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第6回 アトリエAirgead 須藤銀雅氏 第2章 友情が生み出す特別なマリアージュ。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

なによりも尊いものは友情である。「C-shell(シ・シェル)」の牧浦バーマンは、営業日、休日を問わずショコラティエの須藤銀雅をバーに呼び入れては、酒とチョコレートのマリアージュの研究に協力したという。
取材前の2人の会話を再現するとこういうことになる。

須藤:シマジさんはスモークしたものが好きなようですから「スモーク・チョコレート」を出しましょうか。

牧浦:それはどうやって作るの。

須藤:原材料の上質なカカオバターをたっぷり使ったクーベルチュール、生クリーム、少量のウォッカ、塩にそれぞれ桜チップとピートで薫香をつけて、ガナッシュ(中身の生チョコ)を作るんです。ほかの燻製食品では出せない、チョコレートならではの力強さとうま味を感じてもらうことができると思います。

牧浦:じゃ、その力強さに負けないように、こっちはJ.Mのラムを出そうか。6年物のX.Oで。

須藤:J.Mラムですか?結構特徴のあるラムですよね?

牧浦:そう。この原産国のマルティニーク島は火山島でね、この島独特の湧き水を使用しているから、ほんのりミネラル感があるんだ。このJ.Mラムならば須藤君のチョコレートとシマジさんのパイプタバコ「ヘレニズム」との豪快なバランスはきっと面白いと思うよ。しかし、このスモーク・チョコレートは伊勢丹の「サロン・ド・シマジ」のバーでよく飲まれている「スパイシーハイボール」にピッタリな気がするね。本当だったらスパイシーハイボールを出したいところだけど、あれは「サロン・ド・シマジ」ならではだからね。

シマジ:須藤の出身はどこなの。

須藤:弘前です。高校までそこで育ちました。

シマジ:またどうしてショコラティエになろうと思ったの。

須藤:じつはぼくは高校時代に3年間ボクシング部にいまして、フェザー級で闘っていたんです。57キロのフェザー級を維持するために、ぼくの場合、試合前は8キロ減量しなければならず、3年間、好きなように腹一杯食べることはできなかったんです。ある日、ハードな練習の帰り道で、ケーキ屋のショーウインドーに飾られていたケーキを見たとき、なんてことのない街場のケーキがぼくにとってはまるで宝石のように輝いて見えたんです。そこで高校卒業後、迷わず大阪辻調理学校の洋菓子部門に入学しました。

シマジ:へえ、ボクシングの練習のときの飢えが、パティシエの道に進ませたんですか。

須藤:そうなんです。でもケーキ作りを習っているうちに、どうもぼくはケーキ作りに向いていないなと思ったのです。第一、ボクシングをやっていたぼくからすると、ケーキ職人の世界は繊細すぎたんです。それでも石の上にも三年と言いますから、卒業後神戸のケーキ屋で6年間働きました。それから東京の恵比寿のロブションでパティシエとして半年間働き、そのあと一カ月間、信濃屋の配達のアルバイトをやっていたときに、チョコレートの有名店「ピエール・マルコリーニ」の求人を見つけて働くようになったんです。そこでチョコレートの面白さに惹かれたわけです。正規の仕事が終わってから1人厨房に残り、自分で買ってきた食材を使って研究に研究を重ねました。そのような練習をそのときのシェフ長が実務に支障が出ないのならばと暗黙のうちに認めてくれたんです。

シマジ:そういう上司に恵まれて、須藤は強運だったんだね。

須藤:そこで3年間修行したあと、いまから8カ月ほど前に、中野坂上に10坪の「アトリエAirgead(アールガッド)」を作って、おっかなびっくり独立したんです。

シマジ:でもはじめて須藤のチョコレートを食べたときの衝撃は忘れられない。一般にデパートで売っているチョコレートの味とはまったく違うと思ったよ。これはクセになる味ですよ。

須藤:ありがとうございます。

保科:わたしも驚きました。チョコレートを口に入れて昆布の味がしたのにはビックリしましたが、この個性的なチョコレートを考えた須藤さんが凄いです。

立木:シマジ、そろそろそのチョコレートの撮影をしたい。腕が鳴って仕方がない。

シマジ:そうしましょうか。じゃあ、須藤、ここへ作品を持ってきてくれる。4種類用意してあるんだよね。

須藤:はい、4種類作ってきました。まずは「スモーク」です。これを撮影してください。保科さん、こちらに別に作ってきましたから召し上がってください。シマジさんもどうぞ、つまんでください。

