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第3回 南麻布 山田チカラ 山田チカラ氏 第3章 幸運の光が射す瞬間。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

「山田チカラ」は店の改装工事のため、5月の1ヶ月間を休業とした。その期間を利用して、山田はJAL国際線のシンガポール便に2回、ヨーロッパ便に2回、ロス便に1回、そしてハワイ便に3回搭乗した。山田チカラの創作料理がビジネスクラスの機内食となっている責任上、自ら乗って試食をしたのだ。これはなかなか出来ることではない。ヘルシンキに行ったときには、懐かしのスペインにもショートタイムで立ち寄った。山田にとってスペインは料理人としての腕を磨いた場所であり、店の経営を体験した戦場でもあるのだ。

シマジ:人生にはちょっとしたきっかけで幸運の光が射してくるものですね。山田さんはそのカメラマンに出会っていなければどうなっていたかわかりませんものね。

山田:まったくそうですね。そのころたまたま働いていたバルセロナの日本料理店のオーナーが60歳で急死したんです。わたしもお世話になっていたのでショックでしたが、未亡人となった夫人から「あなた、この店を買ってくださらない?」と言われたんです。これは借金してでも買おうと決心しました。店を持ち、ビザを取得できたらもう警察だって怖くない。幸いなことに店は格安な価格で譲ってもらいました。

立木:あなたをモデルとして見出したカメラマンは幸運の女神だったんだね。男とはいえゲイだから、女神と呼んで差し支えないだろう。

六角:たしかに出会いって人生で大事なことですね。

シマジ:それでもスペイン料理は相変わらず無給で働いて学んでいたんでしょう。

山田:はい。日本食の料理店も流行っていたので調子に乗って2軒目を出したんです。そこは日本酒バーとしてやりました。25、6歳でバルセロナで2軒の店のオーナーになるなんて夢のようでしたね。

シマジ:あなたはイケメンだからスペインの女性にモテたでしょうね。

山田:まあ、それほどでもないですよ。なんせ日本料理店を2軒やり、スペイン料理を学ぶために忙しかったですから。

山田:まあ、わたしのスペイン人生はシマジさんの言うように「運と縁」でしたね。人間万事塞翁が馬ですね。

シマジ:でも今度はハクがついてスペインから帰ってきたから、引く手あまただったでしょう。

山田:わたしはまず斉藤シェフのところに帰国のご挨拶と今後の相談に行きました。斉藤さんがちょうどアークヒルズに2軒目の「旬香亭グリル」をオープンしたばかりで、そこで斉藤さんのセカンドを務めることになったんです。

シマジ:斉藤さんはやっぱり面倒見がいい方なんですね。

山田:そんなときバルセロナで有名な3つ星レストラン「エルブジ」のスタッフが、オーナーシェフを含む5名で来日して、テレビの特番を作るという話がありました。その相談が斉藤さんのところへきたんです。「山田、お前がエルブジの連中の面倒をみてやれ」と言われて、わたしが通訳兼案内人になったわけです。

立木:それは大きな運が舞い込んできそうな気配だね。

山田:そうなんです。「エルブジ」のスタッフと仲良くなり、わたしが「エルブジ」で働きたい夢を持っていることを相談すると、オーナーシェフから「なにも問題ない。1ヶ月後に来なさい」と言ってもらえました。そこでまた斉藤さんに相談すると「お前が行きたかったら行ってこい。多くの技を盗んで来いよ」と言われました。そんなわけで再びスペインの地を踏むことになったんです。

シマジ:やっぱり人生は運と縁だね。

山田:でも1年間はまた無給で働きました。その後は有給でしたが、2年間で帰国しようと考えていました。それはちょうどわたしが30歳から31歳のころのことです。

シマジ:そして再び斉藤さんの「旬香亭グリル」に戻ってきたんですか。

山田:そうです。でも「エルブジ」とまったく一緒の料理を出しても日本人には受け入れられませんでしたね。

立木:なるぼど。スペイン語をそのまま読めと言っても無理なように、純粋スペイン料理は少し日本風に翻訳しないと理解して食べてもらえなかったんだね。

シマジ:しかし山田さんは若くして一流店での経験を積み、幸運のキップを手に入れたようなものでしたね。

山田:幸運のキップといえば、そこで働いていた女性と結婚したんです。超能力もあって占いもやる女性で、名前を「山田力」から「山田チカラ」に変えたのも妻のアドバイスです。

六角:山田さんは本当の意味で女神を見つけられたのですね。

山田:今度6月にリニューアルオープンする日取りも妻が決めてくれました。

シマジ:この店に大きな看板がないのも奥さまのアイデアなんですか。

山田:そうです。ここに茶室をつくる考えも妻のセンスでした。

立木:この店をオープンしたのはあなたが何歳のときだったの。

山田:35歳のときです。

シマジ:いま山田さんは44歳ですから9年目になるんですか。

山田:そうですね。

シマジ:そういえば奥さまもお店に出ていますよね。

山田:はい。協力してもらっています。

シマジ:でもここは朝の8時から12時まで朝食をやっているし、夜は6時から12時ごろまで営業していて、山田さんはいつ寝るんですか。

山田:なるべく睡眠時間を確保しようと近くに住んでいます。今のところは4、5時間寝れば大丈夫ですけど。

立木:職住接近って重要なことだと思うよ。シマジなんてパジャマを着たまま自宅から5、6メートル廊下を歩いて行けばそこが仕事場だから、ちょっと接近しすぎているけどね。

シマジ:山田さん、タッチャンだってエレベーターを降りればそこが事務所なんですよ。同じビルのなかで寝起きして仕事をしているんですから。

山田:それは楽ですね。

立木:おれの場合、それからが大変なんだ。アシスタントと一緒に外に撮影に行かなければ仕事にならない。シマジのように1日中パジャマというわけにはいかないんだ。

シマジ:そういえば、8月から「ワンマイル・パジャマ」という新商品を伊勢丹のサロン・ド・シマジで売り出そうとしているんですよ。

六角:「ワンマイル・パジャマ」ですか。

シマジ:家から1マイル(約1.6キロ)ぐらいの範囲でランチに行ったり、買い物に行ったり出来る、シャツ風のパジャマなんです。

山田:面白そうですね。興味があります。休みの日なんていいかもしれませんね。

シマジ:これはナポリの天才シャツ職人サルバトーレ・ピッコロとわたしのコラボで作ったシャツパジャマです。普通のパジャマでそのへんをウロウロすると病人に見られるでしょうが、これはお洒落なシャツ風で、ちょっとした外出までできるパジャマなんですよ。

立木:シマジ、まさか「山田チカラ」にそんなワンマイル・パジャマを着て、朝食を食べにくるんじゃないだろうね。

シマジ:「山田チカラ」と「サロン・ド・シマジ」本店の距離は残念ながら2マイル近くあるでしょうから、無理ですね。

六角:それは女性モノも売られるのですか。

シマジ:残念ながら男性モノしかありません。

山田:是非実物を見たいですね。

シマジ:毎週土日、わたしが午後1時からおりますから、伊勢丹のサロン・ド・シマジに遊びに来てください。先ほど山田さんに差し上げたSHISEIDO MENの全シリーズも売っていますよ。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

山田チカラ
東京都港区南麻布1-15-2 1F
Tel: 03-5942-5817
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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