第3回 銀座 MAIMON GINZA 杉山豊氏 第3章 自他ともに認めるシマジ教の熱心な信者。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

銀座「MAIMON」の料理長杉山豊は、伊勢丹メンズ館8階のサロン・ド・シマジに週末やってきては、名物のスパイシーハイボールを美味そうに飲んでくれている。少し酔いが回ってくると、「今日はなにを買おうか」と色めき立ってくる。杉山にはこれまでずいぶんいろいろな商品をお買い上げいただいた。
また杉山が葉巻の美味さに生まれてはじめて陶然となったのもこのバーである。マスターのシマジが美味そうに吸っているパイプにも興味を示して、早速一本購入して試みた。
シングルモルトには葉巻もパイプタバコもよく合うことを知ってしまった杉山は、40歳を過ぎて、いわゆる人生の「知る悲しみ」を味わってしまったのである。

立木:じゃあ杉山は伊勢丹のサロン・ド・シマジに週末通っては、シマジが勧める商品をいろいろ買っているんだな。つまりはシマジ被害者同盟の一員というわけだ。

杉山:そうですね。サロン・ド・シマジではたくさん買いましたね。まず早く常連になりたくて、ドクロのリングを購入しました。シマジさんとお互いのドクロリングをくっつけ合って元気を充電してもらうんです。常連はみんなそうしています。

立木:まるで怪しい儀式だね。

杉山:シマジさんから元気の素をいただくんです。ぼくは自他ともに認めるシマジ教の熱心な信者です。

シマジ:ナポリのサルバトーレ・ピッコロとわたしの合作のシャツも買ってくれたよね。

杉山:はい。去年のいまごろですか、入荷したその日に買って、着て帰りました。背中にスリットが入っていて、表にフリフリがついているのが気に入りましたね。

シマジ:あのウイングカラーが格好いいだろう。それにリネンの生地も洒落ているだろう。また今年もそろそろ入荷する予定だよ。

杉山:やっぱりシャツは素肌に直接着るものですから、生地がいいと気持ちいいですね。今年も買いますか。

立木:杉山はどうしてシマジの存在を知ったんだ。それが浪費の始まりなんだろうが。

杉山:5、6年前ですかね。J-WAVEの朝の番組で、別所哲也さんの美声でシマジさんのエッセイが朗読されていたんです。それを聴いてすぐにシマジさんのエッセイの虜になったんです。こんな面白い人がいるんだと思いました。それがシマジ教に入信したきっかけですね。

立木:それはシマジのエッセイというよりも別所哲也の美声にシビれたんじゃないの。

杉山:いえいえ、今東光大僧正のヒッコリーの傘の話など、いま思い出してもニヤニヤしてしまいますよ。それでシマジさんの著作『甘い生活』や『知る悲しみ』を本屋でみつけて買い、すぐに読みました。読んでみてわかったんですが、別所哲也さんが毎朝朗読していたのは、この本からの引用だったんです。そのコーナーの冒頭がシャーリー・バッシーの「帰りこぬ青春」というバラードから始まるのも、朝の番組には珍しくて新鮮でしたね。

シマジ:あれはわたしの選曲だったんだよ。朝だけどあえて夜風な曲をかけてもらったんだ。

首藤:それは凝っていますね。

立木:シマジはむかしから逆張りが好きな男だからね。

杉山:そうそう、それから日経BPでやっていた「乗り移り人生相談」にぶつかり、伊勢丹でバーをやっていることを知って、すぐじかあたりしに行ったんです。

立木:じかあたりなんてシマジの得意のフレーズじゃないの。

シマジ:杉山にはわたしが愛用しているアイテムをとにかくたくさん買ってもらったよね。

杉山:ぼくはシマジ教の忠実な信者ですから、万年筆も勧められるままに買いました。教祖さまから「杉山、万年筆で字を書くようでないと、本当の大人にはなれないぞ。ボールペンなんてクロネコヤマトの伝票を書くとき以外は使うんじゃない」と言われてすぐに買いました。でもたしかに万年筆で書くと気持ちが落ち着くし、いいですね。

