第2回 神宮前 La Patata 土屋孝一氏 第4章 経験は、やがてその人の味になる。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

ベテラン料理人の土屋シェフによれば、食材の味は、そのとき動物が食べている餌がかなり影響するという。たとえばヤギのチーズ、ペコリーノ・ロマーニャは、ヤギが夏草を食べているときと、冬の飼料を食べているときとでは、チーズの香りも味も違ってくるそうだ。
確かにそうかもしれない。わたしの好物である北海道のヒグマの脂の部分がナッティなのは、冬眠する前のヒグマが、クルミやクリやドングリを食べているからだとすると納得がいくのである。
また土屋シェフはお店の側のエチケットとして、例えば週に2度訪ねてくるお客さまに対して、その2度目であっても必ず「お久しぶりです」と迎えるそうである。そのお客さまが仮に1度目とは別の女性を伴っていたとしても、安心して来店できるようにという配慮らしい。これは大人の店としての見事なエチケットではないだろうか。

シマジ:廣井さん、単刀直入にお訊きしますが、働き先として資生堂を選んだのはどういう動機からですか。

廣井:じつは最初は商社に入社したんです。自動車向けの半導体の代理店業務を担当していました。商社営業は業務スコープが幅広く、ロジスティック、品質関連、新製品の受注など多岐に渡っていたんですが、そのなかでもとくにわたしが面白く感じたのは、新製品受注に向けた営業とマーケティングでした。3年から5年先の自動車業界をあらゆる角度から予測し、必要な商品を仕入れ先のメーカーに提供する仕事でした。でも商品化の提案はできても、実際に商品にするかしないかはメーカー側の判断に依りますので、メーカーの財政状況によっては頓挫することもあったりします。ある特定の分野で将来必要になるものを自分が一番知っているはずなのに、商品が提供できないもどかしさというか、メーカーの強さというか、そういうものを実感しているうちに、自分がメーカー側に移ることを考えるようになり、最終的に決意しました。そして、どんなに辛いことがあっても乗り越えるための心の支えとなりうる、自分が大好きな化粧品メーカーを選びました。日本のオリジンで世界に日本の物作りの素晴らしさを伝えたい思いで、グローバルでも競争力がある資生堂を選んだわけです。

シマジ:廣井さんは男性顔負けのビジョンをもった方なんですね。頼もしいです。現在は資生堂でどういう職場にいらっしゃるんですか。

廣井:現在はブランド「SHISEIDO」のデジタルマーケティングに携わっています。デジタル上でお客さまにいかにブランド体験をしていただくかの戦略に基づいて、実現していくための戦術を考え、各国で使える素材を作成しています。

シマジ:廣井さんは商社に何年に入社して、資生堂にはいつ頃転職したんですか。

廣井:商社に入社したのは2009年でした。それから資生堂に入ったのは、2013年でした。はじめは系列第2事業部というドラッグストアの営業組織を経て、九州・沖縄事業部に配属されました。2017年からグローバルプレステージ事業部本部SHISEIDOブランドユニットに所属してデジタル担当をしています。

シマジ:前職の商社では、印象に残っていることはなにかありますか。

廣井:そうですね、社会人2年目の夏休みを目前にしたある日、「明後日からお盆休みだけど、アリゾナに行ってこい」と言われました。まだ日常業務もままならない新入社員のようなわたしに突然、300億円の売り上げがかかったビジネスを決めてこいという、なんと無茶な会社だとそのときは思いましたね。通常、はじめての海外出張には上司の付き添いがあるのですが、そのときはリーマンショック直後でしたので誰にもついて行ってもらえませんでした。日本でもクルマの運転がおぼつかないわたしがアリゾナで運転する必要に迫られて、仕事以外でも緊張が続く出張でした。もはや絶体絶命とはこのことを言うんでしょうか。46度の灼熱のアリゾナでさらに追い打ちをかけるように、「ここで頑張らずに、いつ君は頑張るんだ」と先方のお客さまを怒らせてしまう状況が発生したんです。でもそのとき自分のなかでなにかが吹っ切れて、やらずに失敗するなら、やって失敗してみようと思ったのです。そうしましたら、いろんなことが好転するようになり、数々の難局を乗り越えて、そのビジネスは無事に成功したんです。前職でも資生堂でのキャリアでも苦しいことや辛いことはいろいろありますが、いつでもアリゾナのあのときの経験がわたしの糧になっていると思います。そして自分が大変なときに一緒に乗り越えてくださった方や叱咤激励してくださった方々は、いまでもわたしの宝だと思っています。

シマジ:まさに可愛い子には旅をさせろということですね。社会人として経験もない若者が、一人前の大人になるのは大変なことですものね。

廣井:わたしが恵まれているのは、いつも誰かしら必ず助けてくれる方がいることです。

シマジ:それはきっと性格が可愛いからではないですか。人から可愛がられるということも才能の1つでしょう。ところで本日はなにがいちばん美味しかったですか。

廣井:はい、全部美味しかったです。朝食もランチも抜いてきてよかったです。

土屋:ありがとうございます。

シマジ:あえて1つ上げるとしたらなんですか。

廣井:温泉タマゴと一緒に食べたホワイトアスパラかしら。でもヤリイカも捨てがたいですね。それから自家製の野菜サラダも抜群でした。あの大きなルッコラの葉っぱはいい香りがして味もよかったです。 ふんだんにサクラエビのかかった、カラスミのパスタも美味しかったです。

シマジ:それでは結局今日の料理の全部になりますよ。

廣井:1つだけ選ぶのはわたしには正直難しいです。悩ましいことです。

立木:あんまり彼女をいじめないほうがいいんじゃないの。シマジ、お前は一品選べと言われたら、なんなんだ。

シマジ:わたしも悩むところですが、あえて1つ選べと言われたら、酸味のあるドレッシングで和えたホワイトアスパラですかね。ヤギのチーズ、ペコリーノ・ロマーニャとサマートリュフが秀逸でしたね。土屋シェフ、ホワイトアスパラはこれからもっと太くなりますよね。

土屋:なりますよ。フランス産の次はイタリア産が出てきます。むかしはなかなかフランスものもイタリアものも手に入らなくて仕方なく北海道産を使っていたこともありましたよ。それにしてもシマジさんはホントにホワイトアスパラがお好きなんですね。

シマジ:いつごろまでありますか。

土屋:あと1カ月は十分にありますよ。だんだん太くなっていきます。香りも濃厚になってきます。

シマジ:ホワイトアスパラは一度茹でてから焼きを入れるのが面白いですね。

土屋:そうすることでホワイトアスパラの香りが一段と引き立つんです。

廣井:また来てもいいですか。

土屋:どうぞ、どうぞ。お待ちしております。

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