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第1回 広尾 オステリア・ルッカ オーナーシェフ桝谷周一郎氏 第3章「第3章 持つべきは偉大な先輩である。」

<店主前曰>

多くの料理人の話によれば、弟子の作る料理には厳しいものだが、奥さんや恋人の作る料理には、いたって寛大であるそうだ。桝谷周一郎の場合も例外ではない。奥さんのアブちゃんは忙しい仕事の合間をぬってケナゲにも手料理に挑戦してみるのだが、じっさいにはまだまだ修行が必要なレベルのようだ。それでも周一郎は一言の文句もいわず、目を細めて食べているらしい。やっぱりシェイクスピアのマクベス夫人の言葉に従って表現すれば「最高のソースは愛情である」のかもしれない。

シマジ はじめて出会った渡邊シェフの天才ぶりはどうだったの。

桝谷 渡邊シェフは東京プリンスホテルのボーセジュールのシェフだった方なんですが、神楽坂に店を構えていたんです。まあ、料理を作らせたら天才なんですが、渡邊シェフはケンカっ早いわ、カネ使いは荒いわ、女にはめちゃくちゃな凄い人でしたね。でもいったん包丁を握ると別人になるんです。オマール海老でアートのような料理を作る、ビックリするようなデザートは作る、店はよく流行っていました。ぼくはまだ15歳で渡邊シェフは29歳でしたか。あるときぼくがまかない料理を作ったら、渡邊さんから「おまえのお母さんは料理が上手いだろう」といわれました。新人シェフの作る料理はどうしてもはじめは母親の味になってしまうものなんです。

シマジ いいお母さんだものね。へぇ、料理も上手なんだ。

桝谷 うちの母親はいつも親父に泣かされていました。親父はしょっちゅううちに帰ってこなかったんです。いまじゃ仲良くやっていますが、若いときは大変でした。

立木 シマジと一緒じゃないの。

シマジ 人生は何でも勉強だよ。すべてのことを反面教師で学べばいいんだよ。でもシュウちゃんは強運だね。はじめて世の中に出てそんな素敵なシェフに出会えたんだからね。

桝谷 めちゃくちゃな人でしたが、面倒見のいい人でした。たとえば、そのころシェフが惚れていた女性が六本木で働いていたんですが、葛西のほうの店に移ったら、ぼくを連れて葛西まで女性に会いに行っちゃうんですからね。ぼくに給料を払っていないのにタクシーを飛ばして行くんですよ。

シマジ 渡邊シェフのところで何年くらい働いたの。

桝谷 1年くらいですか。渡邊さんがうちは小さな店だから早くやめて、大きな店で働いたほうがいいって、青山にあった日本青年会館のなかにある東洋軒という店を紹介してくれたんです。ああいう大きな店で働いて、衛生面や豊富な食材のことを勉強しな、といわれました。それから料理人になって10年したら、小さくても自分の店を持て、といわれました。

シマジ 渡邊シェフはいい先輩だね。シュウちゃんの才能を認めていたんだね。

桝谷 右も左もわからないぼくに料理人の人生の設計を教えてくれたんです。シマジさんだって立木先生のようないい先輩に恵まれているではないですか。

立木 シェフ、よくぞいってくれました。シマジはそのありがたみを全然わかっていないんだよ。本当のことをいってやれるのは、いまはおれしかいないんだ。今東光さんもシバレンさんも開高さんもとっくに死んでいるんだよ。それなのにシマジはおれのことを大事にしないで、ただただこき使うんだよ。

