第8回 日本橋 ショットバー Y's Land Bar IAN 横矢豊氏 第2章 泣く子も黙るイアンの別格ボトル。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

横矢豊バーマンもわたしに負けない人たらしで、なおかつ爺キラーのようである。横矢はまだ若い頃に向島の花街でド偉い一流会社の社長や会長に可愛がられたそうだ。強いオーラを発する大物に若者が出会うチャンスは本来なかなかないものだが、横矢は強運の男であったのだろう。その頃たっぷり人生勉強を積んだことが、後年横矢の人生にどれほど役に立ったかは計り知れない。人生は出会いであり、じかあたりのパワーは強大だ。遠くから指を咥えて見ているだけでは、輝かしい“人生の真夏日”はやってこないのである。

シマジ:唐川さん、今日は4種類のシングルモルトを飲んでいただきましたが、どれが印象的というか、美味しいと感じましたか。

唐川:それはわたしにとってとても難しい質問ですね。正直に言いますと、いままで飲んだことがないオールドレアなシングルモルトばかりで、どれも飲みやすく、しかも凄く香りが立っていました。うーん、強いて挙げるとしたら、わたしはポートエレンのファーストリリースが好きかしら。

立木:唐川さん大変なものを好きになってしまったね。シマジ、今後、唐川さんがシングルモルトにはまったらどうするんだ。

シマジ:シングルモルトを嗜むキャリアウーマン、素敵じゃありませんか。唐川さんは資生堂の優秀な社員です。しかも3児の母なんですよね。

立木:へえー、仕事をしながら3人子どもを産んで育てているなんて、立派なものだね。

唐川:ありがとうございます。

シマジ:資生堂のような企業に就職していたからこそでしょうね。女性社員を大事にしている会社だものね。

唐川:たしかにそれはありますね。

シマジ:具体的にどうやって3人の育児をこなしてきたんですか。

唐川:わたしは2003年4月入社で、今年で入社14年目に入ります。最初の子どもの産休育休は2011年1月から2012年5月までで、2番目の子どもは2013年7月から2014年3月まで、3番目の子どもの場合は2015年1月から2016年3月までいただきました。現在は資生堂ジャパン(株)のコミュニケーション総括部(汐留オフィス)で戦略PRと媒体担当をしています。

シマジ:まさに輝ける略歴ですよ。

立木:育児は、大変なことだからね。

シマジ:資生堂は会社のなかに保育施設も完備しているそうですね。

唐川:はい。ありがたいことです。

シマジ:では話をポートエレンに戻しましょうね。唐川さん、これはスマホで撮っておく価値があるシングルモルトですよ。

唐川:いいんですか。

横矢:どうせなら4本全部撮ってもいいですよ。

唐川:ホントに? ではお言葉に甘えて撮らせていただきます。

シマジ:でもゆめゆめその写真を他のバーで見せて飲んではいけませんよ。まあ4本揃っているバーは少ないと思いますが、止めておいたほうがいいでしょう。

唐川:わかりました。でも見せるだけならいいんでしょう?

シマジ:見せて自慢してください。本当にこの4本を飲んだと胸を張って言ってください。

唐川:わかりました。

シマジ:横矢さん、マッカランのMデキャンタをもう1杯いただけますか。なんならこの分個人的にお支払いしましょうか。

横矢:なにを仰いますか。シマジさんが大事にしていたMデキャンタの中身はうちの谷川聖和に飲まれ、ボトルは持って行かれたんでしょう。今日は何杯でもどうぞ。お安いご用です。

シマジ:このMデキャンタはエジンバラクリスタルでできているそうですね。

横矢:そうです。はじめはボトルのほうが高かったんではないでしょうか。

立木:でもデキャンタにマッカランのMしか表示されていないのが粋だね。

シマジ:わたしは一時エジンバラクリスタルに興味を持ちまして、エジンバラを訪れるたびにエジンバラクリスタルの入ったタンタロスをいくつか買っていましたよ。いまでもうちに5つはあると思います。

横矢:タンタロスですか。

唐川:タンタロスってなんですか。ギリシャの神さまみたいな名前ですね。

シマジ:確かに由来はギリシャ神話に登場するゼウスの息子の名前なんですが、これはウイスキーを入れるデキャンタで木製の枠に入っているんです。鍵がないと取り出せない仕組みになっています。よく貴族の屋敷に置いてあって、そこの主がお客を持てなすときバトラーに、「今日おみえになる唐川さまは大事なお客さまだから、いつものタンタロスではなく、特別のタンタロスをお持ちしなさい」と言うわけです。

唐川:ありがとうございます。

立木:唐川さんはノリがいいね。

唐川:どうして鍵がかかっているんですか。

シマジ:鋭い質問です。それはバトラーに飲まれないように鍵をかけているんですよ。鍵は主しか持っていません。鍵が大事なんです。

立木:シマジも鍵をかけているのか。

シマジ:鍵は差し込んでいますが、誰でもいつでも飲めるようにしています。

横矢:だから谷川に飲まれてしまったんですよ。

シマジ:いいんじゃないですか。わたしが谷川をえこひいきした分、こうして横矢バーマンからえこひいきの倍返しを受けているんですから。先程話に出た昭和天皇へ献上された秘蔵の謹製ボトルに対して、おそらく横矢さんには鳥井副会長からえこひいきの倍返しがあるんではないですか。

横矢:いえいえ、それに関しては“無心”でいようと思います。

シマジ:そのこころが大切ですね。期待していると下品ですし、思わぬえこひいきの倍返しこそ、感動的ですからね。

立木:シマジ、ここで「人生は運と縁とえこひいき」だと言わないのか。

シマジ:巨匠の仰る通りです。

横矢:このマッカランはオフィシャルで出された物です。

シマジ:そうでしたね。横矢さんはポートエレンはファーストリリースから今年の15thまですべて揃えて持っているんですか。

横矢:わたしが持っているポートエレンはファーストだけです。浅草の「ねも」の大マスターに若いときこう言われたんです。「いいか横矢、シリーズものはな、ファーストリリースは買っておけ。そしてな、終売品、いわゆるラストリリースは買えるだけ買っておけ」ぼくはこの尊敬する大先輩の言葉をこころに刻んで、横矢憲法にしているんです。

シマジ:いいお話ですね。でもポートエレンはいま15thリリースですから、おそらく20thくらいまでは出してくるんではないですか。

横矢:どうでしょうか。ファーストリリースは2万2〜3千円位だったと思いますが、20thリリースはどれだけの値段になるんでしょうね。

シマジ:想像するに、40万円強はいくんじゃないですか。横矢さんはそれでも横矢憲法に従い、買えるだけ買うんでしょう?

横矢:もちろん、そうするつもりです。

立木:横矢バーマンのその純情さをシマジも見習うべきだね。こいつはせっかくおれがいろいろアドバイスしてやっても、言った先から忘れてしまうんだから、困ったもんだよ。

シマジ:タッチャン、わたしも今日から純情男になりますから、見捨てないでくださいよ。

立木:よーし、わかった。みんなの前で誓えよ。

シマジ:誓います。

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横矢:立木先生とシマジさんの関係って素敵ですね。羨ましいです。

シマジ:横矢さんには谷川聖和がいるじゃないですか。

横矢:・・・・・。

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