作品集の制作や様々な媒体で幅広く活躍する、フォトグラファーの澁谷征司さん。静けさと存在感が同居する、アウスレーゼの広告写真もまた、彼の作品だ。感情を動かす写真を撮り続ける澁谷さんに、飾りたくなる写真の撮り方と、デジタルフォトフレームの楽しみ方を伺った。
写真を撮るときって、つい頭で考えてしまいますが、僕はいつも、感情に突き動かされて撮りたいと思っているんです。ものの見え方って、過去に見た作品などに左右されていて、それに近いものを撮ろうとしてしまいがちですよね。でも、そういう写真は、硬いしおもしろくない。活き活きした写真を撮るうえでは、被写体の“正面”を探すことが大切だと思うんです。人と話をするとき、ふと落ちつくなと思う距離や角度があるように、対象物を見ていると「目が合ったんじゃないかな?」と、直感的に感じる瞬間がある。そういう“正面”の位置から撮ると、より伝わる写真になると思うんです。
僕はまだそこに達していないけれど、成熟した男性って、酸いも甘いも知っていて、時に無邪気ですよね。構図や蘊蓄に捕われることなく、その無邪気さをもって写真を撮ることができたら、ピントがちょっとずれていようが、面白い写真が撮れるんじゃないでしょうか。僕自身も年齢を重ねたときには、もっともっとテクニックから解放されていて、広がりがあって、上手なのか下手なのかわからないんだけど、見た人がポーンと入り込んでいけるような、そんな写真を撮りたいと思っているんです。
僕は写真集を作るとき、作品の並びを考えるためにスライドショーを作るんですが、一枚一枚の写真を見るのと連続で見るのとでは、感じ方が違うんですよね。ある写真からある写真に切り変わるときに、こいでいたブランコから、フッと飛び降りるような快感を覚えることがあるんです。イメージをとばすとでも言うのでしょうか、かたちや色、感情や想像が、写真から写真に飛ぶ。そういうイメージの「うねり」を感じられるように、時間の流れや自分なりのストーリーに沿って写真を並べて、フォトフレームで見てみると、面白いですよ。
僕も家に写真を飾っているんですが、毎日見ることで写真との対話が生まれて、新しい発見をすることがあります。それによって、ものの見方が豊かになったり、自分の感情の引き出しを増やしていくことができる。写真の楽しみや良さって、そういうところにあるんだと思います。
澁谷征司 Seiji Shibuya/フォトグラファー
フォトグラファー。1975年東京生まれ。95年より独学で写真を始め、CDジャケット、雑誌、広告、TVCFなど、多方面で活躍。写真集に『BIRTH』『DANCE』(ともに赤々舎)がある。