第7回 六本木 MIZUNARA CASK 篠崎喜好氏 第3章 SHISEIDO MENの作り方。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

先日、講談社現代ビジネスオンラインの不定期連載「遊戯三昧」で、コーヒー大王の川島良樹と対談したとき、篠崎喜好社長が率いる六本木の「CASK strength」を対談の舞台としてお借りした。毎日明け方までカウンターに立って働いている伊藤取締役バーマンに無理を言って、午後1時半にバーを開けてもらった。川島は「CASK strength」の店の荘厳なたたずまいに感動していた。峯竜也カメラマンも10数年の歴史を持つ味わいのある落ち着いた雰囲気に興奮して何度もシャッターを切っていた。
このオーセンティックバー「CASK strength」は、篠崎喜好の独立第1号の記念すべきバーである。現在は「WODKA TONIC」の店長の山田取締役バーマンも、そして篠崎社長バーマンも、以前はこのカウンターに一緒に立っていたことがあった。
近い将来、「CASK strength」と伊藤バーマンに、この連載に登場してもらいたいと思っている。

シマジ:竹崎さんは資生堂にいつ入社されたんですか。

立木:おっと、シマジは今日はおれに言われる前に“資生堂ゲスト”を取材し出したじゃないか。

竹崎:わたしはちょうど2001年に、21世紀初の新入社員として本社法務部に入社いたしました。

シマジ:法務部ですか。竹崎さんは相当なエリート社員なんですね。

竹崎:いえいえ、そんなことはありません。その後、名古屋支店に異動になり、チェインストア営業を担当しました。

シマジ:やっぱりエリート社員もまずは現場を知れという会社の親心ですね。

竹崎:どうでしょうか。その後2005年から1年間、ニューヨークのNARS Cosmeticsで研修を受けました。

シマジ:やっぱりエリート社員の道を進まれているんですね。

竹崎:いえいえ、以降10年間、NARSやBare Mineralsというブランドを中心に海外事業に携わり、2015年からSHISEIDO MENの商品開発を担当しています。

シマジ:たしかにSHISEIDO MENはよくリニューアルしていますよね。たとえば瞼の周りに塗り込む、以前“アイスーザー”といっていた商品がいまは“トータルリバイタライザーアイ”にリニューアルして売られていますし、わたしのヘアスタイルにはなくてはならないヘアワックスも、グッと品質が向上してリニューアルされましたものね。そうですか、竹崎さんはあの商品開発に携わってきたんですか。資生堂にはそもそもどうして入ろうと思ったんですか。

竹崎:資生堂は結婚して子育てをしながらでも働ける会社というイメージが強かったので、それも志望動機の1つでした。

シマジ:たしか、会社のなかに育児施設も完備しているんですよね。

竹崎:そうなんです。ただ、わたし自身は36歳まで独身を謳歌して、遊び放題、働き放題の日々でした。いまになってようやく育児と仕事の両立が始まり、入社の動機が活かされ始めています。世の中では保育園不足や働く女性の子育ての大変さが話題になっていますが、我が家においては育児熱心な夫と、徒歩圏内に住む両親と、それにいま育児休暇中の妹に手厚いサポートを受けながら、忙しくも毎日幸せに暮らしています。

シマジ:そのことは竹崎さんのお顔に書かれていますよ。

竹崎:そうですか、嬉しいです。会社ではそれぞれ年齢がひとまわりずつ違うベテランの先輩と、優秀な後輩男子との3人チームで、上にも下にも頼れる恵まれた環境で働いています。

シマジ:どんな業務を担当しているんですか。

竹崎:現在は88の国と地域で発売しているSHISEIDO MENとサンケアの商品開発をしています。入社以来、主に女性のお客さまのインサイトやお肌のことばかり考えていましたが、男性用スキンケアの商品開発担当となり、すべてがとても新鮮で、毎日新しい発見があり仕事は愉しいです。

