皮膚科医に学ぶ「敏感肌」

あなたにも潜む「敏感肌」のリスクとは?
最も大切なのは「毎日のスキンケア」

皮膚科医の視点で「敏感肌」についてやさしく解説します

関東 裕美 先生

関東 裕美 先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医

東邦大学医療センター大森病院スキンヘルスセンター長、皮膚科教授として臨床、教育を長年にわたり行う。退官後も同施設特殊外来で2022年までアトピー性皮膚炎患者診療を継続。
現在は稲田堤ひふ科クリニック、玉川クリニックにて外来を担当。

1950年代から敏感肌研究をスタートした資生堂と、40年以上もお付き合いのある関東先生。皮膚科医として多くの助言をいただいてきました。

今回は、関東先生が敏感肌に悩みを持つ多くの患者さんと向き合う中で気づいた共通点や、肌の調子が悪いときにこそ思い出してほしいスキンケア方法などについて語っていただきました。

敏感肌とは? 「自分は敏感肌だ」と思うのは自然なこと

日常診療では、敏感肌の悩みを抱えている患者さんがたびたび来院します。

患者さんの中には、客観的にみて病気・疾患であると診断できる場合と、そうではないが肌が刺激を起こし易くなっている場合と、精神状態が安定せずに肌の感覚が敏感になっている場合とがあります。

実は「敏感肌とは?」については明確な定義がないので、敏感肌とそうでない肌の境界線は、 “自分が敏感肌と自覚しているかどうか”なのです。

そもそも肌の調子は一定なものではなく変化するものですから、「自分は敏感肌だ」と思うのは自然なことだと思います。つまり、敏感症状は誰にでも起きうるもの、感じうるものと言ってよいでしょう。

私たちを取り巻く環境は常に変動するものですし、内的な状況(自分の生体の状態)も常に同じはずがありません。程度の差はありますが、環境に常に順応できるのはとても難しいことですから肌はひとときも同じ状態ではなく、順応できないときには肌が敏感になります。

当然ながら、朝、昼、夜と肌コンディションも違うはずで、朝起きてすごく肌が乾燥していたけれど、日中になると余分な皮脂がでてベタつきが気になったり、また夕方になるとカサついてきたり……さらに日中を屋外で過ごすと、より肌変化を感じやすくなります。

紫外線や粉塵、PM2.5、⻩砂、排気ガス、花粉など様々な外的ストレスにさらされた肌は、たとえ健康な肌であったとしても、1日外気に触れていることで夕方には敏感になります。

敏感になっている肌では角質層の水分量や皮脂量が低下してしまい、バリア機能が十分ではなくなってしまっていることが推測されます。そのような状況で刺激物質が入りやすくなり、かゆみや湿疹、かぶれなどを引き起こしやすくなります。

敏感肌こそ、化粧品を使うべき!

では、敏感肌にとって、化粧品の役割とは何でしょうか。

私は「敏感肌こそ、化粧品を使うべき」と常々言っています。

敏感肌だからこそ“肌とよく向き合い、肌を守り、すこやかでよりよい肌へ導く”ために、洗顔、保湿、サンスクリーン(日焼け止め)の化粧品が必要だと考えています。

患者さんの中には「自分に合う化粧品がない」と嘆く方がいますが、よくよく話を聞いてみると、自身の肌状況に合わせて適切な化粧品が選べていないことが多いようなのです。

たとえば、受診時に肌の乾燥がひどくなっている患者さんに、1週間ほど洗顔料をお休みしてぬるま湯ですすぐだけにしてもらいます。そして何種類もの化粧品を使わず、保湿とサンスクリーンの2種類にすることで肌への負担を減らすことを提案します。

1週間後の再診時には、肌が改善されているケースはよく経験しますが、ご自身が今まで肌を擦りすぎであったことを自覚してもらうことができます。

肌トラブルの原因は、洗顔のし過ぎかも?

