<店主前曰>
静岡県のコーヒー焙煎卸業の息子に生まれた川島良彰は、生まれながらにして“コーヒー・ハンター”になる運命にあった。現在、美味しいコーヒーを求めて世界中を飛び回る川島は、少年時代から生のコーヒー豆が入った麻袋が積まれた倉庫のなかで遊ぶのがいちばん好きだった。そのころからコーヒー農園で働き、コーヒーの仕事をしてみたいと川島少年は夢みていた。寝ても覚めてもコーヒー一途の少年は、18歳のとき幸運にもエルサルバドル大学に留学することが出来た。これがコーヒーへの世界に身を投じるまさに第一歩であった。
一方、今回の資生堂からやってきた原田忠は群馬県生まれで、母親は美容院を経営している。でも少年のうちは、空高く飛ぶ戦闘機に憧れて、ジェット機のパイロットになりたかった。燃え上がる情熱を抑えきれず、ひとまず自衛隊に入隊した。原田の目標はあくまでもパイロットになることだったが、空の交通整理の仕事をする航空管制官にしかなれなかった。これだって大変な狭き門であったのだが、管制官になって1年半、自衛隊に入隊して3年目、迷いに迷ってやめた。そして母親の仕事を継ぐがごとく、美容師になる道を選んだ。みんなより3年の遅れをとって美容の道に進んだが、原田はいま資生堂のヘア&メーキャップアーティストのトップとして名を馳せている。
鼎談は、元麻布にある高級喫茶「ミ・カフェート」で行われた。コーヒーは、いまをときめくコーヒーハンター、川島良彰みずから淹れてくれた。
シマジ 川島さんが最近出した『私はコーヒーで世界を変えることにした』<ポプラ社>は、一気に読みました。わたしは川島さんのことはよく知っているほうですが、文章にして読むと、また印象がちがいますね。
川島 シマジさん、いつものように「ホセ」と呼んでください。
原田 このコーヒーの美味さは何ですか。バカウマですね。あっ、申し遅れました。資生堂の原田忠と申します。
川島 原田さんもぼくのことをこれから「ホセ」と呼んでください。
シマジ ホセ、今日の資生堂からの助っ人の原田さんは、自衛隊出身のヘア&メーキャップアーティストなんだよ。
原田 いえいえ、自衛隊の落ちこぼれの原田です。
シマジ 原田さんは「ジャパン・ヘアドレッシング・アワード」という日本美容界の最高峰の賞などを総なめしている実力者なんです。
立木 今日はシマジ以外はイケメンだから仕事が楽だ。
川島 立木先生、イケメンはやめてください。ぼくはもう57歳ですよ。
シマジ えっ、ホセは57歳なの。47歳かと思っていたよ。コーヒーをたくさん飲むとポリフェノールがいっぱい摂れるから、年を取らないかもしれないね。
原田 ホセさん、一応決まりですから肌のチェックをさせてください。
川島 「ホセさん」は気持ちが悪いよ。「ホセ」でいいですよ。
立木 じゃあ、一度3人一緒にこちらを向いて、OK。何か男だけ3人って気持ち悪くないか。そこにいる彼女、なかに入ってくれる。
シマジ だめだよ。彼女はサイトを編集している裏方さんなんだから、いくらきれいでも無理だよ。タッチャンはもともと婦人科写真家といわれていた時代があったから、すぐ女性になびくんだね。
立木 なつかしい言葉だね。シマジ、100年前の話はするな。
原田 判定が出ました。Eでした。
川島 Eはいいんですか。悪いんですか。
シマジ まあ、日本人の男はEが多いね。そこでニコニコ笑っている丸岡会長は、じつは伊勢丹のサロン・ド・シマジの常連で、SHISEIDO MENの愛用者なんですよ。丸岡さん、チェックしてみてください。
川島 うちの丸岡はシマジさんになりたくてシマジさんのいう通り何でも買っている男なんです。メガネだってジャケットだって化粧品だって高いヒゲ剃りだって、すべてなんですよ。
立木 丸岡さん、シマジになろうなんておやめなさい。こんなロクでもない男のどこがいいんですか。
丸岡 シマジさんは格好いいじゃないですか。