シマジ:うん、これはうちのスパイシーハイボールにピッタリのチョコレートだね。

保科:このスモーキーな風味はどうやってつけているんですか。

須藤:これはスモーキングガンという燻製器で原材料に薫香をつけているんです。

立木:はい、1個目は撮影終了!2個目はなんなの。

須藤:これはうちの定番で「バジルグレープフルーツ」という商品です。ジンのタンカレーNo.10がよく合います。

牧浦:これはキリンディアジオに頼まれて須藤くんが作った傑作です。

立木:今日の撮影はヤケに細かいね。

須藤:保科さん、こちらにも「バジルグレープフルーツ」があります。試食してみてください。

保科:わっ、美味しい!なんだかジントニックが飲みたくなりました。

シマジ:牧浦、ついでにおれにもジントニックを作ってくれる。急いで2杯お願い。

牧浦:了解しました。

立木:OK。次はなんなの。

須藤:シマジさんがスコットランドでボトリングしてきたシングルモルトに合わせて作った「インペリアル17年 Salon de SHIMAJI」です。

立木:また出た!ドクロのマークがついたシマジボトルだ。それにドクロ型のチョコレートが出てきたぞ。

須藤:シマジさんの「インペリアル17年」のキュートでフルーティーな味わいに合わせて、ペッシュサンギーヌというフランスの赤い桃で作ったピューレを使い、それにレモン、ドライアプリコット、バニラを配合し、タラゴンをペースト状に混ぜ込んで華やかで甘い香りを強調しました。ドクロの型を仕入れるつもりでいた取引先が夏休み中でしたので、自分でシリコンで型を作り、そこにチョコレートを流し込んで完成させました。

シマジ:職人は作ろうと思えばなんでもできるんだね。

須藤:いえ、これはたまたま怪我の功名でしたね。予定していた取引先からの仕入れが間に合わないと知ったときは焦りましたが、自分で型を作る作業に初めて挑戦して、何度も試行錯誤を重ねた結果、納得のいくものが昨日完成したんです。自分なりにピンチを切り抜けられたことはいい経験でした。それにオリジナルの型ですから好きなように作れますので、シマジさんのボトルに合わせて、このドクロにも葉巻を咥えさせてみました。

シマジ:嬉しいね。わざわざこの日のために、サロン・ド・シマジのドクロのデザインそっくりのチョコレートを作ってきてくれるなんて、須藤のえこひいきは最高だね。いつか必ずこのえこひいきの倍返しをするから、待っててね。

牧浦:はい、タンカレーのジントニックをどうぞ。

シマジ:では保科さん、スランジバー!

保科:スランジバー!

立木:また出たぞ。スランジバーが。よーし、ドクロのチョコレートは気を入れて撮り終わった。次は?

須藤:これもシマジカラー満載のチョコレートです。名付けて「レッド・ティー・シマジ」といいます。この撮影のために作ってきました。

シマジ:サロン・ド・シマジ専用の紅茶をわたしがブレンドしているのをよくわかってくれたね。これは5つの種類の茶葉をブレンドしていて、なかでも中国茶のラプサンスーチョンが決め手になっているんですよ。

須藤:ですからぼくもその辺を考えて、パッションフルーツとアフリカのモリンガパウダーを使い、それに紹興酒を入れて、中国産のウーシャンスパイス、五香粉を少し加えました。

立木:シマジ、いよいよえこひいきの倍返しをしないとイケなくなってきたぞ。撮影はOKだ。小さいけどきれいに撮れたと思うよ。須藤君、連載を愉しみにしていてね。

須藤:立木先生、撮影していただいたそのドクロのチョコレートを、どうぞ召し上がってください。

立木:ドクロを食べるのか。

須藤:これは縁起ものです。健康で長生きします。

立木:ではいただくね。うん、これは美味い!

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

アトリエ  アールガッド
東京都中野区中央1-20-34コート矢口1F
03−6318−0131
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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