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第11回 銀座 玉木 玉木裕氏 第3章 玉木の多彩な経験が料理の味を走らせる。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

日本人の口に合う、多彩なフランス料理を考案してきた玉木裕は、柔軟な思考とチャレンジ精神の持ち主である。それは彼の経歴にも表れている。18歳でこの道に入った。神戸ニューポートホテルで8年、いまはない神戸の「塩屋異人館倶楽部」に2年在籍した後、同店で知り合ったフランス人のギャルソンの紹介で、魚料理で有名なパリの老舗レストラン「ラ・マレ」に入り修行した。帰国後玉木はこれまた日本料理の老舗「重よし」に入り和食の奥義を3年間学んだ。その多才ぶりを買われて千葉県の名門ゴルフ場「グレートアイランド倶楽部」で16年間料理長を務めたあと、広尾に「玉木」をオープンした。そして2011年6月、遂に自分の店を銀座に進出させたのである。
玉木は今日も冬の名魚、大きなクエ<アラともいう>を見事な手つきでさばいていた。今夜のお客はさぞ美味なる逸品を味わうことだろう。

シマジ:玉木が本場のフランス料理を食べて最初に感じた印象ってどうだったの。

玉木:それがなにを食べても塩や酢など味がきつ過ぎて2、3ヶ月間は美味いと思いませんでした。でも驚いたことにだんだんと自分の汗のかき方や体臭が変わっていったんです。フランスの気候のせいでしょうか。その頃から味覚もなじんできて、現地の料理を美味しいと感じるようになりました。だからせっかくパリで学んだからといって単に現地のフレンチの味をそのまま日本のお客さまに出すのではなく、そこに日本流の味を加えた方が受け入れられるんじゃないかと思ったんです。フランスと日本は気候風土も違いますし、例えば醤油など、日本人のDNAに刻み込まれたような味覚があるのではないかと考えたんです。そこで帰国して一流の和食を学ぼうと、あえて「重よし」で修行させてもらいました。

シマジ:原宿の「重よし」はおれもよく行くけど、あそこの料理は一流だもんね。オーナー料理長の佐藤憲三さんは素敵な人です。よく広尾の玉木に顔を出していたよね。

玉木:銀座にもよくお見えになります。河岸でもお顔を合わせます。

立木:もうベテランの玉木に、いまでも心配してくれる師匠がいるっていいね。

玉木:去年の年末、おせち料理の箱詰めの手伝いに「重よし」に行ってまいりました。

シマジ:師匠と弟子がこんなに親しいのは珍しいし美しいことだね。他にも玉木が影響を受けた和食の料理人は誰かいますか。

玉木:それは京都の割烹「千花」の永田さんです。若い頃何度も永田さんに「いいか、料理は走っている味を目指せ」といわれました。

シマジ:走っている味つけか。タッチャンの写真もいつも走っているよね。

立木:ありがとう。シマジの文章もいつも走っています。

玉木:「千花」は戦前からある名店で、永田さんは昭和の天才料理人といわれた方です。

シマジ:そういう方がいたからこそ和食が世界遺産になったんだろうね。玉木はどうして18歳のとき料理人になろうと思ったの。

玉木:中学生のころは学校の先生になろうと思っていたんですが、自分のなかですべてが完結する料理の世界というものに引かれるようになって、この道に入りました。

シマジ:料理人というのは玉木にとってまさに天職だよ。

立木:シマジの要求通りにハヤシライスを作れる料理人はそうはいないからね。しかも最高級の神戸牛のバラ肉を使うなんておれには考えられない。その辺の安いバラ肉で十分だろう。シマジにはわからないって。

玉木:それがすぐバレてしまいました。シマジさんになにか違う、なにか違うと言われ続けて結局8回も作らされたんです。

シマジ:そうだったね。でも8回目にして玉木の作るハヤシライスが走ったんだよ。

玉木:お陰さまでうちのハヤシライスはその後10誌の雑誌に取り上げられました。小学館の橋本編集長の「和楽」にも掲載されました。

立木:えっ!あのうるさいハシモトがやったの。そうだ、あいつはメンズプレシャスの取材のとき、福原さんやおれやシマジとここでハヤシライスを食べたことがあったね。あいつそのときの味を覚えていたんだ。

