第5回 リベラルタイム 編集部チーフマネジャー板本真樹氏 第1章 えっ!セオさんと一緒のスコアーですか。

<店主前曰>

名前は体を表わす。板本真樹は名前通り、まっすぐな樹のごとく素直な男である。「現代ビジネス」のセオはいい加減を絵に描いたような編集者だが、イタモトは約束の時間に遅れたことはいままで1度もない。33歳のこの若者は今日も20分前にシマジサロンにやってきた。仕事柄、政治家や財界人を取材することが多いので、いつものようにきちんと上下の黒っぽいスーツに身を包み、ネクタイを締めて現われた。いままでわたしと一緒に取材した「リベラルタイム」の人気連載『ロマンティックな愚か者』の全ファイルをちゃんと持参してきた。これはいろんなコレクターを取材して、わたしが纏めているのである。「現代ビジネス」のセオは対談の交渉から立木事務所のスケジュール取りまで、すべてわたしにだが、イタモトは取材相手の交渉からカメラマンのヤスクニの手配まで、全部自分でやって取材先のマップをわたしにファックスしてくれる。最寄りの駅に着くと、必ずイタモトは待っている。頼もしい編集者である。しかもなぜか独身だ。

シマジ タッチャン、今日の資生堂の助っ人はベテランって感じだね。

浜田 本社から参りました浜田と申します。

立木 ベテランって感じ、というよりは、ベテランそのものじゃないの。

浜田 はい、長いことSHISEIDO MENを売って参りましたから。

イタモト リベラルタイムの板本と申します。

浜田 それではいつものように測定器でイタモトさんのお肌をチェックしましょうか。

イタモト メガネは外した方がいいですか。

浜田 どちらでもいいですよ。今日は立木先生にお写真を撮っていただくので、着るものを何にしようかと迷いました。いままでの連載をチェックしたら、巻き物が多いようなのでわたしもこのようなものを巻いてきました。

立木 巻き物か。それはメンズプレシャスのハシモトの専売特許だ。アイツは真夏でも首に何か巻いている。

浜田 第一回目の編集長さんですよね。

立木 シマジ、いままでスーツにネクタイの編集者って、イタモトがはじめてじゃないか。先月の「東スポ」のフルカワなんてTシャツだった。しかも5枚も持ってきて、Tシャツのお色直しまでしていった。

浜田 お肌のチェック結果が出ました。イタモトさんはEです。

イタモト Eっていいんですか。

シマジ あまりよくない結果だね。いままでの成績を発表すると、ハシモトは後日、新宿の伊勢丹のSHISEIDOコーナーで受けてDだったそうだ。セオはE。「Pen」のサトウは沖縄特集の疲れが出たのかE。フルカワは意外や意外、Dだった。おれも辛くもDだ。

イタモト えっ、ぼくはセオさんと一緒なのですか。ちゃんと送られてきたSHISEIDO MENを2週間毎日使っていたのにEですか。

浜田 お肌の細胞は6週間で全部変わると言われています。このままクレンジングフォームでお顔を洗って、トーニングローションでお肌を引き締めて、次ぎにアクティブコンセントレイティッドセラムを使い、まだイタモトさんはお若いですから、トータルリバイタイザーをたっぷりぬって、目もとにはアイスーザーをぬり込んでください。そうして6週間後、どこかのSHISEDOの店頭に行って、再びこの測定器でチェックしてみてください。イタモトさんくらい若かったら、すぐにDは獲得出来ます。

立木 さすがはベテラン、立て板に水だね。

イタモト 浜田さん、ぼく、マジメにやってみます。

シマジ そこがイタモトらしくていいね。

浜田 イタモトさんはシマジさんとどんなお仕事をなさっているのですか。

イタモト 時計とか昆虫とかいろんなものを蒐集しているコレクターの方を取材して写真を撮ってもらっています。

浜田 面白そうですね。

イタモト 不思議なことにほとんどのコレクターは男性で独身の人が多いんです。

浜田 どうしてですか。

イタモト 女性の方は”ロマンティックな愚か者”にはなれないんでしょうか。

シマジ もう連載を40回もやっているんだが、女性の登場はたった一人だ。

浜田 その女性の方は何を集めていらっしゃったんですか。

イタモト これをみてください。鍵です。

浜田 きれいなお方ですね。

シマジ 彼女は横田純子さんといって、銀座のママを19歳のときからはじめて、いまでも現役でサボイというバーをやりくりしているんだよ。たしか昭和4年生まれだから、今年で83歳かな。

