<店主前曰>
繊細なバーマン羽崎修平はキックボクシングを趣味としている。だから美食家でありながら体はしっかり締まっているのだ。よくキックボクシングの試合にも出ている。先日はチャンピオンの試合のセコンドを務めた。ほとんど毎日明け方に寝る羽崎が三日にあげずジムに通っているというのも見上げたものである。
シマジ おれがボトリングしたサロン・ド・シマジ・ファーストリリース、ハザキは何本仕入れたんだ。
ハザキ 5本買わせていただきました。
立木 買いすぎじゃないの。
武田 それはどこの蒸留所なのですか。
シマジ 埼玉県秩父にある蒸留所のイチローズモルトなんです。しかも26年もののマデラワインカスクストレングスです。
武田 高そうですね。
シマジ 肥土伊知郎の太っ腹で3万円で売り出したのですが、予約販売の段階で260本すべて完売してしまいました。
立木 シマジは雑誌を売るのも上手いけどモルトウイスキーを売る才能まであったのか。
シマジ シングルモルトラバーはよくその値打ちを知っていたんでしょう。じっさい伊知郎は7万円くらいで売って欲しかったようです。いまネット上で1本7万8千円で取引されているようですよ。
立木 サロン・ド・シマジ・ファーストリリースはまだここで飲めるの。
ハザキ 2本はすでに売れましたがまだ3本残っています。
立木 おれに一杯飲ませてくれる?
武田 わたしも飲んでいいでしょうか。
シマジ どうぞ、どうぞ。ハザキ、これはおれのおごりにしてくれ。
ハザキ わかりました。
立木 まず最初にストレートで飲んでもいいかな。
シマジ タッチャンには長生きしてもらわなくちゃいけないからストレートはやめてください。トワイスアップで飲んでいただけませんか。そのほうが香りも味も立ってきますよ。
立木 わかった。うん、これは美味いねえ。一杯いくらなの。
ハザキ うちではシングル一杯4,500円で売っております。
シマジ それは安いね。ほかのバーで飲んだら一杯5,000円だったよ。
ハザキ これは噂通りのスグレモノですのであまり売りたくないのが本音です。
シマジ ハザキ、いいこといってくれるじゃないの。じゃあおれにも一杯くれないか。
ハザキ いいですよ。
武田 これは飲みやすく美味しいですわ。
ハザキ ありがとうございます。シマジさん、サロン・ド・シマジ・セカンドリリースはもう予約を受け付けているんですか。
シマジ もうはじまっているはずだよ。今日発売のpenでその特集が掲載されている。ハザキは読んでないのか。
ハザキ ゴメンナサイ。明日さっそく買わせていただきます。シマジさんの個人的な評はどうなんですか。
シマジ これはグレンファークラス32年もので、ポートカスク仕上げなんだ。シェリーカスクがほとんどのグレンファークラスとしては珍しいんだよ。これもグレンファークラス蒸留所は8万円くらいで売りたいところをおれが頭を下げて3万5千円にしてもらった。蒸留所のオーナー、ジョン・グラント会長が暫し思案してから「シマジ、その代わり1回限りだよ」とこれまた太っ腹で認めてくれたんだよ。
ハザキ そんなに安いんですか。ぼく、また5本買おうかな。
シマジ まあジョンは宣伝費だと思って気前よく3万5千円にしてくれたんだろうね。
武田 わたしもニューヨークに行かなかったら1本買いたいところです。
シマジ 2年後帰国したらたっぷり飲んでもらいましょう。
立木 それまで残っているかな。
シマジ 大丈夫。おれ自身10本購入しようと思っている。そしてタッチャン、北方謙三、伊集院静にお歳暮の代わりに贈ってあげようと考えているんだ。
立木 シマジ、ありがとう。やっぱり何よりも尊いものは友情だよね。でも友情の倍返しの請求書がきたりしないだろうな。
シマジ それはタッチャン次第でしょう。いやいや冗談、冗談。いつも悪条件なのに素晴らしい写真を撮ってもらっているタッチャンにそんなことはいえません。
ハザキ どんな味なんですか。
シマジ 一言でいえばポートマチュアードだから少しフルーティーでスイートかな。
立木 シマジ、いま飲んでみたい。
シマジ それはタッチャンといえど無理だよ。12月15日には予約したお客さまの手元に届くはずです。ラベルもpenのデザイナーが凝りに凝ってグッドセンスを発揮してくれた。
ハザキ やっぱり箱入りですか。
シマジ もちろん。化粧箱入りでサトウトシキが編集した冊子がついているよ。あっ、そうだ。今度はせっかくスコットランドに2週間もいたので、ほかに2本発売されるんだ。1本はグレンドロナック、もう1本はベンリアックだ。
ハザキ それは凄い！いくらで販売されるんですか。
シマジ たしか1万円以下だったような気がする。
ハザキ それはまた安いですね。
シマジ わたしの信奉者たちへのささやかな還元だね。
ハザキ そういう太っ腹な還元はこれからも大いにやってください。
立木 シマジは編集者からエッセイストになりバーマンになりついにはボトラーズまでやっているのか。
武田 素晴らしい人生ですね。
シマジ やっぱりアカの他人の七光りがそうさせてくれているんでしょうね。
ハザキ そういえばもうそろそろＮＨＫのテレビ番組が放映されますよね。
立木 テレビ嫌いのシマジがどのように振る舞うのかみたいものだな。
シマジ 11月27日＜水＞夜10時からＮＨＫＢＳプレミアムで「全身編集長 文豪から学ぶオトコの生き方」というタイトルで放映される予定なんだが、幸いなことにおれの出番は少ないんだ。
武田 シマジさんをフィーチャーしているのにどうしてなんですか。
シマジ 再現ドラマで週刊プレイボーイ編集長のころのおれを演じるイケメンの俳優がいるんですよ。
立木 でも72歳の現実のシマジの姿もドキュメンタリーフィルムで流れるだろう。
シマジ まあ今東光大僧正の墓参りや伊勢丹のサロン・ド・シマジでシェーカーを振っているところや「乗り移り人生相談」をミツハシとどのようにしてやっているかの舞台裏も少し放映されるだろうけど、全体の70％が再現ドラマなんだよ。
立木 トモジは誰が演じるんだ。
シマジ それはよくわからない。
立木 再現ドラマより生身のトモジのほうが迫力あるんじゃないか。
シマジ どうかな。俳優がやったほうが生臭くならないんじゃないの。
ハザキ それにしても愉しみですね。
立木 シマジはテレビには出ないとあれだけいっていたのに、ついに禁を破って出るのか。
シマジ これは最初で最後のテレビ出演だよ。
武田 残念ながらわたしはそのころニューヨークです。
シマジ 武田さんには特別にＮＨＫからＤＶＤをもらって送ってあげますよ。
立木 シマジ、どうして武田さんにそんなにえこひいきするんだ。
シマジ それは彼女が美人でしかも伊勢丹のサロン・ド・シマジによくきてくれたからだよ。
ハザキ シマジさんお得意のえこひいきの倍返しですか。
シマジ まあ、そういうことだね。
