第3回 銀座 MAIMON GINZA 杉山豊氏 第2章 独学できりひらいた料理人の道。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

杉山豊は律儀な男である。青く光る物体ライトキューブを2個、伊勢丹のバー、サロン・ド・シマジに持ってきてくれた。早速ライトキューブを氷と一緒にグラスに入れた特製スパイシーハイボールをヒロエに作ってもらった。涼しそうに妖しく青く光るスパイシーハイボールに、居合わせたお客さまからどよめきが起こった。これはイケるかもしれない。今度のバイヤー会議で提案してみよう、とわたしは密かに思った。
そのとき杉山は、アシスタントシェフのスリランカ人、ナディックを連れて来ていた。ナディックはもう11年も日本にいるので日本語を流暢に話す。奥さんは日本人であるという。外国人がスタッフとして多く働いているMAIMONで、ナディックは重要な役割を果たしている。

シマジ:杉山はどうして料理人の道に入ったの。

杉山:高校生のとき、4つ上の兄がファミレスでバイトをしていたんです。それで興味を持ったぼくも皿洗いから始めて、サラダやスパゲッティを作り出したのが、料理の世界に入ったきっかけでしたね。料理を作るのがどんどん面白くなってきた頃、知り合いになった友人の父親がカラオケパブをオープンさせたのがきっかけで、そこの料理人として雇われました。気がついたら高校を中退していました。カラオケパブはバブル経済の絶頂期にオープンしたんですが、バブルがはじけたと同時にぼくは羽田空港ビルの子会社のファーストフードのレストランで働くようになり、その6年後には会社のメインダイニングのフランス料理店に移りました。そこではじめて先輩の料理人にコンソメの作り方などをつきっきりで教えてもらったんです。つまりぼくは料理の専門学校は出ていません。すべて独学で学びました。また美味いものを探して、いろんな店に食べに行きましたよ。

シマジ:杉山は人なつっこいから先輩の料理人にも可愛がられたんだろうね。

立木:そんな感じがするね。それにどんな世界でもメシを食えるようになるにはセンスというか才能がものをいう。そういう素質が元々備わっていたんだろうね。

杉山:ありがとうございます。いま住んでいる蒲田で、ソムリエがやっているオーセンティックバー「バー:クルーズ」という店でもちょっと働いたことがあります。ちなみにそのバーには、いまでもお客として通っています。このMAIMONで働く前は、出張宴会の会社でも働いていました。ほとんどの料理は作って真空パックにしたものを宴会場に持っていくんです。多いときは300人分の料理を作り、少ないときは30人くらいの料理を作りました。カレーライスやトンカツやポテトサラダや焼きそばをその場で作ったこともありました。

シマジ:派遣先はどういう会社が多いの?

杉山:いろいろありましたが、電通さんとか大きな保険会社とか大学の卒業式のあとのパーティーなどでしたね。

立木:そろそろ次の写真を撮りたいね。

杉山:はい。ここに用意しているサーモンのカルパッチョをお願いします。

立木:うん、美味そうだ。

シマジ:首藤さん、ちょっと待っていてね。

首藤:大丈夫です。いまやっと生牡蠣を食べ終えたところです。

立木:はい。お嬢、召し上がれ。

首藤:ありがとうございます。

杉山:これはノルウェーのサーモンです。

首藤:脂が乗っていてとても美味しいです。

杉山:次の料理は牡蠣のホットプレートといいまして、サッと生牡蠣を炙ったものと、その上に生のウニと青のりを乗せた2種類の料理です。立木先生どうぞお撮りください。

立木:OK。これは色味がいいね。はい、撮影終了! 次はなんなの。

杉山:最後は牛肉のサーロインに上からブランデーをかけて火をつけるんですが、うちで「陽炎(カゲロウ)焼き」と呼んでいるものです。撮影するとき仰ってください。すぐに点火しますから。

立木:OK。じゃあ杉山、火をつけてくれる。

首藤:わあっ!きれい。

シマジ:首藤さん、あなたの前にたくさん料理がきましたから、頑張って召し上がってくださいね。

首藤:はい、どれも美味しそうなので遠慮なくいただきます。

シマジ:スパイシーハイボールを作りましょうね。

首藤:ぜひお願いします。これは食前酒としても、食中酒としても最高ですね。

杉山:うちの店でも今度このスパイシーハイボールを置こうと思っているんですよ。

シマジ:一杯いくらで売るの。

杉山:伊勢丹のサロン・ド・シマジと同じく1杯800円にしようかと考えています。

シマジ:それはいい考えだね。きっと売れるよ。魚料理でも肉料理でもなんにでも合うからね。

首藤:わたしもそう思います。

シマジ:ちょうどいいタイミングで牛の陽炎(カゲロウ)焼きがきましたよ。

首藤:美味しそう、いただきます。

立木:ここは若者の店だね。一品一品の盛りが大きい。

シマジ:なるほどね。タッチャンとおれが食べるなら、1人前を2人で分けてちょうどいいかもね。

杉山:そうですね。確かに若いお客さまが多いですね。

立木:それに個室が多いんだね。

杉山:はい、個室が多いのもうちの売りなんです。それからこれはお客さまには関係ないですが、まかないの料理が国際色豊かなんです。スリランカ人のナディックが作ってくれるスリランカーカレーなんて凄く美味いんですよ。これは人気まかないの一つです。

シマジ:そんなに美味いなら、それを表メニューに出すべきだよ。ほかの店でよくそんな例があるんだよ。

首藤:まかない料理は何時ごろ食べるんですか。

杉山:毎日3時半です。

首藤:食べてみたいですね。

シマジ:そのうち杉山が表メニューに載せると思うね。首藤さん、それまで待ってあげてください。

首藤:はい。ところでこのお肉、美味しいですね。これはどこのお肉なんですか。

杉山:群馬県産の赤城牛です。

シマジ:全体的に和牛は最近美味くなったよね。

杉山:そうです。驚きの技術革新ですね。

立木:杉山料理長自慢のまかないは、どんな料理なの。

杉山:ぼくの場合は、豚の生姜焼きが人気ありますね。

首藤:何人分作るんですか。

杉山:7、8人分を一挙に作ります。

シマジ:それくらいの量を作るから美味い料理ができるんだろうね。

杉山:あっ、そうそう。ぼくの実家は開高健先生の自宅近くにあったので、よく開高邸には遊びに行きました。

シマジ:へえ、開高先生に会ったことはあるの。

杉山:いえいえ。ただあの辺の雑木林で遊んだということです。開高先生のお姿も見たことはなかったです。

シマジ:そうか。杉山は幼いころ開高邸の近くで遊んで育ったということなんだね。

杉山:開高先生が通われていた林スイミングスクールの経営者の息子が、ぼくの小学生のときの同級生だったんです。

立木:へえ、それは杉山と開高文豪になにか縁がありそうな感じがしないわけでもないね。

シマジ:じゃああの「哲学者の小径」を歩いたことはあるの。

杉山:いえ、見たことはありますが、中に入って歩いたことはありません。

シマジ:じゃあ開高記念館には行ったことはあるの。

杉山:はい、あそこは金土日しか開いていないんですが、実家に帰ったときに何回か行ったことはあります。そうですね。いままで4、5回は行きましたか。子どものころから、あの家のなかはどうなっているんだろうと興味津々でしたから。

シマジ:それは偉いよ。

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