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第6回 アトリエAirgead 須藤銀雅氏 第3章 オーセンティックバー専用のチョコレート職人。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

まあ、バーマンなら当たり前の話だが、荒木町の「Bar C-Shell(シ・シェル)」の牧浦侑は、酒のことならなんでも知っている。しかも自称“業界のアウトロー”と言っているように、彼はクラシカルなものに精通している一方で、常に新しいものを求め、生み出している。そんな彼の自信作は、栗を漬け込んだ“モンブラン”という季節限定のカクテルだ。これは簡単に言えば、栗を2週間ほど漬け込んだブランデーに、コーヒークリームを加えてシェークしたものだ。栗を漬けるときに半分は皮を剥き、半分は剥かない。そうすることで熟成の度合いの調整ができ、栗のほのかな甘みと苦味を引き出すこともできる。栗の風味豊かな、まさに“飲むモンブラン”のでき上がりだ。わたしはこのカクテルが好きで、シーズンになるとよく飲みに行く。生きていてよかった、と感じる瞬間である。
さてこの“飲むモンブラン”に合う須藤銀雅のチョコレートはどうだろう。2人の男が相談して決めたのは、こちらは須藤の自信作、“野生黒蜂蜜”だ。これにはインド産の黒蜂蜜を原料として使っている。野生の蜂が自由に飛び回り吸ってきたいろいろな花の蜜の集合体である。黒糖のような濃厚で複雑な旨味が特徴だそうだ。
この秋、“飲むモンブラン”と“野生黒蜂蜜”のマリアージュがじつに愉しみである。

シマジ:侑ちゃん、そろそろ“飲むモンブラン”が恋しい季節になってきたね。

牧浦:もう少し待ってください。たぶん、9月末でしたらご用意できます。

シマジ:あの“飲むモンブラン”と須藤が作った“野生黒蜂蜜”チョコレートが合うんだってね。

須藤:ぼくはまだ牧浦さん自家製の“飲むモンブラン”を飲んだことがありませんからなんとも言えませんが、牧浦さんが“野生黒蜂蜜”を1つ食べた瞬間、「これはうちの“モンブラン”に絶対合うね」と言っていましたから、そのときからぼくもこのマリアージュを愉しみにしているんです。

保科:それはどちらも美味しそうですね。

シマジ:ぜひお友達と9月末頃にここに来て“飲むモンブラン”と“野生黒蜂蜜”のマリアージュを味わってください。

須藤:保科さん、“野生黒蜂蜜”のチョコレートはこちらにあります。ぜひ召し上がってみてください。これはビターチョコがベースで、香り付けにドランブイを使っています。

保科:わあ、嬉しい。うん、これは大人の味がしますね。もう少し秋が深まってきた頃またこちらにお邪魔して、“飲むモンブラン”とのマリアージュを試してみます。

シマジ:あっ、思い出した。野生の黒蜂蜜というのはインドの森の奥の断崖絶壁で、命がけで収穫する貴重な蜜のことでしょう。

須藤:そうです。野生の蜂の巣から、“ハニーハンター”が命がけで採取してくる蜂蜜なんです。でもどうしてシマジさんがそこまでご存知なんですか。

シマジ:うん、たまたまこの間テレビで、お笑い芸人が現地に行った体験レポートを放映しているのを見たんだよ。

須藤:そうだったんですか。

保科:先ほど須藤さんがおっしゃっていたドランブイってなんですか。

須藤:それはスコットランドの薬草をウイスキーに入れて作ったリキュールです。スコットランドではよく食後に飲まれているようです。

牧浦:厳密に言うとドランブイに含まれている薬草は公表されてはいないんですが、蜂蜜というキーワードは出てきますね。須藤君の“野生黒蜂蜜”と相性がいいのは確かなはずです。まあ僕としては、ドランブイといえばハンフリー・ボガードが愛した酒、ということが真っ先に浮かんでしまうんですが。

立木:それも侑ちゃんらしくていいじゃないの。

シマジ:それにしても、須藤は凄い舌と鼻を持っているんだね。“野生黒蜂蜜”の最後の仕上げにドランブイを使うとは想像もできなかった。

立木:須藤はこれから売れっ子になるだろうね。そのうちテレビにも出たりして。

シマジ:でもタッチャン、須藤は自分のチョコレートを、オーセンティックバー専用として売っていくそうですよ。

須藤:その精神というか商法というか、そこは貫きたいですね。ぼく自身、昔からバーが好きでお金が無いのに通ったりしてましたし、バーマンやバーテンダーといわれる人達が好きなんです。彼らから、こういうカクテルに合うチョコレートを作ってほしい、などと言われると、胴震いするくらい興奮します。

