錫100%の酒器ができるまで

  • Part1 錫の特性
  • Part2 職人技

Part 2“ほかにはない”ものづくりを支える舞台裏

錫100%の製品をつくる難しさは、その柔らかさと融点の低さにあるという。高岡に古くより伝わる鋳物の技術を用いた、「能作」の製造工程を見せていただいた。

世界が認める錫100%は、伝統と職人の努力の結晶

今回紹介するのは、「高岡銅器」にも用いられる、鋳造技法のひとつ。Part1でもうかがった通り、能作さんによれば、錫100%の製品化が可能だったのは、この高度な技術のおかげとか。

「旋盤(せんばん)加工といって、材料となる金属を回転させ、刃物をあてることで形をつくる技術がありますが、そのやり方では、錫は扱えません。粘土にヤスリをかけるのと同様に、材料が柔らか過ぎて無理がある。しかし、金属を型に流し込む鋳造の技術ならば、純度100%の錫を扱うことができるんです」

とはいえ、前例がない金属であるため、職人たちに求められた技術とそれに伴う努力は並大抵のものではなかったはずだ。現在、「能作」が生み出す錫100%のテーブルウェアやインテリアは、パリの高級ホテルなどでも、使用されている。世界でも高い評価をうけるのは、日々、職人たちが腕を奮う、舞台裏があってこそといえるだろう。

■「生型」づくり

錫の器は、主に「生型(なまがた)鋳造法」と呼ばれる手法でつくられる。「生型」をつくるために使うのは、器と同じ形の「原型」と、「鋳物砂」と呼ばれる砂。「原型」を砂のなかに埋め、押し固めてできたものが、「生型」だ。右の画像でまぶしている明るい色の砂は、器の表面に表情をつけるために使用される「肌砂」と呼ばれるもの。

手元

■砂を固め、合わせる

型に砂を用いるメリットのひとつは、細かな隙間から、金属が固まる際に発生するガスを逃がせること。そのため、崩れず固くなり過ぎない、絶妙な力加減でプレス。職人の腕の見せどころだ。固まった凹凸の型は、上下に組み合わせて使用。その隙間に溶かした錫を流し込むことで、器の形ができ上がる。型を合わせる際は、崩れないよう細心の注意が必要。

中縫い

■流し込み

銅の融点は、1000度以上。対して錫の融点は、たった231度。非常に低い温度でこと足りるため、ガスコンロを用いて溶かしていく。ただし、固くなるのもあっという間。複雑な型だと、流し込んだ錫が型のすみずみに回り切る前に固まってしまうことも。そのため、型に流し込む順番を調整したり、流し込みの勢いを変えたりと、経験から導き出された、温度管理とタイミングがものをいう。

ダボ布つけ・つつみ

■研磨作業

固まった錫を回転するパフに押し当て、表面のバリを取り除く。器は唇の触れる部分を、とくに念入りに整える。当てる角度や強さにより仕上がりに差が出るため、熟練した技術が要される工程だ。錫は、その柔らかさゆえ、その他の金属以上に集中力を使うという。この作業が終わると、やっと完成!

先玉つけ・中とじ
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