立木:シマジはお客をみんな呼び捨てで呼んでいるのか。

シマジ:さすがはタッチャン、鋭いですね。これは今東光大僧正から一子相伝された男同士の友情の証なんですよ。ですからお客さまをわたしが「さん」づけで呼んでいるときは、まだ親しくなっていないときですね。愛情込めて「スギヤマ」と呼んであげたほうがお客さまも嬉しがるんです。

立木:へんな店だね。

シマジ:まあ、わたしより年長者はほとんどいませんからね。

杉山:1人格好いいお年寄り、横山さんという方がいらっしゃいましたね。でもシマジさんのメルマガで亡くなられたことを知り、とても残念でした。

首藤:その横山さんは何歳だったんですか。

シマジ:足繁くサロン・ド・シマジのバーに通われていたころは、93、4歳でしたか。そのころアルニスのコートジャケット「森の番人」をショップにさりげなく置いていたのですが、横山長老は目ざとくも見つけてお買い上げくださいました。よく京都のきれいな芸者さんを同伴していらっしゃいましたね。亡くなられたときはたしか95歳でしたか。それも正月の2日にお茶屋で芸者を上げて、翌日ベッドのなかで亡くなられていたんです。わたしも横山さんの驥尾に付して、ああいう大往生というか、ピンピンコロリといきたいものだとつくづく思いましたね。

立木:人間は丈夫な人ほどピンピンコロリで亡くなるようだね。

首藤:ピンピンコロリってなんですか。

シマジ:若い首藤さんはまだ知らなくていい言葉だけど、歳を取っても元気にピンピンしていて、死ぬときは一瞬にしてコロリと死ぬことです。

首藤:それはたしかに誰にも迷惑をかけない理想の死に方ですね。

立木:話題がしめっぽくなってきたじゃないか。お嬢、なにか面白い会社の話をしてくれない。

首藤:面白いかどうかはわかりませんが、こんなお話をしてもいいでしょうか。月に1度、資生堂の各店のビューティーコンサルタントの責任者であるショップマネージャーばかりが集まって会議が催されるんです。内容は、会社からの案内や実績フィードバックや打ち合わせ等です。ほぼ聞き役のショップマネージャーにとって「ブロック会議に参加してとてもよかった」と思ってもらえるために、なにかできないかと同期の社員と2人で話し合い、あるアイデアを考えついたんです。いま外国人のお客さまが増え、グローバル化が進んでいるなか、英語が今後必須になる可能性が高いので、みなさんに英語を好きになってもらえたらいいなあと思いまして、店頭ですぐに役立つ英会話を伝授したいと2人で考えました。その方法として考えたのが英語の「寸劇」です。同期2人でビューティーコンサルタント役と外国人のお客さま役になり、実際に店頭で起こりうる状況を事前にヒヤリングして、それを元に「寸劇」を作ったんです。まさか資生堂に入って劇をやるとは思っておらず、はじめは緊張しましたが、ショップマネージャーたちが「愉しかった」「毎回やって欲しい」等々感想を述べられて、とても嬉しかったです。

シマジ:なるほど。たしかに4年後にはオリンピックも控えているし、これから日本人も英語の一つくらいは話せないといけなくなるよね。それは素晴らしい試みではないですか。

杉山:うちの店は日本人より外国人の従業員が多いんです。ですから英語やスリランカ語が飛び交っていますよ。日本語が上手い外国人もいますが、英語しか話さないイギリス人もいます。ぼくは忙しいとつい日本語で「あれ持ってきて!」と言っちゃうんですが、それではいけないといつもあとから反省しています。それに外国人が日本語を覚えるより、ぼくが英語を覚えたほうが早いかもしれないと思っているんです。

シマジ:杉山、それはいい心構えだと思うよ。それは杉山のためにもなる。

杉山:まあ従業員の外国人のなかにはきちんと日本語学校に通っている人もいますけどね。

立木:話し言葉の習得には実践が一番じゃないの。同じ環境のなかで英語を話していれば、自然と身につくと思うね。

シマジ:いまの若い日本人はかなり英語を話せる人が増えているしね。頑張れ!スギヤマ。

<次回 第3回第4章 6月24日更新>

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今回登場したお店

MAIMON GINZA

東京都中央区銀座8-3 西土橋ビル 1・2F
03-3569-7733
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