シマジ:商品開発はどこの会社でも重要な部署だと思いますが、実際、竹崎さんのお仕事はどういう内容なんですか。

竹崎:通常、発売する2年以上前から企画を開始します。次に発売する商品のコンセプト、パッケージ、中味のテクスチャー、配合成分、商品名、価格などを企画するんです。

シマジ:1個の化粧品を世に出すためにやらなければならないことがそんなにあるんですか。

竹崎:はい、お客さま調査を行って最近のお客さまのトレンドや意識の変化から商品のコアとなるインサイトをつかみ、それを反映していくんですが、対象の市場が広く、ニーズがさまざまなお客さまに対応できる商品を作る難しさを毎日感じています。また企画自体は華やかに聞こえるかもしれませんが、1円単位で容器の部品の価格を計算したりなど、地道な作業がほとんどです。全世界で発売するための薬事をクリアしなければなりませんし、10数カ国で通用する商標を見つけ出したり、商品のパッケージに記載する言葉や、説明書の文章も10数カ国語に翻訳したり、版下をおこしたり、といった作業もあります。

シマジ:へえ、そうなんですか。これからは簡単に空き箱を捨てたりせずに、しばらく取っておくことにします。

竹崎:いえいえ、シマジさんはお付き合いの長い長いお得意さまですから、そこまでしていただかなくてもいいんですよ。でも面白いもので、企画した商品がめでたく発売となり、店頭に並ぶことは大きな喜びのはずなんですが、実際のところ、その頃にはもう次の新しい商品のことで頭がいっぱいになっているんです。なので発売直後の新製品にはすでに懐かしさを覚えるというか、いまごろ発売になったのという気分のことが多いです。

シマジ:その気持ちはよくわかります。長いこと週刊誌を編集していると、発売された雑誌にもそういう気分になりますね。熱心に取材した記事が載った雑誌を店頭で見かけながら、頭はすでに次の雑誌の取材に熱中している自分がいるんですからね。苦労して取材した雑誌ほどそんな気分になりますね。

竹崎:また不思議なことに、現地法人や関連部門から猛反対された商品ほど、じつはよく売れたりするんです。会議で散々責められた商品が、1年以上経って「凄く売れています!」と報告を受けても、開発当時に反対された一言一句を思い出して、素直に喜べなかったこともあり、そのようなときは、自分のこころの狭さを反省します。

シマジ:どんなものが売れるかは、多分、神のみぞ知るということではないですか。そんなに自分を責めることはありませんよ。

竹崎:はい。なかにはそんなことをすっかり忘れて手放しで喜んでいる人もいるので、この仕事をはじめて、自分は意外に根に持つタイプなのかもしれないとはじめて発見することになりました。

シマジ:そんなに気にすることはないでしょう。売れる・売れないは時の運だと思って、みんなと一緒に喜んだほうがいいですよ。

竹崎:いま企画している商品が発売になったらいの一番にシマジさんの感想をお聞きしに、伊勢丹のサロン・ド・シマジにお伺いします。

立木:シマジ、大変なことになってきたぞ。

シマジ:わたしはSHISEDO MENを自分でも愛用しながら、サロン・ド・シマジの店頭で販売にも携わっていますから、ぜひいらっしゃってください。ほとんどの常連さんはSHISEIDO MENの愛好者ですよ。最近驚いたことに、女性のお客さまで自分用に、スキンエンパワリングクリームを買って行かれる方がいるんですよ。税抜きで12,000円ですが、わたしは最初ご主人か息子さんのために買って行くのかと思っていたんですが、夜寝る前にすべての化粧を落とし、自分で使っているそうです。

シマジ:篠崎さん、今日、のちほど竹崎さんから謝礼として渡されるSHISEIDO MENセットにはちゃんとそのクリームが入っていますからね。

篠崎:ありがとうございます。さっそく明日の朝から使わせていただきます。

竹崎:篠崎さんはBの判定でしたから、3カ月も使えばAになる可能性もあるかと思います。

山田:じつはぼくも正直なところ、先日の取材をきっかけにSHISEIDO MENの愛好者になってしまいました。

竹崎:ありがとうございます。

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新刊情報

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バーカウンターは人生の
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(ペンブックス)

著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

ミズナラカスク MIZUNARA CASK

東京都港区六本木6-1-8六本木グリーンビル6F
03-5414-3222
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