シマジ こうしていつも一緒に愉しく仕事しているじゃないの。おれが72歳、タッチャンが76歳、まさに恐るべき老人パワーでやっているんだ。

桝谷 えっ、シマジさんが72で立木先生が76ですか。ウソでしょう。信じられませんね。

野口 わたしも信じられませんわ。

シマジ もし若くみえるとしたら、SHISEIDO MENのお蔭だね。そうだ。あとはいつも食べているシュウちゃんの料理のお蔭かな。

桝谷 それではシマジコースのシマジスペシャル・パスタを作ってきましょうか。

野口 どういうパスタなんですか。

桝谷 イタリアのソーセージのパンチェッタを入れて、あとは季節の青野菜がふんだんに入ったパスタです。

野口 美味しそうですね。

シマジ これは試行錯誤して出来たシュウちゃんとの合作なんです。

立木 合作というのはいいすぎじゃないの。シマジはただ食べたいものを並べ立てて口出ししただけだろう。

シマジ そうだね。イタリアのパンチェッタは塩味がよく効いて美味いんだよ。

桝谷 さあ、出来上がりました。どうぞ。

野口 色味も美しいですわ。

桝谷 料理はまず見た目が肝心です。温かいうちに召し上がってください。

野口 これは美味しいです。野菜がパリパリしていますね。

シマジ 化粧品も見た目って肝心だね。その点SHISEIDO MENシリーズは19世紀の洋書からヒントを得たデザインになっているから、並べてみると知的にみえるんだ。やっぱり人も見た目が重要だよね。

桝谷 立木先生もシマジさんも格好いいですものね。

シマジ いやいや、シュウちゃんもお洒落じゃないの。あんなに頻繁にテレビに出ると衣装代が大変じゃないの。

桝谷 まあテレビは声のかかるうちは出ることにしています。

シマジ この間たまたまテレビをつけたら、アブちゃんとシュウちゃんが一緒に出ていたねえ。シュウちゃんが高そうな紺の洒落たジャケットをきていた。

桝谷 シマジさんでもテレビをみることがあるんですか。

シマジ あるよ。少し前にNHKで毎週水曜日の深夜やっていた現代版の「シャーロック・ホームズ」や、いまWOWOWでやっている「ボルジア家、愛と欲望の教皇一族」は熱心にみている。

桝谷 ぼくが出るお笑い番組なんてほとんどみないでしょう。

シマジ たまたまテレビをつけたらシュウちゃん夫妻が写ったんだよ。おれたちはよっぽど縁が深いんだと思ったね。シュウちゃんが夜遅く帰宅して、アブちゃんの作った残りの料理を食べたとかいう話をたしかしていたな。

桝谷 生煮えのマイタケを食わされた話かな。

シマジ そうそう。

桝谷 あれからぼくは家庭でも料理をつくることにしています。

シマジ 多くの料理人は黙って奥さんの料理を食べているらしいね。

桝谷 そうですね。弟子たちには厳しいことをいいますが、女房には何もいいませんね。

シマジ なるほどね。ところでこのパンチェッタはイノシシの肉なんだね。

桝谷 この塩味は日本産では出ませんね。

シマジ 野菜も吟味しているんだ。

野口 美味しいです。今度プライベートでシマジコースを食べにきてもいいですか。

桝谷 どうぞ、どうぞ。歓迎いたします。お友達といらしてください。シマジコースを注文されたお客さまにはどなたでもシマジさんから、タリスカーのスパイシーハイボールを一杯進呈されることになっているんです。

野口 ホントですか。近いうちにきます。予約を入れます。

桝谷 予約してください。お待ちしています。

シマジ おれは以前イタリアのラルドという豚の脂身だけで出来た珍しい食べ物に凝ったことがあるんだが、あれも美味いね。

桝谷 ラルドですか。あれは大理石の壺に塩漬けして作るものです。

シマジ あるときローマ法王に献納したら、「定期的に持ってくるように」といわれてから、グンとラルドの値段が値上がりしたそうだね。

桝谷 うちにも入れますか。

シマジ ぜひ頼む。あれをつまみにしながら、スパイシーハイボールを飲んだら、さらに人生は幸せになれるだろうな。

立木 シマジ、おれのことも忘れるなよ。おれもローマで食べたラルドの味を急に思い出した。

シマジ タッチャン、ラルドを一緒に食べようか。

今回登場したお店

オステリア ルッカ
東京都渋谷区広尾1-6-8 第2三輪ビル1F
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