第9回 赤坂 孔子膳堂 孔健氏・呉漢彪氏 第2章 料理は歴史の証人である。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

孔子の75代目の子孫である孔健は、いまから1年半ほど前に『孔子膳堂』を赤坂にオープンした。
孔健が胸を張って曰く「中国四大菜系のひとつである山東系(魯菜)は孔子の故郷である山東省で育まれて発達しました。ちなみに四大菜系にはほかに四川系(川菜)、江蘇系(蘇菜)、広東系(粤菜)があります。
山東系のひとつである孔府菜(孔子料理)は伝統的な献立と独特の調理方法が非常に有名で、歴代の皇帝にも好まれていました。孔子料理はさまざまな等級に別れていて、最高級の宴席になると1卓の料理の数が130品目以上あったといわれています。
孔子料理の伝統を守っている店が中国の曲阜と済南と北京にあります。とくに北京の『孔府菜館』は最も有名なレストランです。その店のなかには孔子の肖像画が描かれた提灯が飾られていて、品格があり典雅な雰囲気のレストランです。
そしてここ『孔子膳堂』でも、本格的な孔子料理を味わっていただくことができます。」

シマジ:わたしの好きな北京ダックはどこの系統になるんでしょうか。

孔健:あの料理も「山東系」の流れに入ります。シマジさんは「満漢全席」を食べたことはありますか。

シマジ:はい、1度だけ。約35、6年前、大阪の辻静雄さんのところで開高健先生と3日間かけて食べたことがありました。美味しかったですけれど、食べるだけで草臥れました。

孔健:あの「満漢全席」よりも前に「孔子全席」というものがあったんです。孔子は『論語』のなかで「食、精を厭わず、膾、細を厭わず」と教えています。

シマジ:そういわれてもチンプンカンプンです。もう少しわかりやすく説明してもらえますか。

孔健:ごめんなさい。漢文では「食不厭精 膾不厭細」と書くんですが、日本語に訳すと「飯は精白してあるのがよく、膾は細かく刻んだものがよい」といっているんです。膾というのは食材のことです。それから「飯が饐えて味が悪くなったり、魚が傷んでいたり、肉が腐っていたりすれば食べない。色の悪いもの、悪臭のするものは食べない」などと続くんです。

シマジ:孔子のイメージで考えますと、食事は質素をもって足るべしだと思っていたんですが、「孔子全席」なる豪華料理があるとは思いませんでした。

孔健:たしかに孔子は普段の生活はつつましやかだったんでしょうが、貴族や皇帝のお相手をするときは、最高級の料理人と最高級の珍味、風変わりな素材を料理してもてなしたんでしょう。その伝統が受け継がれて、孔子が亡くなってからも歴代の皇帝が曲阜を訪れて孔子の教えを崇め奉ったといわれています。そのとき皇帝たちは「孔子全席」に舌鼓を打ったことでしょう。

立木:孔健がまるで見てきたようにしゃべるのは聞いていて気持ちがいいね。これも才能だね。孔子もいい子孫を持ったもんだ。

孔健:立木先生、ありがとうございます。

田中:今日いただいたお料理にそんな歴史があったんですか。驚きました。

シマジ:田中さん、しかもこの店の料理は手が込んでいて美味い上に値段がリーズナブルなんですよ。

田中:先ほどからメニューを見ていてそう思いました。シマジさんはほかにどんなものを召し上がるんですか。

シマジ:わたしはナマのピーナツとキュウリを炒めたものとか、餃子が好きですね。それからここの北京ダックも抜群ですよ。

田中:さきほど最後にいただいた豚の角煮も素晴らしかったです。

シマジ:日中韓の関係が3年半ぶりに交渉を再開して、孔健もホッとしているんじゃないの。

孔健:そうですね。3カ国は仲良くしなければいけません。いま3カ国間の貿易高はいくらになっていると思いますか。7200億ドルなんですよ。人間はお金と喧嘩してはいけません。邱永漢さんがわたしに教えてくれた言葉で「お金というものは寂しがり屋さんなんだ。だから賑やかなところにしか集まらない」というのがありました。その伝でいくと、3つの隣国が仲良くすればもっともっとお金が動くのだとわたしは思っています。

