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第2回 赤坂レストランカナユニ 横田誠 第3章 素敵な共犯者が男の人生を深く豊かにする。

<店主前曰>

この間、資生堂の小松原威さんの案内で東京コレクション ユキ・トリイのファッションショーを観に行った。わたしにとって生まれてはじめての経験だった。世界のスーパーモデルたちが次から次へと舞台に現れてウォーキングをしながら、カーテンの後ろに消えて行く。ショーは30分くらいだろうか。まるで桜の花のようにはかなくて美しいイベントであった。
でもこの一瞬の美の祭典のために、モデルたちとヘア&メーキャップアーティストたちは、7時間前には会場に入るそうだ。そのなかに計良宏文さんもいた。ショーが終わって楽屋を訪ねたら、トレードマークの帽子をかぶった計良さんが温かく迎えてくれた。帰り際、「あの観客席の一列目に座っていた人たちは妖しい雰囲気があったね」とわたしがいうと、小松原さんから「3列目に座っていたシマジさんも彼らに負けずに妖しかったですよ」といわれた。

シマジ 計良さん、ファッションショーってはかなくて美しいものですね。あんなに短いものとは知りませんでした。でも興奮しますね。

計良 ユキ・トリイさんのは長いほうですね。

シマジ あれで長いんですか。

計良 短いショーは10分くらいかな。

シマジ モデルたちのヘアスタイルに統一感がありましたね。

計良 ヘアスタイルはそのときのデザイナーと相談して決めるんです。

シマジ 最後にユキ・トリイさんとモデルたちが勢揃いする瞬間が圧巻ですね。

計良 わたしも20代の頃から東京コレクションに参加していますが、最初は圧倒されました。当初、わたしが仕上げたヘアスタイルをモデルに気に入られず、いつの間にか直されたり、メークの途中で先輩のところに行かれてしまったり、悔しい思いをいっぱいしましたね。

シマジ わかりますね。すべて職人技は、料理人でもバーマンでも編集者でも、現場で何度も恥をかいて、成長していくものなのでしょう。

立木 カメラマンだってそうだよ。

シマジ おっと、カメラマンを忘れていた。写真学校を卒業して1夜にして立木義浩にはなれないよね。

立木 シマジだって編集者には1週間ではなれなかったろう。

シマジ 何でもいうことを聞いてくれる人脈を作るには、10年は必要だろうね。計良さんもここまでくるには大変だったと思いますね。

計良 だんだんスキルを磨くにつれて頼りにしてくれるモデルが増えてきて、向こうから「次、お願いね」と待っていてくれるようになりました。

シマジ そうか。駆け出しのころライバルたちと切磋琢磨してたからこそ、いまヘアチーフを務めているんですね。新人で入った編集者が編集長になったようなものですね。計良さんはどうして美容の道に入られたんですか。

計良 わたしは新潟県の佐渡島出身なんです。子供のときからお洒落な仕事に就きたいと思っていました。バンドブームだった高校生のころ、自分もビジュアル系バンドのコピーをしていたんですが、ライブのとき仲間の分までヘアメークしてあげたら、みんながうれしがりました。そのとき自分自身、美容の面白さに目覚めました。

シマジ 編集の仕事も作家の仕事も読んだ人が面白いと喜んでくれるから、苦労も一瞬にして吹っ飛んじゃうんだろうね。

横田 レストランの仕事もそうですね。テーブルのお客さまたちの頬がほころび会話が弾んでいると自分もうれしくなり、思わず笑顔になりますよ。

シマジ 誠、いいこというじゃないか。この連載を親父に読ませてやってくれ。

立木 宏パパはパソコンで読むのは無理だろう。プリントアウトして紙で読んでもらったらいい。

シマジ 横田宏といつも話していることがあるんだ。

横田 何を話されているんですか。

シマジ おれたちももう70代だから、急勾配のここの階段の昇り降りには気をつけようぜ、ということと、もう自力で登れなくなったら、そのときはお互いこの店から姿を消そう、といっているんだ。