ここで、敏感肌向けの基本のスキンケアステップを確認しましょう。

  • STEP 1 洗顔

    まずは洗顔料で肌をやさしく洗い、余分な皮脂や汚れ、古い角質を落とします。

  • STEP 2 保湿

    洗顔後は、ほうっておくとどうしても水分が奪われて乾燥しがちになるので、うるおいで満たす保湿をしましょう。角質層に水分をたっぷり補給することで、肌のバリア機能を整えます。

  • STEP 3 サンスクリーン

    紫外線ダメージから肌を守るために、サンスクリーンは1年を通して必ず塗ることをおすすめします。

この3ステップ(洗顔、保湿、サンスクリーン)が大切なスキンケアになりますが、患者さんに話を聞くと、洗顔の仕方を間違っている人が多いのです。

たとえば、ニキビができたからと洗顔の回数を増やして、肌に必要な皮脂を取り過ぎてしまうとか……そうすると、人間に備わっている生体防御反応で修復しようとするので、かえって油っぽくなってベタつくことがあります。

また、環境の変化や自身の変化を無視して肌が乾燥しているのに普段通り洗顔を続けている患者さんたちをよく経験します。このタイプは、洗顔後にいつもより量も種類も多く保湿をすればリカバーできると思っていらっしゃる方が多いようです。

でもこれも大きな間違いで、肌本来の皮脂を洗顔で落としてしまっているので、いくら化粧品で保湿をしても追いつかず、乾燥が加速することもあります。

洗顔では汚れや余分な皮脂だけを落とし、肌内部のうるおいを奪わないように心がけましょう。

肌のバリア機能を守る、正しい洗顔方法とは?

敏感肌の方は、肌トラブルを防ぐために低刺激タイプの洗顔料を選ぶだけでなく、使い方・使用量にとくに気をつける必要があります。

基本はメーカー推奨の使用量を守りつつ、肌が乾燥しやすい時期は量を少なくしてベタつきやすい部位だけ洗うとか、逆に汗をかきやすい時期はたっぷりの量で顔全体を丁寧に洗うなど、季節や肌状態に合わせた使い方をすると肌のゆらぎは少なくなるはずです。

洗顔による肌トラブルを防ぐために、摩擦や擦れが肌の刺激にならないように注意しましょう。肌にダメージを与えないように洗顔するには、洗顔料はたっぷりと泡立てることが大切です。

すすぎは人肌程度のぬるま湯に、また敏感肌にはシャワーの水圧が刺激となりますから手で洗い流してください。メイクをしている日は、メイク落としを使ってから洗顔料で洗うダブル洗顔が必要です。

ただし、季節や年齢、肌の過敏状況やメイクの種類なども考慮した上で、ダブル洗顔をしてよいかどうかを自身で見分けることが望まれます。

肌がゆらいでいるときは、アイテム数を見直す

肌の不調で皮膚科にかかり、皮膚科医の指導のもと薬を使用する場合もあると思います。そんなときでも、通常のスキンケアは大切です。

薬を使っている時でも、肌を清潔に保つための洗顔はするようにしましょう。

また、乾燥や紫外線などによる肌へのダメージを防ぐために、保湿やサンスクリーンも必要です。

自分の肌を守る上で、化粧品にはとても大切な役割があります。

肌の調子が悪いときのスキンケアのポイントは、以下の3つです。

  • 1. 肌にさわる回数を減らす
  • 2. 使用法や使用量は守る
  • 3. 物理的な刺激を避ける

たとえば普段、保湿のために3つのアイテム(化粧水、乳液、美容液)を使っているとして、外用薬を処方された時には化粧水だけにして、薬、サンスクリーンにすれば肌にさわる回数は減らせますよね。

ただし、アイテムを減らしても各々の使用法・使用量は規定のものを守りましょう。また、刺激という側面から考えるとコットンより手でやさしくなじませたほうが、負担は少なくなります。

紫外線から肌を守れるのは、サンスクリーンだけ

紫外線から肌を守る重要な手段は、サンスクリーンです。

紫外線過敏がみられる患者さんには、サンスクリーンが症状の原因である紫外線から肌を守れるものであるから、年間を通じて使用するようにと指導します。

サンスクリーンは刺激を感じて、しみるから使いたくないと思う方がいらっしゃいます。

敏感になっている肌には、低刺激で肌にやさしい紫外線吸収剤を含まないノンケミカルタイプを選んでいただきます。サンスクリーンはクリームタイプ、乳液タイプ、スプレータイプなどがありますので、感触についてはご自分のお好きなものを選んで構いません。

それともうひとつ、使う分量についてもアドバイスします。紫外線に対する防止効果を正しく得るためには、製品に記載されている適量通りに使わなければ防御することができません。汗やこすれなどで薄れてしまう前に、こまめに塗りなおすことも忘れないでくださいね。

敏感肌こそ、◯◯習慣は見過ごせない

ここで、敏感肌予防の観点からも大切なことをお伝えしたいと思いますが……あなたは今、自分のコンディションをちゃんと把握していますか?

