皮膚科医に学ぶ「敏感肌」
あなたの顔にも「キレイになる菌」がいる?
敏感肌こそ「皮膚常在菌」のバランスを整えること!
皮膚科医の視点で「美肌菌」についてやさしく解説します

関東 裕美 先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
東邦大学医療センター大森病院スキンヘルスセンター長、皮膚科教授として臨床、教育を長年にわたり行う。退官後も同施設特殊外来で2022年までアトピー性皮膚炎患者診療を継続。
現在は稲田堤ひふ科クリニック、玉川クリニックにて外来を担当。
1950年代から敏感肌研究をスタートした資生堂と、40年以上もお付き合いのある関東先生。皮膚科医として多くの助言をいただいてきました。
今回のテーマは「皮膚常在菌のバランス」や「美肌菌」について。これらが敏感肌とどのように関係しているのでしょうか?わかりやすく語っていただきました。
美しい肌のカギを握る「表皮ブドウ球菌」
あなたは「皮膚常在菌」という名称を聞いたことがありますか?
ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、皮膚常在菌は私たち一人ひとりの肌に常に住んでいて、肌環境をすこやかに保つために必要な菌たちです。
成人の皮膚(からだ全体)には、「表皮ブドウ球菌」を主とする約1000種類の菌が存在していて、肌の健康のために働いています。そのような皮膚常在菌を総称して、「美肌菌」と呼ぶこともあります。
この分野の研究はここ10年ほどで広がりを見せ、大きな成果を上げています。
たとえば、「黄色ブドウ球菌」はアトピー性皮膚炎の悪化因子ですが、アトピー性皮膚炎がある人の皮膚には「黄色ブドウ球菌」の存在する割合が、症状のない人に比べて高いことがわかりました。こういった研究によって治療法やスキンケアの方法もかなり向上してきています。
一人ひとりに常在する菌の割合は異なります。
「表皮ブドウ球菌」の多い肌は、水分量が多くみずみずしい状態を保ち、赤みが少ないというデータがあります。
敏感肌は表皮ブドウ球菌の
割合が低い

2019年12月資生堂調査
つまり、美しい肌のカギは、「表皮ブドウ球菌」にあるということです。
これらのデータにより、常在している菌が皮膚の能力を保っているということがわかり、皮膚常在菌のバランスによって個々の皮膚能力が変わることまで解明されています。
「皮膚常在菌のバランス」が崩れると…?
さらに、ここ数年の研究でわかってきたことがあります。
「敏感肌は、この皮膚常在菌のバランスが崩れている」ということです。
皮膚常在菌のバランスを自分で見極めるのは難しいことですが、すこやかな肌になるためには、良い菌の割合を増やすことが大切だということを知っていてほしいと思います。

私はいつも患者さんに「敏感肌は化粧品(洗顔、保湿、サンスクリーン:日焼け止め)を使うべき」と言っています。
ただ、肌をこすり過ぎたり、洗顔料を十分に泡立てずに洗ったりするなど、間違った洗顔によって本来備わっている皮膚常在菌のバランスを崩してしまう方が多いのも事実です。
たとえば、ニキビができると洗顔の回数を増やす方がいますが、これは大きな間違い。洗いすぎによって肌のバリア機能が低下し、皮膚常在菌のバランスがますます壊れてしまうからです。
日常生活のなかで、このようにバランスを崩す行為をしてしまうと、もとのバランスに戻すのはすごく難しくて、赤くなったり、かゆくなったり、ひどいときには粉を吹いてしまうこともあります。
みなさんには、自分の肌が本来持っている「皮膚常在菌のバランスをよくする力」を大切にしてほしいと思います。
敏感肌が、肌をすこやかに保つためには
では、なぜ敏感肌だと皮膚常在菌のバランスが崩れてしまうのでしょうか?
その理由は、間違ったスキンケア、紫外線、⻩砂、PM2.5などの外的要因と、睡眠不足、偏った食生活、過度なストレスなどの内的要因がそれぞれ大きく影響を受け、それが密接につながっています。
とはいえ、皮膚常在菌のバランスを整えることは、簡単なことではないんですよね。
では、どうしたら敏感肌はそのバランスを保つことができるのかというと……私は、“人の意見に流されない”ということがいちばんだと思っています。
肌は十人十色、誰ひとりとして同じ肌ではありません。敏感肌が肌をすこやかに保つためには、周りの情報に惑わされず、「自分の肌状態に適した化粧品を適した方法で使うこと」がおすすめです。
朝起きて顔を洗う前に、自分の肌をよく観察して、「昨日と同じスキンケアでいい?」と肌に問いかけてみてください。
はじめのうちはわからないかも知れないけれど、毎朝習慣づけることで少しずつ肌の変化がわかってくるはずです。
肌は常に同じ状態ではありませんから、肌の状態に合わせて化粧品のステップを足したり、引いたりして様子を見る。自分の洗顔、保湿の仕方が今の肌状態に適しているかどうかを見極めることが重要です。
表皮ブドウ球菌を育てるために
このような中で、“皮膚常在菌のバランスを整えることが、すこやかな肌を育てることにつながる” という考えの研究もあります。
皮膚常在菌のバランスを整えるために、表皮ブドウ球菌に着目。これを増やすことで皮膚常在菌バランスを整えるのです。
たとえるなら、“ヨーグルトを食べて、腸内細菌のバランスを整えてすこやかにする”ような考え方ですね。これは敏感肌のケアとして、とても合理的かつ先進的な方法だと言えると思います。
皮膚は、内臓と心の鏡
ここまで皮膚常在菌のお話をしてきましたが、たびたび「バランス」という言葉がでてきましたね。
肌は皮膚常在菌のバランスが保たれていることで、みずみずしくうるおいのあるすこやかな状態になります。
また、日々の生活に直結した睡眠や食事のバランスなども保つことで、肌はますますキレイになります。これらのバランスが崩れているかどうかを皮膚が最初に教えてくれるのです。
「皮膚は、内臓と心の鏡」とも言われ、皮膚の状態を見れば免疫機能がどうなっているかわかります。

こうしたバランスの崩れを皮膚から教わることは多いと、皮膚科医としても日々実感しています。
とくに現代人は、あらゆるストレスにさらされながら生活しているので、生活習慣などのバランスを崩しやすい傾向にあります。日頃から本人が持っている免疫力を高め、維持していくことを意識しながら過ごしましょう。
肌は、目に見えない皮膚常在菌のバランスさえ映し出しています。そのサインを見逃さず、あなたも敏感な状態になりにくい、すこやかな肌を目指しませんか。
まとめ
・皮膚常在菌は私たち一人ひとりの肌に常に住んでいて、肌環境をすこやかに保つために必要
・成人の皮膚(からだ全体)には、「表皮ブドウ球菌」を主とする約1000種類の菌が存在していて、肌の健康のために働いている
・そのような皮膚常在菌を総称して、「美肌菌」と呼ぶこともある
・敏感肌は、この皮膚常在菌のバランスが崩れている
・皮膚常在菌のバランスを保つには、自分の肌状態に適した化粧品を適した方法で使うことが重要