横田 そんな寂しいことをいわないでください。そのうち儲けて、シマジさんと立木先生と親父のためにエスカレーターをつけますよ。

立木 誠、泣かせることをいうじゃないか。

シマジ いや、こいつはおれたちが死ぬまでカナユニに通えといってるんだよ。

立木 そうか、そうだったのか。

横田 カナユニは格好いいお年寄りの紳士が若い女性とくると絵になるんです。もちろんカウンターでお一人で飲まれても絵になりますが。

立木 誠、親父以上にいいこというじゃないか。

シマジ 親父も洒落ていたよ。おれが昨夜もここのカウンターに女を連れてきて、今夜は別な女とくるとするだろう。そんなときお前のパパもバーマンの武居も「シマジさん、お久しぶりですね」と真顔でいうんだよ。

立木 むかしの店はみんなそうだったね。おれなんかある店に1週間毎日別な女を連れて行ったことがあるが、毎晩「お久しぶりですね。一ヶ月ぶりでしょうか」といわれたものだ。

シマジ その共犯者ぶりがいいね。男の人生で重要なことはどれだけ素敵な共犯者を持てるかということだね。

計良 今日は美味しい料理をいただき、ためになる話を聞かせていただき有り難うございます。

立木 シマジなんて共犯者だらけだからね。その共犯者でここまできたようなものだ。女の共犯者だって大切なんだよ。なあ、シマジ。

シマジ タッチャン、ここはSHISEIDO MENのサイトです。そこまでにしてください。

立木 そうか。セオはいないんだっけ。

シマジ セオは講談社で仕事をしているでしょう。

立木 どうかな。表参道のネスプレッソの旗艦店で油を売っているのとちがうか。

計良 ついにビーフピラフがきました。いい匂いですね。いただいてもいいですか。

シマジ どうぞ、どうぞ。

立木 シマジがいわなくてもいいの。誠にいわせなさい。

横田 どうぞ、どうぞ。

計良 これは美味すぎます。いっぱい入っている牛肉が上等です。
シソがみた目にも美しく香りが堪りませんね。どことなく醤油の香りがしますね。これがまた堪りません。

シマジ 計良さん、よく醤油に気がつきましたね。あなたは料理の道に進まれても成功していたでしょう。同じ資生堂の三つ星のレストラン「ロオジエ」でシェフとして働いていたかもしれないね。

計良 そうでしょうか。

シマジ でも計良さん、同じヘア&メーキャップの業界でもいままでに素敵な出会いはあったでしょう。

計良 ありました。2003年でしたか、ニューヨークコレクションでマーク・ジェイコブスのショーのとき出会ったグイド・パラウというヘアチーフにはいちばん興奮しましたね。これまで自分のなかにあったモノづくりのセオリーが崩され、意識改革のきっかけになりました。

シマジ 誠、よく聞いておけよ。人生は出会いなんだよ。これからお前がいろんな人間に会うだろう。そのなかで後の人生に影響を及ぼすような人にどれだけ会うかが重要なんだよ。

横田 立木先生とシマジさんみたいにですか。

立木 おれはシマジに会ったためこうして馬車馬のように働かされている。シマジに会ってなければ、いまごろ計良ちゃんがヘアメークしたスーパーモデルを撮っていたかもしれない。誠、人の出会いは大切だが、よく考えてからこころを許すんだよ。おれのように取り返しがつかなくなるからな。

横田 でも立木先生とシマジさんは人がうらやむ仲のよさですよね

立木 表向きはね。実情はこいつについて行くのは大変だよ。誠、シマジの近著『アカの他人の七光り』のトモジの序文を読んだか。

横田 スミマセン、まだです。

立木 読むといいよ。シマジと一緒に仕事する大変さが子細に書けている。

計良 ご馳走さまでした。美味しかった。

シマジ あっ、全部食べたの。

計良 まずかったですか。

シマジ いや、いや、いいんだ、いいんだ。

資生堂ビューティートップスペシャリスト 計良宏文

ファッションショーのヘアチーフを多数務めるなど、多岐にわたり活躍中。
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今回登場したお店

レストラン カナユニ
東東京都港区元赤坂1-1 中井ビルB1F
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