シマジ:なるほどね。それにしても、このチョコレートが収まっている宝石箱のような木箱、これがまた素晴らしいね。

須藤:ありがとうございます。この特製木箱はバーでお客さまにチョコレートが提供される際に、より高級感を演出するための木箱です。オーダーメードで、職人さんにひとつひとつ製作してもらっています。

シマジ:この木材の質感がいいね。

須藤:この箱は九州の材木屋さんから仕入れた上質な木材で作られているんですが、この木材の質感とデザインとのバランスも大事にしたかったので、職人さんとじっくり相談して決めました。

シマジ:すべてのものに言えることだけど、見た目って大事だよね。その点、須藤はなかなかいいセンスをしているね。ところでもし実際にどこかのオーセンティックバーがアールガッドと契約して、この“宝石箱”を買うとしたらいくらで買えるの。

須藤:専用木箱が3000円、プラス紙箱代300円でご案内させていただいております。

シマジ:こんな立派な木箱で3000円ですか。安いんだね。

保科:この箱だけでも欲しくなりますね。

須藤:あいにく一般の方にはチョコレートも木箱もお分けすることはできないんです。ごめんなさい。

シマジ:あくまでもオーセンティックバー専用にこだわっているんだ。

須藤:そうなんです。ぼくはバーという場所が大好きですし、そこで働くプロフェッショナルの方達を尊敬しているんです。ですから、カクテルでもシングルモルトでもラムでも、彼らに言われればなんなりと、ぼくのチョコレートとのマリアージュをさせていただいています。それぞれのお店のお酒とぼくのチョコレートで特別なマリアージュができたら、最高に幸せです。いまの夢はもっともっと日本中のオーセンティックバーのマスターにこのチョコレートの事を知ってもらい試して頂きお酒とチョコレートのマリアージュの醍醐味を知っていただくことですね。

立木:キミは若いのに自分のチョコレートに確かな自信を持っている。聞いていて気持ちがいいね。それに気前がいい性格だね。

須藤:ありがとうございます!

シマジ:この連載の閲覧数は5万ヒットもあると聞いているから、多くのオーセンティックバーのバーマン達が読んでくれているだろう。きっと反響があるんじゃないの。でも、レストランには置かないんだね。

須藤:仮にレストランで扱いたいという問い合わせがあっても、席数が多かったりで、サービスする側とお客様との会話の時間が十分に持てないという理由でお断りしています。お店側がAirgeadのコンセプトを理解して頂き、アルコールの種類も豊富であればご相談もできますが基本的にはバー専用というところにこだわっています。

立木:若いのに偉い!人生にはこだわりが大切だよ。

須藤:立木先生、ありがとうございます。頑張ります。

シマジ:しかしこの須藤のチョコレートはたしかに1個1個こだわりがあるね。そこがまた売りなんだ。アトリエはどこにあるの。

須藤:中野坂上です。まだ独立したばかりでアトリエは狭いです。

シマジ:狭いって?

須藤:たった10坪なんです。

立木:10坪あったら十分じゃいないの。シマジの仕事場なんてその半分の5坪もないんだぜ。そこでオジサンはいつもシマジの取材につきあってこき使われているんだよ。

保科:そうなんですか。シマジさんの連載で立木先生が撮影された写真を拝見して、広々した素敵なサロンに見えていましたが。

立木:そこがおれのテクニックなんだよ。でもシマジはひどいね。たまに人数が多いときがあって、現場はもう酸欠状態になるんだよ。そんななかで一人、みんなの迷惑も省みずにいつも悠々と葉巻を吸っているんだから。

シマジ:そうだ、今度、葉巻に合ったチョコレートを作ってみたら面白いかも。

須藤:それが、ぼくはお酒はいくらでも飲めるんですが、葉巻が苦手なんです。あるバーで1本吸わせていただいたことがあるんですが、気持ちが悪くて失神しそうになってしまいました。

シマジ:たしかにシガー酔いってあるからね。慣れるまでちょっと時間がかかるかもね。

須藤:でも、ぼくの場合は体質的に受け付けないようです。

シマジ:そうか。それは残念だね。あの、葉巻を吸うときの極上のまったり感は、また格別なものがあるんだけどね。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

アトリエ  アールガッド
東京都中野区中央1-20-34コート矢口1F
03−6318−0131
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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