第10回 双葉社 週刊大衆編集部 手塚祐一氏 第3章 シマジの“隠し子”が突然現れた!?

最近驚いたことがある。伊勢丹メンズ館8階のサロン・ド・シマジでの出来事であった。ヘビーユーザーのシラカワ・ヨシカズが突然いい出したのである。
「マスター、資生堂メンの連載を読んでいたら、ぼくも本館のSHISEIDOの売り場に行って、肌をチェックしてみたくなりました。1人で行くのは恥ずかしいので、コウガさんと一緒に行ってもいいですか」
コウガとはシマジガールズの1人で働き者である。
「シラカワ、仕方がない。コウガに案内させよう」とマスターは渋々許可した。
「それではシラカワさまをご案内して参ります」と2人は出て行った。残るお客さんとマスターは、「シラカワは多分Eじゃないか」と勝手なことをいっていたら、暫くしてシラカワが両手を上げてVサインを作りながらバーに戻ってきた。
「マスター、ぼく、やりました!診断の結果なんとBでした!」
「ホントか!?」
「多分みなさんに疑われるかと思って、写メールで結果をちゃんと撮ってきましたよ」シラカワは抜け目ない男である。そこに居合わせたマスターと5、6人のお客さんは茫然自失になった。
「シラカワ、いままで何かつけていたのか」とマスターは詰問した。
「全然何もつけたことはありません」とシラカワはニコニコしながら自信に満ちて答えた。
「Bは凄いよ。おれは本当にはじめてみたよ」とマスターも脱帽した。
「資生堂のBCの方も驚いておりました」とコウガが拍車をかけた。
「よーし、シラカワ、こうなったらAを獲得するために、おれの推薦しているSHISEIDO MENの5点セットを購入するんだな」
「やりますか。もしAになったら、マスター、ご褒美に何を”永久貸与”してくれますか」
”尊敬と無礼は紙一重”とはシラカワのために作った格言である。「おまえの欲しいものは何だ?」
「そうですね。もしAになったら・・・」
「もしAになったら・・・」
「シマジさんが資生堂の福原名誉会長と食事するとき、遠くから拝見させてください」
「おまえとしてはなかなか謙虚じゃないか。よーし、わかった。もしAになったら・・・」
「もしぼくがAを獲得したら・・・」
お客さんは全員耳がダンボになった。
「福原さんとおれのテーブルにおまえを招待してあげよう」
「それじゃ今夜からSHISEIDO MENを朝晩つけまくりますよ」
「コウガ、シラカワの気が変わらないうちにSHISEIDO MENをここに持ってきてくれる?」
「そうなると思いまして、ここに用意してございます」とカウンターの下からSHISEIDO MENの5点セットを取り出した。
さすがは天下の伊勢丹のシマジガールズである。
そういうことで、もしシラカワがAの判定を勝ち取ったら、福原さん、そのときはよろしくお願いいたします。もちろん福原さんのご本はすべて読ませてから連れて行きます。

シマジ ということで、肌チェックでBが出た男がいたんだよ。

立木 まさかその図々しいシラカワってヤツと福原さんとの記念写真をおれに撮らせるんじゃないだろうな。

シマジ タッチャン、今日も凄くいい勘をしているね。じつは そうなんだ。この間、アルニスのコートをシラカワに売りつけたんだが、条件として、おれとお揃いでアルニスを着て、お揃いのパイプを咥えて、おれとの記念写真を巨匠立木義浩に撮ってもらえるなら買います、といいやがるんで、軽はずみにOKしてしまったんだ。タッチャン、可愛いヤツなんで、取材のついででいいから撮ってやってよね。

立木 しょうがねえな。おれは素人の撮影はこの連載だけで沢山だよ。よし1回だけだぞ。2月か3月の取材のときシラカワを連れてこい。そいつの顔がみたくなってきた。

シマジ そんなに急がなくたって、まあいつでもいいんだよ。

立木 でもアルニスのコートを着て撮りたいのなら、寒いうちがいいんじゃないか。

シマジ そこがタッチャンのやさしいところだね。わかった、来週、早速シラカワに朗報を伝えておこう。

立木 あまりおれをダシに使わないでくれ。素人ばかり撮っていると腕が錆びる。

テヅカ 今日はぼくでスミマセン。

シマジ 了解。

テヅカ しかし伊勢丹のサロン・ド・シマジでは凄い商談が交わされているんですね。

シマジ おれはどうも生まれつきの働き者らしい。しかも編集者とバイヤーはよく似ているんだ。面白いものを読ませたいというのと、美しいものを買って欲しいという精神は同じだんだ。

木水 でもそのシラカワさんって方は凄いですね。いきなりBですか。何歳なんですか。

シマジ たしか33とかいっていました。とにかくこいつは面白いヤツなんだ。おれの著作はすべて読み込んでいて、はじめてサロン・ド・シマジにやってきたとき、こういったんだよ。「シマジさん、ぼくをわかりますか。30年以上前のことですが、ぼくの母は銀座のクラブで働いていました。ぼくを産んで小学校3年のころ亡くなったんですが、死ぬ前にぼくを枕元に呼んでこう告白したんです。「ヨシカズ、じつはおまえの本当のお父さまは集英社のシマジという悪名高い編集者なんですよ。いつかおまえから勇気を持って訪ねて行ってごらんなさい。あの人はきっと驚くでしょう。合い言葉は『おれを忘れて幸せになれ』です。これが、あなたのパパ、シマジさんがママにいった最後の言葉なのです」

