第10回 双葉社 週刊大衆編集部 手塚祐一氏 第4章 サロン・ド・シマジにもう1人“B男”が現れた。

<店主前曰>

肌チェックでBを獲得した、サロン・ド・シマジの常連で34歳のシラカワが大きな顔をしてのさばっていられたのは、なんとたったの3日間だけだった。三日天下とはまさにこのことだろうか。伏兵は43歳の外資系IT会社に勤めるモリマサ・タカシであった。モリマサはマスターの肌をみて刺激を受けて、1年前からSHISEIDO MENを朝晩徹底的に使った。努力の甲斐あって、去年の暮れにCになったと報告を受けた。ところがシラカワがBを獲得して両手のVサインで凱旋したウワサが流れた翌々日、モリマサは伊勢丹本館の1階にあるSHISEIDOで肌チェックしてもらった。判定の結果、なんとモリマサにも男では珍しいBが出たという。
 嬉しくなったモリマサはメンズ館8階のサロン・ド・シマジに一気に駆け上がってきた。
「コウガさん、ぼくもBを獲得しました。シマジ先生に電話をしてください」とマスターが不在のとき、バーを守っているシマジ・ガールズの1人のコウガにいった。
「もしもし、シマジ先生ですか。モリマサさまもまた本日Bに昇格したそうでございます」
「本当か。シラカワはさぞショックだろう。こうなったら2人のうち、どちらが先にAになるか、競い合わせようじゃないか。早いほうに福原名誉会長と会食する権利をご褒美として与えよう」
 モリマサはマスターの8冊の著作はおろか、すべての連載から断簡零墨まで読み込んで、しかもインデックスのように記憶している男である。モリマサとマスターの出会いは面白い。モリマサは大の美食家で無類の愛妻家である。いまから3年くらい前のことだ。マスターが親しい三枝成彰と2人で恵比寿のマサズキッチンのカウンターで食事をしてときのことだ。突然「シマジ先生ですよね。ぼくは先生の大ファンです」と美しい愛妻をほったらかしにして、モリマサは”じかあたり”してきたのである。マスターはさきほどからチラチラこちらをみているこの男の視線は感じていたが、多分クラシックファンで三枝をみているんだろうと、高をくくっていた。あとで聞いた話によれば、三枝成彰のことは眼中になかったそうである。熱狂的なシマジ信奉者はそれから長いファンレターと高級なシングルモルトを送ってよこした。マスターにとってシラカワもモリマサもどちらも可愛いのである。もし奇跡が起きて同日同時刻に2人一緒にAをゲットしたら、福原さんにお願いして2人を同時に紹介することも出来るのだが、とここのところ毎日悩んでいる。

シマジ そんなわけでいまサロン・ド・シマジでは、男たちの肌チェックが大流行しているんだ。

木水 それは大変いいことです。

マルタン 日本の男性もヨーロッパに負けていませんね。この間、スペインのデパートのSHISEIDOカウンターに行ったら、やっぱりスペインの男性も肌チェックしていましたね。

テヅカ ぼくもSHISEIDO MENの5点セットを使って、1ヶ月後にチェックしに行ってきます。

シマジ そうだ。ひとついい忘れていたことがある。テヅカ、冬は唇が荒れるからSHISEIDO MENのリップトリートメントを使うことも重要だった。

木水 そうですよ。とくに冬にゴルフする男性には大切なお手入れです。

立木 へえ、これは無色無臭なんだ。

木水 そうです。

シマジ 男がつけるのに、色がついていたらおかしいだろうね。

立木 あと100年もしたらそうなるかも。

テヅカ たしかにこれからの世の中何が起こるかわかりませんね。

シマジ テヅカ、おまえが最近「週刊大衆」で取材した衝撃的な記事は何だった。

テヅカ 「特殊清掃員が見た熟年孤独死の衝撃現場」ですかね。

シマジ 現代では人の繋がりが希薄になりバラバラに生きているから、孤独死のニュースはよく耳にするね。多発しているようだね。

テヅカ 内閣府がまとめた2011年度版の「高齢社会白書」によれば、孤独死とは誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置される、と書いています。今回ぼくはこうした現場で故人の悲しい痕跡と日々向き合う特殊清掃員に話を聞いてきたんです。

シマジ 凄い話になってきたぞ。たまには日本の暗い恥部を凝視するのも大切なことだよ。

立木 シマジにしては大真面目じゃないか。

シマジ どんな死も死は荘厳だとおれはいつも思っている。

テヅカ 孤独死と思われる遺体が発見されると、いかなる作業が行われるか、みなさん、ご存じですか。

シマジ 知らないな。

立木 さすがの雑学の大家のシマジでも知らないのか。

シマジ じゃあ、タッチャンは知っているの。

立木 もちろん、おれも知らないね。

テヅカ まず一報を受けた警察による検死が行われる。その後遺体は一度所轄の警察署に運ばれて行き、死因を含め事件性の有無を調べるのです。

シマジ 人間1人がお隠れなるのは大変なことなんだ。

テヅカ 遺体が運び出されたあと、その部屋を遺族や大家などの依頼で原状回復する仕事が特殊清掃員の役目なんです。ぼくが取材したYさんは、ゴミ屋敷などの清掃を含め年間約100件の特殊清掃をこなしている人でした。Yさんは先日孤独死した70代の男性の部屋の特殊清掃したばかりだそうです。「その部屋はトイレも風呂もない6畳間に小さなキッチンがついた木造アパートでした。依頼してきた甥っ子さんによると、故人は元公務員でずっと独身だったそうです」とYさんはいっていました。

