錫100%の酒器ができるまで

  • Part1 錫の特性
  • Part2 職人技

Part1“錫100%”は、浪漫を感じさせてくれる金属

※2014年11月9日をもってプレゼントの応募受付は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。
今回のプレゼントの品、錫(すず)製の酒器セットは、富山県高岡市のメーカー「能作」のもの。「世界ではじめて錫100%の製品を手がけたのは、当社です」という社長の能作克治さんに、誕生の背景と錫100%ならではのメリットをうかがった。

錫100%を叶えたのは、伝統の技術と柔軟な発想

富山県高岡市に鋳造(ちゅうぞう)技術が持ち込まれたのは、江戸時代初期のこと。高岡に築城した加賀藩二代藩主前田利長が、町に産業をつくるため、関西から7名の鋳物師(いもじ)を招いたのがはじまりだ。以降400年以上に渡り、高岡では鋳物産業が栄えることに。江戸時代後期からは銅器が中心に製造され、現在でも「高岡銅器」は伝統的工芸品のひとつとして、広く知られている。

「能作」も大正創業以来、真鍮(しんちゅう)を中心に製造を行ってきた。10年ほど前から、オリジナルで製作している錫100%の製品は、その技術を集結したものだ。

「錫は、柔軟性が高い金属。錫100%の製品は、手でかんたんに曲げることができます。加工が難しいうえ、どのメーカーも、柔らかいものを金属として製品にしようとは考えなかった。そのため、錫と鉛(なまり)との合金ばかりが使われてきたんです」

だが「他社と同じことはしたくなかった」という同社は、その特色を逆手に取り、自在に形を変えられるカゴなど、斬新な製品を次々と開発。錫100%の製品は、チャレンジングな精神と、脈々と受け継がれてきた技術が融合して、生み出されたものなのだ。

能作克治さん インタビュー

器として使えば、酒がまろやかな味わいに

錫100%の器

錫の特徴は、柔軟性だけではない。錫100%の器は、注ぐだけで飲み物の味を変化させる、不思議なチカラも持っているという。

「辛口の日本酒は、まろやかに変化。安い日本酒にありがちな舌にピリっとくる刺激も、和らぎます。若いワインの場合は、コクが増し、香り豊かに。ジュースならば、酸味がマイルドになります。焼酎や水、コーヒーなどを注いでも、同様。注いだ瞬間に味が変わり、100人に飲み比べてもらうと、99人が実感するほどです」

これは、味覚センサーで調べ、科学的にも証明されている。しかし、錫のなにが原因してその作用が起こるのかは未解明。現代の技術をもってしても錫100%の特性は謎に包まれた部分が多い。

実は、錫の酒器としての歴史は古く、平安時代の宮中でも用いられていたという。錫は、金・銀に次ぐ高価な金属。それゆえ、宮中や神事に関わる人々など、特権階級のみが使用することができたとか。

「さらに古くは、正倉院に納められた宝物にも、錫製のものがあります。レオナル・ド・ダヴィンチが描いた『最後の晩餐』に描かれている食器も、錫製なんですよ」

古来、価値ある金属とされてきた錫。それを知ったうえで晩酌すると、さらに深みのある味わいに感じられそうだ。

錫は、地球の一部であり、未来を切り開くもの

味を変化させることに加え、滅菌性の高さも、錫の特製のひとつ。

「錫を入れた水は腐らないといわれ、昔は、井戸を掘ると錫のカタマリを投げ入れていた地域もあるほど。さまざまな菌を防いでくれるのですが、不思議と人体に悪影響はないんです。タンブラーなどに切り花を生けると、美しさを長く楽しむことができますよ。この性質を活かし、脳外科用の手術道具など、医療分野への本格的進出も予定しているところです」

凛としたメタリックな佇まいを持ちつつも、長い間、人々の生活にやさしく寄りそってきた錫。さらに、新たな未来を切り開く可能性をも秘めている……。そんなスケールの大きさも、錫の魅力といえよう。

また、能作さんはこうも語ってくれた。

「鋳物の仕事は面白い。原料は、地球の内部から掘り起こした錫鉱石。地球の一部を溶かして、器が生み出されるんです。そういったことに想像を馳せながら、夜更けにお酒を楽しむのも、素敵ではないでしょうか」

能作カゴ

平たい板状の錫を立ち上げてカゴや器にしたり、折り曲げて箸置きにしたり……。錫100%の柔軟性を活かした、遊び心溢れる製品。曲げたり、もとの形状に戻す際には、錫の分子同士がすれ合うピキピキという高い音が楽しめる。ユニークな製品を生み出す理由をうかがうと、「伝統は守らなければというけれど、そうではない。必要なのは、革新です。どんどん新しいものを生み出していかないと、伝統産業は消えてしまう」と話してくれた。

能作ビールグラス

錫の器の外側には、陶器のようなザラつきがある。金属製でも表情があり、和風の食器と相性がいいのは、このため。「控えめな銀色も、日本人好み。使い込むと、いぶし銀のように重みを感じさせる風合いになっていきます」と能作さん。また内側は、より凸凹の大きな砂肌になっており、ビールを注ぐときめ細かな泡立ちに。錫は熱伝導率がよく、冷蔵庫に入れなくても、冷たい飲み物を注ぐだけで器自体がキンキンに冷えるところもビールグラスにピッタリだ。

能作酒器

錫100%の器に金箔や銀箔を施した、華やかなものも。日本酒を注ぐと、箔の反射で、液体自体が光っているように見える。「錫の器は、お酒の味を変える。内側が金・銀の器は、見た目を美しく演出する。錫が直接触れないので、味はそのまま。ふたつの器で、飲み比べてみるのも、オススメです」と。ちなみに、金箔は、高岡と同じく加賀藩の一部だった、金沢の工芸品を使用している。栄華を極めた加賀の歴史に思いを馳せつつ晩酌するのも、一興。

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能作

昔ながらの鋳造技術を用いた仏具製造はもちろん、新たな鋳造方法の開発、テーブルウェアやインテリア雑貨などの製造を手掛ける。東京・大阪に直営店を構えるほか、世界に向けた商品開発・販売も。
www.nousaku.co.jp

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