立木 そいつは相当ユーモアの才能があるヤツだな。おまえもブルったろう。ありえない話ではないからな。

シマジ 浅草の鷹匠・寿のミツルは、マガジンハウスの木滑さんなんかが、ミツルをシマジの隠し子だといってからかっていた。そのときにはうまく逆手にとって「ミツル、そうなんだ。だから親孝行しろよ」って、いったけど、内心はおれも一瞬驚いた。まだお客がこない午後1時前にやってきて、こっそりと小声で隠し子だというんだよ。

マルタン 何か面白そうな話ですね。木水さん、詳しく通訳してください。

木水 マルタン、これはあとでゆっくり教えてあげますね。

マルタン ぼくはもっと日本語を勉強しなければいけません。

テヅカ ぼくもシラカワさんに会いたくなってきました。ユーモアがありますね。

シマジ 手のつけられないブラックユーモアだけどね。

立木 昼間からシングルモルトを飲ませてシガーを吸わせ、あそこはまさに現代の魔窟だ。

シマジ いやいや、新しいパワースポットが新宿に誕生したとみんな喜んでいるよ。じつはシラカワの本業は不動産業なんだ。いままで契約がなかなか決まらずイライラしていたんだが、サロン・ド・シマジに通い出してから、1億円のマンションの契約が決まるわ、1億5千万円も物件が売れるわ、でシラカワはウハウハなんだよ。

テヅカ たしかあのバーにはシバレン先生や今東光大僧正の直筆の書が飾ってあるから、凄いパワーがあるんでしょうね。ぼくも近々行って、「週刊大衆」でスクープを授かるようにお願いしに行きます。シラカワさんは常連さんだからそのうち会えますよね。

シマジ おれよりサロン・ド・シマジに通っているヤツなんだ。おれは土日しか行けないけど、ちゃっかり1人で平日通っているみたいだよ。

テヅカ 平日もバーはやっているんですか。

シマジ もちろんだよ。シマジガールズがシェーカーを振っている。

立木 おれはシマジとは下手をするとひと月に3回は取材で会っているから、シマジガールズのほうがいいな。

木水 この間、ドアからなかを覗いたら、きれいな若い女性の常連さんも結構いらっしゃっていましたね。

シマジ 男も女も若きもお年寄りのお客さんも、愉しく和気藹々と談論風発しています。木水さん、今度は勇気を持ってドアを開けてなかにお入りください。判定Bのシラカワを紹介します。

木水 わかりました。必ず伺いますわ。お約束します。

シマジ そのときマルタンも連れてきてください。デパートで昼間からシガーが吸えて、シングルモルトが飲めるバーなんか、世界中探しても新宿伊勢丹しかありません。そうだ、シラカワの名誉のためにいっておくけど、あれで大のベートーヴェン狂なんだ。昨年の年末、三枝成彰さんの主催するベートーヴェンの交響楽第1番から第9までを12時間ぶっ続けでやるロング・コンサートに行きたいというので、三枝さんに特別に頼んで、いい席を取ってやったんだ。

テヅカ へえ、ベートーヴェンですか、想像がつきません。

シマジ そしたら、コウガに頼んで一緒に伊勢丹の売り場に行って、コートからマフラーから手袋まで新調して、ネクタイをちゃんと締めてコンサート会場に現れたんだ。おれは楽な格好で行ったんだがね。ネクタイしている聴衆はシラカワ1人だったんじゃないか。

立木 今年の第9はマーラーの編曲したもので長かったらしいね。

シマジ でもよかったよ。おれはマーラーを見直した。楽器も倍くらい増えて絢爛豪華な第9だった。それからシラカワの可愛いところは、50センチはある陸亀と猫を飼っているんだ。猫が陸亀の背中に乗っている写真を待ち受け画面にしているんだよ。

木水 可愛いですわね。

テヅカ シラカワさんってやさしい男なんですね。

立木 そいつはまだ結婚していないだろう。

シマジ どうしてわかるの。

立木 シマジに騙されてアルニスの”森の番人”を買うようなヤツは、独身でないと金を使えないだろう。

シマジ シャーロック・ホームズみたいなことをいうね。そうかもね。でも今年の年末のベートーヴェン・ロング・コンサートには新妻と行きたいなんてほざいていたけどね。

立木 絶対無理だな。シマジと親しくなればなるほど、男も女も婚期は遅れるに決まっている。

テヅカ 立木先生、どうしてですか。

立木 決まっているじゃないか。こんな浪費家に影響されたら、結婚なんか出来っこないだろう。シマジは浪費こそ文化だなんていっているんだよ

テヅカ なるほど。たしかに結婚生活って慎ましいものですよね。

シマジ 人生は1千万円貯金するより、1千万使ったほうが愉しいに決まっているじゃないか。

テヅカ 『シマジ流浪費のススメ』も書いてもらおうかな。

シマジ テヅカ、ゴメン。これは『シマジ流男の礼儀作法』より先に注文を受けているんだが、遅々として進まずなんだ。

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