シマジ 多分彼だって若いときは恋のひとつもしただろうに。素敵な親友と肩を組んで飲み歩いたことだろう。おまえは偉い子だったと母親に頭を撫で撫でしてもらったこともあっただろうなあ。

テヅカ 検死した警察によると、死因は衰弱死。「部屋の状況からみると、おそらく死後1週間近く経っていたと思います」とYさんは推測していました。「亡くなった直前にベッドから落ちたらしく、ベッド脇のカーペットには人型がくっきり残っていました」といっていて、それは死痕というそうです。

シマジ 残酷すぎる話だね。こんなことが都会のど真ん中で日常的にいま起きているんだろうな。

立木 テヅカ、ご苦労さん。もういいよ。すさまじい現実をみせてくれてありがとう。胸が苦しくなってきた。シマジ、この部屋の空気を変えてくれ。

シマジ その方の死に哀悼を表して、それでは話題を変えますか。

テヅカ スイマセンでした。

シマジ おまえが悪いんじゃないよ。政治が悪いんだ。いや、その人の生き方に問題があったんだろう。”人生は生まれ苦しみそして死ぬ”とサマセット・モームが『人間の絆』で書いているが、たしかに人間は大なり小なりそういうことだな。じゃあ話題を変えて、最近おれが笑った話をしようか。朝おれがヒゲを剃っていると愚妻がやってきてこういったんだ。「いま73歳のお年寄りがオレオレ詐欺にひっかかって2,000万円の被害にあったというニュースをやっていたけど、あなたは絶対大丈夫ね」とバカにしたように笑っていった。「どうしてだ」とおれが訊くと、愚妻はこういったんだぜ。「だってあなたはお金が入るとすぐ何か買ってモノにしまうから、たくわえがないでしょう」
「なるほど。それは真実だな」とおれはいたく感心して大笑いしたんだ。

立木 アッハハハ。それはシマジらしくていいじゃないの。

テヅカ シマジさんの信条は”美しいモノをみたら迷わず買え”ですものね。

シマジ 身の丈の浪費をしている限り、孤独死とは縁遠いんだよ。

立木 毎日SHISEIDO MENをぬりたくっている70代の男には孤独死は似合わない。

シマジ しかしタッチャンもおれも70代だけどよく働いているものね。今月だっておれはタッチャンと3日も一緒に仕事をしているんだよ。

立木 しかも安い仕事ばかりをね。

テヅカ ぼくもこれから死ぬまでSHISEIDO MENを使おう。孤独死は結局みんなに迷惑かけるんですよ。ぼくは孫に看取られて死にたいですね。

シマジ その意気込みだ。同じ一生だ。格好つけて生きるのもこれまた人生だよ。お洒落するのは人にみられたい、人と交わりたいと思う欲望から出てくるものだ。動物のなかで美しいものにこころ感動するのは人間さまだけなんだ、と今東光大僧正がいっていた。

立木 シマジ、ロマンティックな面白しジョークをやってくれ。気分を変えたい。

シマジ じゃあ、やりますか。パリのキャバレーで大当たりをしているマジシャンがいた。そのウワサを聞きつけてハワード・ヒューズが目がくらむほどのギャラでマジシャンをラスベガスに招聘した。そのマジシャンの人気の秘密は、オームのポアンが魔術をやっている彼のそばで、片っ端らから種明かしをしちゃうところにあった。さて、マジシャンは大の飛行機嫌いだったので、サウサンプトンからポアンとともに豪華船でアメリカへ向かった。ところが、タイタニック号と同じように氷山にぶつかって難破した。何とかマジシャンとポアンはゴムボートで漂流をはじめたが、どうしたことかいつもはおしゃべりのポアンがじっと思い沈んだままで口を開かない。一夜あけ、一日たち、二日たったが、ポアンは沈黙しているではないか。たまりかねてマジシャンがかき口説いた。
「ポアン、おまえはいったいどうしたんだ。頼むから口をきいてくれ」
するとポアンはようやく口を開いていった。
「ずっとぼくは考えているんだけど、あんたがどこへ船を隠したかわからないんだ」

立木 アッハハハ、面白い。じつに知的だ。

木水 オームのポアンが可愛いですわね。

テヅカ シマジさんはこんな素敵なジョークをどうして仕入れるのですか。

シマジ ジョークの好きなジョーク・コレクターにじかあたりして仕込むんだよ。だから軍資金がかかっているんだ。

もっと読む

商品カタログオンラインショップお店ナビ
お客様サポート資生堂ウェブサイトトップ

Copyright 2015 Shiseido Co., Ltd. All Rights Reserved.