玉木:メンチカツも好評です。これも沢山の雑誌に取材されました。

シマジ:玉木が仕入れる神戸牛は最高級だから、メンチカツにしてもハンバーグにしてもステーキにしても抜群に美味い。

玉木:ありがとうございます。

梶原:本当に今日いただいたハヤシライスとメンチカツは美味しかったです。当分忘れられません。

シマジ:忘れたら女子会か彼氏とまた来ればいいじゃないですか。

梶原:はい、そうさせていただきます。

玉木:お客さまのなかには長期の海外出張から戻られて、成田に着くと同時に「今夜、メンチカツを食べたいので行っていいか」と電話をくださる方もいらっしゃいます。

シマジ:多分料理人はそうしてお客にこころをくすぐられて一流になっていくんだろうね。そして一流の店には一流のお客が集まってくる。梶原さん、ここにはメンチカツ以外にもちろんいろいろなフレンチがあるんですよ。それは夜に来てみればわかります。ところで玉木、フレンチの要諦はなんですか。

玉木:それはやっぱりその店で作るコンソメスープでしょう。フランス料理はコンソメスープを作れるようになれば一人前といわれるくらいです。

シマジ:そうか、料理の基本という点で、コンソメスープは日本料理で言うところの出汁なんだね。それをベースになんにでも他の料理に使うんですね。

玉木:嬉しいことにうちにいらっしゃる食通のお客さまに「ここのコンソメスープと同じものを作っているお店は東京で3軒しかないね」と褒めていただいたことがあります。

シマジ:作るのにどれくらいの時間がかかるの。

玉木:2日間はかかりますね。

シマジ:えっ、2日間もかかるんだ。それでブルショットを作ったらさぞや美味いだろうね。

梶原:ブルショットってなんですか。

シマジ:カクテルの一種で冷たいコンソメスープとウォッカをシェイクした飲み物です。食前の一杯は堪りませんよ。

梶原:美味しそう、飲んでみたいです。

シマジ:赤坂の「カナユニ」に行くと飲ませてくれますよ。

立木:家で作るわけではないけど、どうやって2日もかけてコンソメスープを作るのか教えてくれる?

玉木:はい、うちではまず4羽の鶏をセロリ、タマネギ、ニンジン、ポロネギと一緒に煮込みます。煮込むほどいい味が出ます。

シマジ:どれくらい煮込むの。

玉木:6時間くらいですか。それを一晩冷やして翌日第2段階の仕込みに入ります。牛スネをミンチにして野菜はまたセロリ、タマネギ、ニンジン、ポロネギ、そして卵白を練り込みます。これを前日に作っておいた鶏のスープと一緒にしてまた6時間煮込みます。卵白が灰汁を吸着して浮かび上がり、熱い蓋のような状態になります。その中央をドーナツ型に空け沸いてくる圧力を抜きながら煮ます。十分に煮込んだら布で漉します。漉し終えた煮汁の表面に浮いている脂を丁寧に取り除き、味を調えて完成です。

立木:到底家庭で作れるものではないね。

シマジ:わかった。おれの大好きなヴィシソワーズもそのコンソメスープがベースになっているんだ。

玉木:はい、あとはジャガイモとポロネギさえあればヴィシソワーズは簡単に出来ます。

立木:いちばん気を遣うところはどこなの。

玉木:牛スネをミンチにして野菜と卵白を混ぜ、それを練ってのばすところでしょうか。そのあとの火加減も大事です。この辺が澄んだコンソメが引けるかの勝負になります。おととい作ったコンソメよりも今日作るコンソメ、今日作るコンソメよりもあさって作るコンソメをより美味しく作ろうといつも心がけております。

シマジ:食材はすべて日本で間に合うんですか。

玉木:トリュフなど特別なもの以外はほとんど国内で間に合いますね。

シマジ:日本の流通システムは世界一と言われるくらい、なんでもクール宅急便で鮮度を保って迅速に送られてくるからね。日本は食に関しても恵まれた国だね。

玉木:そうですね。いまおろしているクエは今日和歌山から届いたものです。

立木:丸々太って、見るからに美味そうなクエだね。

新刊情報

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(ペンブックス)
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出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

玉木
〒103-0000 東京都中央区銀座8丁目5−25 エイトビル 1階
Tel: 03-6252-9381
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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