第6回 浅草 BAR DORAS 中森保貴氏 第1章 美味しいお酒は美しいグラスで。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

まさに“縁は異なもの味なもの”である。
ある夕刻、わたしは浅草の柘製作所の柘社長とパイプのことで打ち合わせをしていた。場所は以前この連載でも紹介した「すぎ田」である。極上のトンカツをスパイシーハイボールと共に愉しんでいると、不意にわたしの方に寄ってきた精悍な若者がこう言った。
「失礼ですが、シマジ先生ですよね。わたしはこの近くでDORASというバーをやっている中森と申します」
DORASというバーはどこかで聞いたことがあるな、と思いながら名刺を交換した。そして浅草からの帰り道、突然思い出したのだ。名刺を交換した中森保貴なる人物は、3年ほど前にたまたま書店で見つけて購入した本の著者であったことを。
その本のタイトルは『旅するバーテンダー -浅草発。究極の一杯に向けてヨーロッパを駆ける-』(双風舎)といい、スコットランドをはじめ、フランス、スペイン、ポルトガルを一人旅で回った面白い体験記であった。しかもシングルモルトやコニャックを買い付けしながらの2週間の強行軍である。その本の著者の営むバーの名前がDORASであったのだ。
これは縁だと思って今回の取材を申し込むと、中森バーマンはすぐに快諾してくれた。

シマジ:中森バーマン、今日はお忙しいのに時間を割いてくれて感謝します。

中森:いえいえ、こちらこそ。わたしはこの連載が大好きで初回からずっと読んでおりますので、むしろ大変光栄です。

シマジ:こちらがご存知の立木先生です。

立木:よろしくね。ここはいい雰囲気のバーだね。写真になるよ。

中森:ありがとうございます。

シマジ:こちらが資生堂からのゲストの安藤睦さんです。安藤さんはお酒はイケるほうですか。

安藤:はい。お酒は好きです。今日はよろしくお願いいたします。

中森:こちらこそよろしくお願いいたします。

立木:じゃあ、最初にこの店の自慢の酒をカラーで撮ろうか。ここのテーブルでいいから、持ってきてくれる。

中森:では、なんにしましょうか。

シマジ:先日来たときに相談した順番でいきましょうよ。

中森:では、はじめにギィ・ピナールのコニャックをシュウェップスのトニックウォーターで割ったDORASオリジナルのカクテルを作りましょうか。

シマジ:ぜひそれからお願いします。安藤さんの分とわたしの分を2杯作ってくれますか。

中森:畏まりました。

シマジ:へえ、グラスのなかにではなく、グラスの外側にオレンジピールで香りをつけるんですか。

中森:このほうが口に運んでいくとき、香りが際立つんです。

立木:そこまでは写真に写らないけど、まあ、いいか。

中森:はい、できました。一杯は撮影用にそちらに運びます。もう一杯はレディファーストで安藤さんの前に置きましょう。

安藤:わっ、凄い香りですね。飲んでいいですか。

シマジ:どうぞ、どうぞ。

立木:この元になったコニャックのボトルも一緒のほうがいいんじゃないの。

中森:嬉しいです。じつはこのコニャックの作り手はマイナーではあるんですが、わたしがホームステイしたところでボトリングしてきたものです。

安藤:これは香りもよく味もとても美味しいです。

立木:シマジ、お前の分も撮影終了した。飲んでいいぞ。

シマジ:どれどれ、うーん、これはイケますね。じつはわたしもこの年末に伊勢丹のサロン・ド・シマジのバーで、カミュの1982年ものを特別にボトリングしたものを出そうかと計画中なんです。コニャックを扱うのは初めてのことで、どうやって飲んでもらおうかと考えていたところだったんです。うちのバーではストレートで飲むのを禁止していますからね。中森バーマン、この飲み方をそっくり真似していいですか。

中森:どうぞどうぞ。このカクテルはDORASでも人気がありますよ。

安藤:じつに爽やかですね。

立木:次はなにを作ってくれるの。

中森:同じコニャックでも今度はフラパンを使って、古典的カクテル、サイドカーを作りましょうか。

シマジ:サイドカーですか。懐かしい感じがいいですね。安藤さんはサイドカーを飲んだことがありますか。

安藤:ありません。

シマジ:タッチャンやわたしの青春時代には、洒落たバーで女性と一緒に飲んだものです。これも2杯作ってくださいね。

中森:承知しました。

シマジ:先程から見ていると、中森バーマンが出されるグラスがアンティークで美しいですね。これはヨーロッパで買ってきたものなんですか。

中森:はい。わたしがヨーロッパを巡ってくるときは、いつもお客さまに喜んでいただくことを考えて旅をしています。より美しいグラスをアンティークショップで探すのも、お客さまのためなんです。