シマジ:習近平時代になって中国はどう変わってきましたか。

孔健:習近平さんの前の時代まで孔子を批判してきましたが、習近平さんになり「右手に毛沢東、左手に孔子」という考えで中国の指導がはじまったばかりなんです。

シマジ:それは素晴らしいことですね。いまの中国人が孔子をちゃんと学べばもっとエチケットもよくなるんではないですか。

孔健:おっしゃる通りです。いま習近平さんは倹約令を公布して贅沢を取り締まっています。例えば、役人の出張は5日間を越えてはいけないとか、ファーストクラスを使うなとか、ホテルの宴会で3000円以上の酒は飲むなとか、規制が厳しくなっているんです。いまは各県の知事や市長のなり手がないそうです。政府高官の賄賂も難しくなってきたんでしょう。

シマジ:なるほど。この間までロマネコンティとマッカランを半々に混ぜた「ロマッカラン」という飲み物が飲まれていたことを思うと、大変な粛正ですね。それにしても先日習主席がロンドンを訪問したときのエリザベス女王の歓待は凄かったですね。

孔健:外交力のある英国は中国の底力を知っているんでしょう。安部首相に言いたいです。「もっと中国を大事にしてください」と。

シマジ:たしかに日本はアメリカ一辺倒ですからね。

孔健:そのアメリカではメイド・イン・チャイナの製品が溢れている。アメリカはいまや中国がないと生きていけないんです。

シマジ:いまから約30年前のバブル経済の時代、日本人はアメリカの有名なビルやゴルフ場を沢山買っていましたが、いまは中国がアメリカのそこら中のビルやホテルや会社を買収していますね。

孔健:まさにアメリカを丸ごと買ってしまう勢いですね。アメリカはいま金に困っていますからね。これは冗談ですけど、アメリカを買い尽くしてしまうと、オマケで日本がついてくるんではないですか。

シマジ:恐ろしいジョークですね。日本もしっかりしなければなりません。日本はアメリカに右顧左眄するばかりではいけない、という警告として受け止めておきましょう。

立木:今日の話はいつもとちがって堅すぎないか。もっとくだけた話はないの。

シマジ:そういえば、中国はジョークが発達しているお国柄らしいですね。

孔健:そうですか。

シマジ:よく伊勢丹のわたしのバーにいらっしゃる常連で結月美妃さんという中国にしょっちゅう遊びに行く方がいまして、最近聞いた面白いジョークがありました。

立木:じゃあ、言ってみてよ。

シマジ:北京の雑踏で、道行く人々を1匹のオスの蚊がじっと眺めていた。この蚊は長い旅から帰ってきたばかりでお腹がペコペコだった。どうせならフルボディの女の胸を刺して美味い血を吸おうと待ちかまえていたところに、豊満な胸をはだけたセクシーな女が歩いてきた。蚊は勢いよく飛んで行って、彼女の胸の膨らみを刺して血を吸った。しかし一瞬にして顔を曇らせた蚊はこう呟いた。「なんだ、この血は!シリコンの臭いがするじゃないか」

立木:ハッハハハ。中国でも豊胸手術が流行っているんだろうね。

孔健:アッハハハ、よく出来た可愛いジョークですね。

もっと読む

新刊情報

Salon de SHIMAJI
バーカウンターは人生の
勉強机である
(ペンブックス)

著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

孔子膳堂

東京都港区赤坂3-11-14赤坂ベルゴ 1F
Tel:03-5544-8438
>公式サイトはこちら (外部サイト)

商品カタログオンラインショップお店ナビ
お客様サポート資生堂ウェブサイトトップ

Copyright 2015 Shiseido Co., Ltd. All Rights Reserved.