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第9回 銀座 レストラン・ドミニク・ブシェ トーキョー ドミニク・ブシェ氏 第3章 おもてなしのこころとはなにか。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

最近、資生堂のBC<ビューティーコンサルタント・美容部員>から女性初の執行役員常務になった関根近子さんが『資生堂で学んだ まごころの仕事術』<朝日新聞出版>を上梓された。関根さんは2013年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー・リーダー部門」を受賞された才女である。このSHISEIDO MENの連載で以前「ロオジエ」を掲載したとき、資生堂からのゲストとして関根近子さんに登場してもらった。その日、わたしがレオナール・フジタの変装でカツラをつけて現れると「シマジさん、素敵。惚れ直しました!」と賛辞を送ってくれたあの関根さんである。
 当年とって60歳にはとてもみえない、颯爽として才色兼備の女性である。一度、広尾のサロン・ド・シマジ本店にやって来られたことがある。もちろん、伊勢丹新宿店のサロン・ド・シマジ支店にもお越しいただいた。シガーバー、サロン・ド・シマジの常連たちがみんなSHISEIDO MENを愛用しているのを知った関根常務は、嬉しそうにシングルモルトの杯を重ねていた。さすがは山形県出身だけあってお酒も強い。関根さんは山形に夫と息子を残して単身東京で頑張っている。関根さんの“資生堂人生”は高校卒業後に就職した地元の資生堂のBCからはじまった。そしていま資生堂執行役員常務にまで登り詰めた。世界中に2万人以上いる資生堂BC、その頂点に立っているのだ。関根さんの活躍は多くのBCたちにとってもさぞ励みになっていることだろう。

春日:地方から実績をあげて天下の資生堂の執行役員常務になられたなんて凄いですね。

ドミニク:フランスでは学歴に関係なく実力でトップに登り詰める人物がよくいますけど、日本では珍しいでしょうね。しかも女性でしょう。

白井:関根はわたしたちの輝ける星です。

百合子:そういう女性の方が日本にもどんどん出てきて欲しいですわね。

立木:彼女はシマジよりはるかに背が高かったような気がしたけど。

シマジ:そうです。わたしが見上げるほどのすらりとした長身でした。しかも美人です。これぞ高嶺の花というんでしょうか。

百合子:どういうご本をお書きになられたんですか。

シマジ:資生堂で脈々と受け継がれている精神、おもてなしのこころとはなにかという内容ですが、それを関根さんの体験から具体的に告白して書かれています。一気に面白く読みました。

ドミニク:料理の世界でも、最高のソースはおもてなしというソースである、といわれています。

春日:いいことばですね。メモしておきます。

シマジ:それはシェイクスピアのマクベスの奥さんが語るセリフですよね。

ドミニク:きっとシェイクスピアがどこかの料理人から盗んだんでしょう。

シマジ:化粧品は対面販売だから、とくにおもてなしのこころが必要なんでしょうね。

白井:わたしたちが入社したときから叩き込まれる大切な資生堂の精神です。

シマジ:週末にはわたしも対面販売をしていますから実感しています。化粧品もそうでしょうが、商品というものは売ろうとすればするほどお客さまは逃げていってしまうものです。関根さんも本書のなかでこう書いています。「売りたいという気持ちが先に立ってしまうと、不思議と売上は伸びません」そして先輩から「わたしたちの仕事はお客さまの魅力を引き出すことなのよ」とアドバイスされたそうです。まあ、そこにおもてなしのこころが必要になってくるということでしょう。

立木:シマジときたら、バーにくるお客を呼び捨てにするは、お客を酔わせて財布のヒモを緩ませるは、というとんでもない商売をしているんだから、あれはおもてなしのこころというよりほとんど脅迫だね。