安藤:たしかに、美味しいお酒は美しいグラスで飲みたくなりますものね。

中森:サイドカーができました。ではこちらが撮影用であとでシマジさんに飲んでいただく分です。こちらは安藤さんの分です。

立木:シマジ、そうっとここまで運んできてくれる。

シマジ:了解。うーん、グラスのなかからオレンジの香りがしますね。

中森:それはグラン・マルニエのオレンジリキュールを入れてシェークしているからでしょう。

安藤:たしかにオレンジの香りがします。美味しいです。

立木:さっきから見ているけど、中森バーマンのシェークのスタイルはパワフルでいいね。動画を撮りたくなってきた。

シマジ:これは凄い褒め言葉ですよ。

中森:ありがとうございます。

立木:では3番目はなにを撮ればいいの。

中森:先程のギィ・ピナールのコニャックの28年ものをストレートで出しますね。グラスもコニャック地方で購入してきたものです。

シマジ:これは絵になるグラスですね。

中森:うちではブランデー用のチェイサーはアールグレイの水出し紅茶にしているんです。どうもコニャックは水との相性がよくないので紅茶を使っているんです。

立木:これまた派手な、シマジみたいなグラスだね。でも写真になったら面白いかもね。

シマジ:コニャックは水との相性がよくない、か。なるほど、だから先ほどの3、4年ものの若いギィ・ピナールも最初にソーダでステアしていたんですか。

中森:はい。ところでこの1988年のギィ・ピナールは信濃屋の北梶バイヤーのお力を借りて、この4月から信濃屋でも売り出していただいているんですよ。

シマジ:DORASの名前入りで売っているんですか。

中森:はい。うちでも欲しいと言われるお客さまには特別にお分けしております。じつはわたしは大学を卒業と同時に、信濃屋に勤めたことがあるんです。

シマジ:そうですか。そのころから北梶バーマンとは親しかったんですね。

中森:はい。彼は仕事のできる男です。

シマジ:わたしも北梶バイヤーには大変お世話になっているんですよ。

立木:よし。この派手なグラスは撮影終了した。

シマジ:では安藤さん、この一杯は資生堂代表として飲んでください。チェイサーのアールグレイの紅茶を飲みながら飲んでくださいよ。

安藤:全部飲めないかもしれません。

シマジ:そのときはわたしがお手伝いいたしましょう。そして、最後はやっぱりシングルモルトで締めますか。

中森:そうですね。バーの名前もゲール語から取っていますから、最後の1杯はそうしてください。

安藤:DORASってどういう意味なんですか。

シマジ:安藤さん、いい質問です。

中森:DORASとはゲール語でドアという意味です。ここの住所が花川戸ですので。

安藤:お洒落ですね。

中森:これもわたしがボトリングしてきたボウモア12年ものですが、じつはキャプテンバーンズというフランスのボトラーズものものなんです。サロン・ド・シマジのラベルのように、このラベルにもDORASという名前を入れてもらっています。これはストレートで写真を撮っていただけませんか。

シマジ:それはいいですけど、立木先生と安藤さんとわたしにはシェークして飲ませてくれますか。

中森:このボウモア12年は43度ですが、ストレートで飲んでもやさしく感じると思いますよ。

シマジ:でもわたしはストレートでは飲まない主義なんです。

中森:わかりました。

シマジ:その代わりチェイサーはいりません。

中森:承知しました。

立木:ボウモア12年の撮影は終わった。ではそろそろおじさんも飲むことにするか。それにしてもあなたのシェーカーの振り方は迫力があっていいね。美しい!

中森:ありがとうございます。では立木先生から、どうぞ。

立木:うーん、よく冷えていて美味いね。しかもボウモアがビックリして一気に目を覚ましたような味だ。

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新刊情報

神々にえこひいきされた男たち
(講談社+α文庫)

著: 島地勝彦
出版: 講談社
価格:1,058円(税込)

今回登場したお店

BAR DORAS

東京都台東区花川戸2-2-6
03-3847-5661
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