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第9回 銀座 レストラン・ドミニク・ブシェ トーキョー ドミニク・ブシェ氏 第4章 ユーモアに関してタダモノではないようだ。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

フレンチレストラン「ドミニク・ブシェ」は美しい店である。地下がメゾネットになっていて、地下1階のウェイティング・バーから階下のダイニングルームが覗けるようになっている。照明も素晴らしい。このときは他のお客さまがまだ食事中だったので、われわれはウェイティング・バーのほうを使わせてもらった。そこにはパリのグランメゾンの雰囲気が漂っていた。

シマジ:ドミニクは堂々とした体格をしていますね。

百合子:というより、少々太り過ぎなんです。

シマジ:そうですかね。料理人は痩せているよりバルザックみたいに恰幅がいいほうが、つくられた料理が美味しそうに見えますよ。

立木:大きな目が精悍で魅力的だね。

ドミニク:ムッシュー・シマジ、あなたはフランスの小説は好きですか?

シマジ:大好きです。

ドミニク:たとえばどんなものが好きですか?

シマジ:少年のころは『アルセーヌ・ルパン全集』を愛読し、高校生のころはスタンダールの『赤と黒』を貪るように読みました。すっかりその気になって、深夜の街をほっつき歩きながら「この田舎にはレナール夫人はいないのか」とこころで叫んだりしていたものです。それからバルザックの『ゴリオ爺さん』は何度も読みました。あの小説の登場人物のヴォートランに魅力を感じましたね。でもいちばん好きな小説はアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』です。あの作品は5,6回読みました。全7巻目の最後の言葉「待て、しかして希望せよ!」にはいつも痺れたものです。

立木:シマジに本の話をさせるとキリがないよ。

ドミニク:そこまでフランスの小説を読んでくれて嬉しいですね。

白井:先程から気になっているんですが、シマジさんの右腕の白いブレスレットはブランビジュなんですか。

シマジ:白井さん、鋭い観察力をお持ちですね。そうです。これはこのお皿と同じ材質のブランビジュです。伊勢丹のサロン・ド・シマジで販売しています。このブレスレットは自分で片手ではずすのが困難なので、誰かにはずしてもらわないといけません。だからいつも身に着けているんです。シャワーを浴びるときにも着けたままなんですよ。でもお皿と同様、丈夫で変色もしませんから楽なもんです。ブランビジュはアクセサリーとしてもスグレモノですよ。

春日:この白い玉の中央にはプラチナのチェーンが走っているんです。

白井:プラチナで繋いでいるんですか。しかも見えないところですよね。

シマジ:見えないところにお金をかけるのがお洒落なんですよ。
そうだ、春日さん、これはカップル向けに“貞操ブレスレット”と銘打って売り出してはどうですか。

春日:面白いですね。

立木:シマジ、ドミニクにお前の得意のジョークを聞かせてあげてはどうだ。彼はユーモアに関してタダモノではないようだよ。

百合子:ドミニクはしょっちゅうジョークを言っています。シマジさん、わたしが同時通訳しますから是非やってください。

シマジ:それでは以前文豪開高健が膝を叩いて「傑作だ!」と言ったジョークをやりますか。

立木:開高さんとシマジの面白いジョーク集があるんですよ。題して『水の上を歩く?』という本です。

春日:『水の上を歩く?』、それはまるでイエス・キリストですね。読んでみたいです。

シマジ:それがいまは絶版になっていて手に入れるのが難しいんです。この本は開高先生との共著ですが、自画自賛したいくらいの名著です。そのうち文化のわかる粋な出版社が復刻してくれることを祈っています。毒蛇は急ぎません。では、ひとつやりますか。

ドミニク:その前にデザートがきました。これはスフェールです。フランボワーズのアイスクリームが添えてあります。白井さん、コーヒーがよろしいですか、紅茶がよろしいですか。エスプレッソもありますよ。

白井:美味しそう、エスプレッソをダブルでください。このネット状のものはなんですか。

ドミニク:メレンゲ、一種の飴細工です。

立木:シマジ、気を入れて傑作をやってくれ。

シマジ:了解しました。これは開高先生から教えてもらったジョークと、わたしが先生に教えたジョークの合作です。
「モンマルトルの丘にサーカスがきて、明日が初日という忙しい晩にサーカスの団長宛に電話がかかってきた。
『人間の言葉をしゃべる馬がいるんだが、雇わないか』という。電話を受けた秘書が団長に話を伝えると、『明日が初日で忙しいときに、人間の言葉をしゃべる馬がいるだと?人をからかうのもいい加減にしろ!』と怒鳴って、受話器を秘書の手からもぎ取ってガチャンと切ってしまった。2,3分経つとまた電話のベルが鳴り、秘書が出るとさっきと同じ奴だった。
『団長、どうしてもあなたと直接話がしたいそうです』と恐る恐る受話器を団長に渡すと、しかたなく団長が代わって怒鳴りだした。
『このいかさま野郎!こっちは明日が初日で大忙しなんだ!」
すると電話の向こうの声も怒って、『こっちだって、ヒズメでプッシュフォンの数字を一個一個押すのは大変なんだぞ!』」

ドミニク:アッハハハ。

春日:アッハハハ、面白いジョークですね。馬がヒズメでプッシュフォンを押している光景が目にみえるようですね。

シマジ:「茫然としている団長のテントに、マントを着て青白い顔をした、痩せた若い男がやってきて言った。
『団長はいますか』
『団長はおれだけど、明日からサーカスを開演するところなんだ。いったい君はどんな芸を売り込もうというんだ?』
『わたしは空を飛ぶんですが‐‐‐』
『空を飛ぶ?おれは忙しいんだ。人をからかうのもいい加減にしろ!とっとと帰ってくれ!』
『ああ、そうですか。お邪魔しました。さようなら』
と言うと、男はマントを広げ、ファっと宙に浮き、唖然としている団長の目の前をゆっくりと空に向かって飛んで行った。」

ドミニク:アッハハハ。人の才能をちゃんと見ろという教えも含んでいるんですね。

シマジ:ドミニクはそこまで深読みしますか。

立木:何度聞いてもこのジョークは味がある。

百合子:ドミニク、あなたもジョークでなにかお返ししないといけないわよ。

ドミニク:うん、そうだね。ではわたしは食べ物のジョークをやりますか。
「ある貧相な若い男が病院に駆け込んできた。
『先生、今朝からお腹が死ぬほど痛いんです』
『夕べはなにを召し上がりましたか』
『スーパーで生ガキを安く売っていたので、それを買って家で食べました』
『生ガキの色はどんなでした』
『そうですね、全体にグレイで、ちょっと茶色のところや白いところもありました』
『それをどうやって食べたんですか。たとえばフライにしたとか、焼くとか、または生で食べるとか』
『はい、先生、生で貝殻のまま食べました』」

シマジ:アッハハハ。それはお腹が痛くなるでしょうね。多分、その若者はカキの食べ方を知らなかったんでしょう。

立木:フランスのカキは日本のように大きくないからね。

白井:今日はとっても愉しく美味しかったです。ありがとうございました。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

レストラン ドミニク・ブシェ トーキョー
〒104-0061
東京都中央区銀座5-9-15銀座清月堂ビルB1F/B2F
Tel: 03-5537-3290
>公式サイトはこちら (外部サイト)
※レストラン ドミニク・ブシェは2015年春に、銀座一丁目に移転いたします。
現在の銀座清月堂での営業は今月27日までとなります。

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