立木 83歳にはみえないね。60代って印象だ。きっとママも資生堂の化粧品を愛用しているんじゃないか。

浜田 立木先生は鋭いです。でもどうして鍵を集めていらっしゃるですか。

イタモト はじめ自分でコツコツ集めて店に飾っていたら、お客が海外旅行に行くたびに、お土産で買ってきてくれるようになり、こんなに沢山集まったようです。

シマジ 豪傑なお客がいて「ママ、ゴメン」ってホテルの鍵を持ってきた人がいたって語っていましたね。

立木 へぇ、その人、どうやってチェックアウトしたんだろう。

浜田 まったく不思議ですね。

シマジ でもヴェネティアの高級ホテル、ダニエリの鍵なんてふさふさのモールがついていて、かなり高価で格好いいけどね。きっと鍵を紛失したとか言って弁償金を払ってママに土産として持ってきたんじゃないか。

イタモト このサボイはママがまだ大映の永田雅一社長の秘書をしていたころ開店したそうです。彼女は店をはじめると美人のママで評判になり各界の名士がやってきたそうです。相撲界の大立者の双葉山、プロレスの王者・力道山、若き日の三島由紀夫、石原慎太郎も常連だったそうです。

立木 常連がみんな死んで、いまたった1人東京都知事だけが生きているなんて凄い店だね。

シマジ 老バーマンが1人いて、彼は長いことそこで働いているんですが、最近、食道癌になって快復したんだが、声を失った。だから筆談で注文に答えている。

立木 凄みのあるいい話だ。シマジ一緒に連れてってくれ。

イタモト ママの面倒見がいいんでしょうね。

浜田 わたしも行きたいわ。

シマジ 浜田さんは大樂さん<資生堂の担当>に連れてってもらいなさい。

大樂 えっ! はい、はい、了解しました。

イタモト オープン当時は、まだ海外旅行は洋行と言われていたそうです。サボイの上客はそのころから頻繁に洋行していたんですね。「ママ、土産は何がいい。香水、口紅、それともエルメスのスカーフ」と鼻の下を長くして美しいママに言うと、純子ママは品よく断わった。「それじゃ、鍵を買ってきてくださいますか」「鍵? ママ、まさか貞操帯の鍵じゃないだろうね」「それでもいいことよ。わたくしお店の壁に鍵をいっぱい飾りたいんです。出来るだけ大きくて古いものを買ってきてくださいな」ということで、お客たちの汗と涙の結晶がサボイの鍵コレクションとなったのです。

立木 60年もバーをやっていると面白い物語が生まれるもんなんだね。

イタモト じつは純子ママには外では兄と称する可愛い弟がいるんです。それが赤坂の有名なカナユニのオーナー兼マスターです。

立木 えっ、純子ママはあのカナユニの横田宏のお姉さんなのか。

イタモト ママは兄だと言っていますが、そうなんです。

立木 若いときカナユニはよく行った。おれが若い可愛い女の子を連れて行くと、必ずシマジも女連れでいやがるんだ。これがシカトしているとシマジもシカトしているんだ。

浜田 今日は大変人生のお勉強になります。

シマジ 横田オーナーの凄いところは、昨夜も別の女と食事に行ってるのに、今夜また行ったとすると「やあ、やあ、シマジさん、お久しぶりです」ってすまして言うんだぜ。泣けてくるよな。あの姉弟のお父上は日本銀行のエリート日銀マンだったそうだ。不幸にも若くて亡くなったそうだ。

立木 やっぱり出来がちがうんだな。

イタモト この間、ぼくもはじめて男の友達とカナユニに行ったら、シマジさんが若いきれいな女の子とカウンターで愉しそうに食事していました。

立木 シマジ、まだおまえは性懲りもなく、そんなことをやっているのか。

浜田 シマジさんのお肌の年齢は10歳以上お若くみえますから、こころもお若いのではないでしょうか。

シマジ タッチャン、おれたちがこの連載を4月からはじめてからSHISEIDO MENの売れ行きがグングン伸びて、いまや売り上げは115%台になったらしいよ。

立木 イタモト、シマジと食事していた女はどんな女だった。

イタモト それは秘密です。

立木 シマジ、白状しろ。どこのどいつだ。何歳なんだ。何やっている女だ。

シマジ それは秘密です。

立木 ようし、こうなったら、おれもこっそりカナユニに行ってみるか。

シマジ 浜田さん、年寄りの夜遊びはお肌に悪いんでしょう。

浜田 立木先生もシマジさんもあまり関係ないでしょう。でもお帰りになったら、必ず面倒でも、クレンジングフォームできちんとお顔の汚れを洗い流して、トーニングローションをつけていただきアクティブコンセントレイティッドセラムをぬって、そのあとスキンエンパワーリングクリームをぬり込み、最後にアイスーザーを目もとをいたわってください。

立木 シマジのように奥さんに断わりもなく、堂々と外泊する男はどうするんだ。

浜田 いつもバッグに入れて持ち歩くんですね。

シマジ はい、そうしております。

イタモト ぼくも持ち歩こうかな。

立木 イタモト、おまえはまず女を探すことだ。

イタモト はい、そうします。

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