敏感肌にとっては、バランスのよい食事をしているか、十分な睡眠がとれているか、ストレスを和らげるための工夫など、正しいリズムで過ごしているかが重要になります。

敏感肌の原因は外的要因にもありますが、生活習慣、心身の不調などによる内的要因もかなりの割合を占めています。

たとえば、寝不足や過度なストレスがかかると人間の生活機能を維持する内分泌ホルモンがうまく作動しませんし、生理周期によるホルモンバランスの乱れによっても肌トラブルに見舞われます。

生活習慣そのものや内的要因が敏感肌の原因になりうることを自覚している方もいらっしゃいますが、自覚していても対策が分からないのでうまく対応できないでいる方が多いのだろうと思います。

ですから健康な肌づくりには心身の健康をどう維持するかを考え直し、生活習慣の見直しが大切であると、いつも指導しています。

薬との併用ができる化粧品とは?

肌荒れしていると「化粧品を控えなさい」と指導する医師もいますが、私はこれとは反対の意見です。

なぜなら、長年敏感肌に関する研究をし、安全性はもちろん、低刺激性について試験・検証が十分になされている化粧品でケアをすれば、治療をサポートできるからです。

よって「化粧品を控える」のではなく、「化粧品の内容や使用する数を見直す」のが適切なアドバイスではないでしょうか。

仮に化粧品(洗顔・保湿・サンスクリーン)をいっさいやめてしまったら、肌の状態は悪化するでしょう。

乾燥がすすみ、紫外線や花粉などの外部刺激に直接触れることで敏感症状を引き起こすこともあります。

また、私は敏感肌に限らず、アトピー性皮膚炎の方にも化粧品を使うように指導しています。

肌に触れる製品数は減らしますが、日常の化粧習慣を維持することで安心して治療に取り組めるようにします。

炎症がひどい時には薬を使うけれど、薬からどういう風に化粧品に戻していくかを一緒に考えていきます。

なるべく患者さんが使っていた化粧品を使っていただきたいとは思いますが、ひとつだけ注意して欲しいことがあります。

化粧品で肌がしみると感じたら、使うのをやめていただきます。

“しみる” ということは、つまり刺激感があるということ。肌が拒否しているサインです。悪化してしまうと炎症にも繋がりますから、今使っている化粧品は一旦お休みしてもらいます。そして保湿やサンスクリーンのサンプルがあれば、代替製品として提供をします。

しみない製品を使って肌を守り、必要に応じて内服・外用治療を続けていると、肌はだんだん快方に向かっていきます。

治療終了にあたり次にやることは、患者さんの希望があれば、前に使っていた化粧品を腕に毎日塗ってみて、1週間~10日観察してもらいます。

それで、しみることがなく、かゆみなども起こらなかったら、顔につけてみるようにします。もちろん提供した低刺激製品の方が心地よく使える場合にはそちらに変更することを勧めます。

新しい化粧品を使い始めるときも、心配でしたら最初の数日は手などにつけて様子を見るのもおすすめです。

敏感肌だと感じている方は、自身の肌観察を怠らないことです。自身のコンディションに応じて臨機応変にスキンケアを変えること、必要最低限のスキンケアにして無理のないスキンケアを心掛けてください。

まとめ

・敏感肌には明確な定義がなく、敏感症状は誰にでも起きうるものと言える

・敏感肌こそ、化粧品を使うべきであり、洗顔、保湿、サンスクリーン(日焼け止め)の化粧品が必要だと考えている

・洗顔では汚れや余分な皮脂だけを落とし、肌内部のうるおいを奪わないように心がけ、摩擦や擦れが肌の刺激にならないように洗顔料はたっぷりと泡立てることが大切

・肌の調子が悪いときのスキンケアのポイントは「肌にさわる回数を減らす」「使用法や使用量は守る」「物理的な刺激を避ける」の3つ

・紫外線から肌を守る重要な手段は、サンスクリーン

・敏感肌は生活習慣まで含めた対応をすることが大切

・肌荒れしているときは化粧品を控えるのではなく、化粧品の内容や使用する数を見直すこと