグマのステーキって一人何グラムくらい食べるんだ。

シマジ 200グラムは軽いでしょう。形状は雪のように白い脂の部分が3分の2はありますか。脂身のところがじつに美味いんですよ。そこにドングリ、クルミ、クリ、スモモの香りが凝縮していて、言葉で表現するのは難しいですね。

土切 確かにどなたも200グラムのヒグマのステーキを残しませんね。

鈴木 シマジさんのお肌がギラギラしているのはヒグマの脂身の効果なんですか。

シマジ それとSHISEIDO MENですね。体内からはヒグマの脂が滲み出て、肌の正面はSHISEIDO MENに防御されているんじゃないでしょうか。わたしの理想は年齢不詳になることです。

鈴木 シマジさんはいまでも十分年齢不詳に見えますけど。

シマジ いやいや、顔や姿形立ち居振る舞いばかりではなく、全身の細胞が年齢不詳になりたいんです。

立木 「全身編集長」の次は「全身ヒグマ」か。

土切 そうですね。わたしの知る限りシマジさんほどヒグマのステーキを食べた日本人はいないでしょうね。

シマジ あの食通の小泉武夫教授もここにきてヒグマを食べてこう言っていましたね。
「ヒグマのステーキはわたしは生まれてはじめて食べました。缶詰では食べたことがあるけど、ナマと缶詰では似て非なるものだね」

土切 そういえばこの間小泉先生から電話があって「ヒグマは入ったか」と訊かれました。

シマジ 小泉教授もお疲れなんだ。今度ヒグマの肉が入荷したらいの一番に教授をご招待して差し上げますか。

立木 おれも疲れているよ。

シマジ タッチャンにも食べてもらいましょう。

鈴木 わたしも疲れています。

シマジ 鈴木さん、また育児休暇を申請しなければならなくなってもいいですか。

鈴木 そんなに効くんですか。

シマジ わたしの親しい若い編集者がヒグマのステーキを食べた夜、かつて別れた女性に電話してお願いしたんです。そうしたら彼女がきっぱりいったそうです。
「結婚するなら泊めてあげるわ。そうでなきゃお断りです」
すると発情した若者は「もちろん結婚するよ」とヒグマパワーで答えてしまった。まもなく彼女は子供を授かり目出度く結婚したんですよ。北海道のヒグマではなくても、本州の月の輪熊でも凄いんです。週刊プレイボーイの編集長だったころ、よく熊鍋を浅草で食べたんですが、食べ終わると可愛い部下たちはわたしを残して全員吉原に直行したものです。

鈴木 熊の胆は万病に効くといわれていますものね。

シマジ 小泉教授がファンからもらったという大きな熊の胆をわたしにくれたことがありますが、疲れたときそれを削って飲むと、たしかに元気モリモリになりますね。

立木 シマジ、その熊の胆はいまでも持っているのか。

シマジ うん、半分ぐらいはうちにあったかな。

立木 来週メンズプレシャスでまたお前の狭い仕事場で撮影が入っているはずだ。おれに少し削って飲ませてくれ。最近疲れてしょうがない。頼むぞ。

シマジ タッチャン、何でもいうことを聞いてくれますか。

立木 シマジ、水臭いことをいうんじゃない。いままでだって何でもお前のいうことを聞いてきたじゃないか。

シマジ もう一本連載が増えてもやってくれますか。

立木 お前はおれの弱みを捕まえてこれ以上仕事を増やすのか。わかった。引き受けよう。

シマジ それでは熊の胆を削って用意しておきますよ。

鈴木 シマジさんは開高健先生とジョークの対談集『水の上を歩く?』を上梓されていますね。食べ物のジョークで傑作なのは何ですか。

シマジ ジョークというのは女性にはなかなか理解されにくいものなんです。でも鈴木さんはパリの生活も長かったから、分かってくれるかもしれませんね。久しぶりに食のジョークの決定版をやりますか。

立木 シマジ、鈴木さんはレディーだぞ。気をつけて話せよ。

土切 ぼくも是非聞きたいですね。

立木 なにしろこの連載はSHISEIDO MENという高級男性化粧品を冠にしているんだからな。いや、そんなに女性を意識することはないか。ようし、シマジ、やってみな。

シマジ これは開高先生に聞いた文豪自身の体験談です。鈴木さん、マウンテン・オイスターってご存じですか。

鈴木 存じません。

シマジ 山の牡蠣というのはスコットランドあたりでいわれている仔牛の睾丸料理のことですが、結構通好みの料理なんです。開高文豪がマドリッドに旅したとき、マドリッドのルイス・カンデラスというレストランへ地元の日本人に招待されて行った。そこで「はい、お客さま、これは今日闘牛場で殺された牛の睾丸です」とウエイターにいわれて食べた料理が抜群に美味かった。あまりに美味だったので、翌日文豪は一人でそのレストランを訪ねた。「セニョール、昨日の料理が美味かったので同じものを食べにきた」と説明すると、まもなく皿が出てきた。それを食べるとやっぱりホッペが落ちるくらい美味かったので文豪は絶賛していった。
「絶品ですな。絶品ですが、今日のは昨日のよりもずいぶん小さいですな」
 するとシェフが出てきてこういったそうです。
「マエストロ、闘牛は必ずしも牛ばかりが負けるとは限りません」

鈴木 その開高先生の体験談はホントですか。

シマジ これは単なるジョークですよ。

土切 アッハハハハ。凄いブラック・ジョークですね。

立木 鈴木さん、シマジのいうことはほとんどジョークと思ってください。ホントのことは滅多にいわない男ですから。

今回登場したお店

コントワール ミサゴ
東京都港区西麻布4-17-22 アビターレ西麻布2F
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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