シマジ:突然、形勢が不利になってきた。ドミニクシェフ、メインディッシュはなんですか。

ドミニク:今日はエゾジカのソテーを用意しています。わたしは出来るだけ日本の食材で料理を作ろうと思っているんです。日本には春夏秋冬があり食材が豊富ですから。

シマジ:そのほうが新鮮でいいでしょうね。

ドミニク:そうです。沖縄のブタや富山の魚は抜群の素材ですよ。

立木:料理が出来るまでに、資生堂からわざわざいらしてくれたお嬢の話を訊いたほうがいいんじゃないのか。

シマジ:そうだったね。白井さんはもうベテランでしょうが、資生堂に入社して何年になるんですか。

白井:1987年入社ですから、早いもので27年間勤務しております。

シマジ:白井さんはいま美容統括の美容部長ですね。

白井:はい、今日はわたし、とても幸せなんです。一度、「ドミニク・ブシェ」のお料理を食べに行ってみたいと思っていましたので。

立木:それはよかったね。人生は運と縁だから、ご縁があったんでしょう。なんだかおれはシマジみたいなことを話しているようだ。

白井:しかもこちらのお料理は感動的な美味しさです。格別なお料理を食べると、明日も頑張ろうというモチベーションが上がりますね。

ドミニク:ありがとうございます。昨日パリから帰ってきたばかりですが、早く帰ってきた甲斐がありました。ではわたしはちょっと調理場に行ってきます。

シマジ:白井さんはどうして資生堂に入ったのですか。

白井:資生堂に入る前から、資生堂の化粧品が大好きで使っていました。子供のとき母の資生堂の化粧品をちょくちょく使っていたのです。

シマジ:それでは母上も資生堂の入社は喜んでくれたでしょう。

白井:そうですね。人と接し沢山の出会いを経験できる仕事として資生堂を選びました。入社してこころがけていることは、販売している弊社の商品をまずわたし自身が使ってみて、自分が体感したことをおもてなしの精神に則ってお客さまにお話するということです。そうすれば、お客さまが商品の使用感や使用後の肌状態をイメージしやすいのではないかと思います。

シマジ:わたしは毎週末、新宿の伊勢丹で働いていますが、本館1階の化粧品売り場の混雑は並ではありませんね。大西社長に聞いた話によれば、各化粧品メーカーからの出向の女性も含めて800人の美容部員たちが働いているそうですね。

白井:伊勢丹新宿店はわたしにとって思い出深いところです。通算9年間勤務していました。デパート自体、テーマパークのようにワクワクする演出が随所にちりばめられていてついつい長居してしまう空間ですから、わたしたち美容部員は期待以上の満足を提供出来る売り場づくりや人づくりに注力しました。

シマジ:関根さんの本で知ったんですが、彼女も販売拡大にずいぶん注力したようですよ。例えば、彼女が東日本ブロックの営業本部長になったとき、結果を出して期待に応えなければと焦り、部下に売上の数字を上げるように強要して「なんで出来ないの」と叱責したそうです。ところが部下はついてこない。落ち込んだ関根さんは山形県の実家の夫に電話してアドバイスを仰いだそうです。するとご主人が、「近子は、感情的になって人を叱りつけたり、人に順位をつけたりするような人間じゃないだろう。以前は『お客さまに喜んでもらえた』『こんな素敵な人がいた』と嬉しそうに話していたじゃないか」そこで関根さんはハッと目が覚めて、部下のよいところをみつけて褒めるようにしたら、売上成績もドンドン上がっていったと書かれています。

立木:お嬢、その点シマジはいつも部下を褒めて褒めて、ついには褒め殺しにしてしまうんだよ。

ドミニク:お待たせしました。エゾジカのソテーです。

白井:香りだけでもとっても美味しそうですわ。

立木:お嬢、ちょっと待って。おじさんが光より速く撮ってからね。あれ、なんだかおれはシマジみたいなセリフを連発しているよね。

シマジ:こんなにいつも一緒に仕事しているんだから仕方ないですよ。

立木:マズイよなあ。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

レストラン ドミニク・ブシェ トーキョー
〒104-0061
東京都中央区銀座5-9-15銀座清月堂ビルB1F/B2F
Tel: 03-5537-3290
>公式サイトはこちら (外部サイト)
※レストラン ドミニク・ブシェは2015年春に、銀座一丁目に移転いたします。
現在の銀座清月堂での営業は今月27日までとなります。

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