シマジ わかった。立木義浩にはなかなかなれないが、シマジにはすぐなれる、ってことだよね。タッチャン、そんなに目くじら立てなくてもいいんじゃないの。
原田 丸岡さんの判定が出ました。Dです。
丸岡 そうでしたか。じつは先日伊勢丹の1階でこっそり測ったときはCでした。やっぱり昨夜あんまり眠っていないせいですかね。
原田 睡眠不足は肌にはテキメンです。
川島 丸岡さんがDでどうしてぼくがEなんだろう。
丸岡 ホセ、おれは毎朝毎晩シマジさんにいわれた通りにクレンジングフォームで顔を洗い、トーニングローションをペタペタとつけて、次は乳液のアクティブコンセントレイティッドセラムを2プッシュの平にとってぬった、スキンエンパワリングクリームをつける。そのあとは・・・
川島 えっ、まだつけるの。
丸岡 最後は目の周り専用クリーム、アイスーザーをつけるんだよ。これらのすべてをつけないと一日がはじまらないし、一日が終わらないですよ。
シマジ でも丸岡さん、気持ちいいでしょう。
丸岡 じつに気持ちいいです。これも知る悲しみの一つですね。
シマジ 丸岡さんは一流商社の関連会社の社長だったが、ホセと出会い会社をやめて、ホセと一緒に会社を興したそうだよ。
立木 丸岡さん、あなたにはみる目があるじゃないですか。それがどうしてシマジになりたいなんて、バカなことを考えているんですか。
丸岡 だってシマジさん、格好いいじゃないですか。
立木 じつはシマジをここまでするのにおれがどれだけ苦労したか。本人は、ほら、この通りまったく聞いていないだろう。
シマジ ホセの近著を読むと、ホセの人生はまさしく命がけだったんだね。
川島 美味しいコーヒーはいままで政情が安定していないところでないと作られなかったんです。
原田 いま飲んでいるのはどこ産なんですか。
川島 これはジャマイカ産のブルーマウンテン、南斜面のグランクリュです。
シマジ この、あとを引く酸味のなかの優雅な後味が抜群だよね。
原田 新宿伊勢丹のサロン・ド・シマジでも売ってるそうですね。
シマジ はい。一杯2,000円で売っています。シングルモルトはシングルで800円でコーヒーが2,000円ということはどうなっているんだ、とお客さまがこころで思っているようですが、このグランクリュを飲んで、なるほどと笑みがこぼれるようです。わざわざホセに何度も伊勢丹にきてもらって、淹れ方を教えてもらったんです。この間の5月3日には、世界一美味いアイスコーヒーの作り方の講習会をやったんです。
原田 美味しそうですね。
シマジ 飲んでみたいでしょう。
原田 飲んでみたいですね。
立木 はい、みたいでーす。
シマジ 仕方がない。ホセみずから淹れてもらおうか。
川島 これは同じジャマイカのブルーマウンテンのグランクリュですが、少し濃いめに作るのがコツです。それにこの器”SUS”がスグレモノなんです。氷が4,5時間全然溶けないんです。このSUSの器をみつけてぼくは、はじめてアイスコーヒーを作ってみようと決心したんです。
原田 これはどこの製品なんですか。
川島 これは燕三条の名品です。SUSというメーカーのものです。
原田 たしかに冷たさがちがいますね。
立木 アイスコーヒーって日本しかないんだよね。
川島 そうです。ラーメンみたいにまさしく和製です。
立木 ちょっと前までパリでは氷だってサービスしてくれなかったからね。
シマジ その反対にアメリカでは山のように氷をくれるよね。
原田 こんな美味いアイスコーヒーは生まれてはじめてです。ありがとうございます。ここへくればいつでも飲めるんですか。
シマジ 伊勢丹のサロン・ド・シマジでも飲めますよ。それにSHISEIDO MENを全商品揃えて売っています。一度ご覧下さい。福原さんはよくいらっしゃっておいでですよ。
原田 わかりました。両方に行きます。今日は参加出来て最高でした。
シマジ 原田さん、ホセの血湧き肉躍る面白い体験談はこれからです。