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第5回 南麻布Bar bridgeオーナー 八木公徳氏第4章 極上のシガーのために働こう。

<店主前曰>

人生は1つのことに精通すれば、ローマへの道はどこからでも通じ、みえてくるものらしい。八木公徳は20歳のころから葉巻にのめり込み、気がついたら、シガーバーのマスターになっていた。いまやなかなか手に入らない極上の葉巻を燻らせながら、いつもカウンターに立っている。八木は川崎生まれで、子供のとき小児ぜんそくを患っていた。いわゆる公害の被害者だった。クラスにも小児ぜんそくに罹った生徒が多かったという。母親は公徳に水泳を習わせた。それから公徳は大学まで水泳部に入って泳いでいた。その結果、強靱な肺の持ち主になって、いまでは1日4,5本シガーを愉しむシガーマンになった。シガーの味を知った人間は、まさに知る悲しみを知ってしまう。美味しいシガーを吸いたいがために健康でなければならないし、その分稼がないといけない。わたしがこんなに原稿を書いているのはシガーとシングルモルトとお洒落のためである。でも知る悲しみは知らない悲しみより上質な悲しみだと思うのだが・・・。

八木 ぼくがまだラファイエットで働いていたとき、シマジさんがかなり古いロメオ&ジュリエッタのチャーチルを段ボール1個分くらい持ち込んできたことがありましたね。

シマジ そんなことがあったね。あれは名古屋のお金持ちが亡くなられた際、息子さんたちが吸わないということで、わたしが譲ってもらったものだったんだよ。その方が亡くなる3日前お嬢さんにチャーチルを家から持ってこさせ、病院の屋上で吸ったそうだ。でも半分くらいしか吸えなかったらしい。その残された貴重な葉巻が大量で、おれの持っているユミドールには入りきらなくて、脇田愛二郎にお願いして、店のウオーク・イン・ユミドールに友情で預かってもらっていたんだ。

八木 ぼくも何本もあのチャーチルを吸わせていただきましたが、美味かったですね。

シマジ あのころのチャーチルは抜群に美味かったね。

八木 持ち主が大切にしていたんでしょう。ドローも凄くよかったと記憶しています。

土谷 ドローって何ですか。

シマジ 葉巻に着火して吸いはじめるときに、気持ちよく何の抵抗もなくスイスイ煙が口のなかに入ってくることをドローがいい、というんです。ドローが最悪な葉巻は思いっきり吸っても煙が思うように入ってこない。そのときシガーラバーにとっていちばん頭にきますね。そんなとき葉巻の通りをよくするために、金属の棒があるんですがそれを使ってもたいがいうまくいかない。そのときほど情けない気持ちになることはないですね。

八木 いわば吸おうとする葉巻と対話が出来ない状態ですね。いくらこちらが話しかけてもまったく返事をしてくれない。

立木 おれも若いとき葉巻を吸ったけど、その表現うまいね。

八木 ありがとうございます。ぼくも若いときからシマジさんの薫陶を受けていますから。

シマジ あのチャーチルはすでにビンテージシガーだったんだろう。

土谷 葉巻は作られてすぐよりも長いこと置いたほうが美味しくなるんですか。

シマジ 土谷さん、鋭い質問です。わたしの経験では、ハバナの葉巻工場で巻いたすぐのシガーをもらって吸ったことがありますが、これはまた特別に美味いものです。でもそれを日本に持ち帰って吸ってみると、何だこれはって感じになる。それは、葉巻は農作物ですから、少し発酵させないと美味くならないのですね。少なくとも発酵に1,2年は必要でしょう。その間葉巻は仮死状態になるようです。

八木 でも30年もすると、状態によりますが、枯れ葉みたいになって香りが飛んでしまうのです。葉巻はいいとこ20年ですかね。それ以上すると本当に死んでしまうのです。

土谷 葉巻は生き物なのですね。

シマジ この間軽井沢に暮らしている作家の馳星周とシガーダイレクトの企画で対談したとき吸ったキューバン・ダビドフのNo.1は秀逸だったね。馳星周もおれも感動しっぱなしだった。あれは奇跡に近かった。ロンドンの富豪が大事に持っていたものらしいけど、状態よく保管されていたんだろうね。林のなかのオープン・テーブルで吸ったから美味さがなおさら立っていたのかもしれない。

八木 いまキューバン・ダビドフは25本入りで100万円ぐらいするのがありますからね。それはシマジさん、役得ですね。

立木 シマジはむかしから役得だけで生きているんだ。おれもシマジが心配だからこうして一緒に仕事しているけど、シマジはおれの事務所に電話すれば、ピザみたいにどこでもおれがやってくるって思っているんだぜ。

シマジ いつだったか、セオの現代ビジネスの「ネスプレッソ・ブレーク・タイム」で中野香織さんがサロン・ド・シマジの本店にすでにきているのに、巨匠の姿がない。いままで遅れるなんて1度もなかったタッチャンがこないなんておかしいとおれが電話を入れると、ご本人は幸い事務所にいて、「今日は仕事があるなんて聞いていないぞ」「今日は美人の中野香織さんです。すでにお待ちです」「わかったこれからすぐ行く」といって光より速くやってきてくれて、おれの面目が立ったことがあったね。

立木 シマジとセオはずぼらだから、どちらかがおれに連絡したと勘違いしていたにちがいない。たまたまおれがいたからいいものの、いなかったら事件だったろうね。シマジとセオが中野香織さんに平謝りしていただろうな。

シマジ 中野香織さんは「こんな偉い立木先生が電話1本で、こんなにすぐいらしてくださるとは驚きですわ」と感嘆していましたね。でもおれはまだツキがあるんだなとほっとしましたけど。セオもおれと一緒にいれば何でも何とかなると確信したのではないですか。今後こんなことがないようにしような、と仕事が終わってから抱き合って誓いましたから、タッチャン、もう大丈夫ですよ。

立木 シマジ、おれを差し置いてセオと抱き合ったりすることは許さんぞ。

シマジ ごめんなさい。タッチャンより好きな男はこの世にいません。

立木 本当だろうな。よしわかった。許す!

土谷 立木先生とシマジさんはホントに仲がいいんですね。

立木 腐れ縁です。シマジはおれがいないと調子に乗るやつだから監視役でもあるんです。シマジにはいまや怒ってくれる人がいないからね。集英社の若菜さんもとうにこの世にいない。シバレンさんも今さんも開高さんももうこの世にいない。シマジは勝手にこの文豪3人に乗り移ったことにして『乗り移り人生相談』なんてやっているんだよ。

土谷 わたし、『乗り移り人生相談』の大ファンです。

立木 困ったものだね。土谷さんはだんだんシマジの毒にしびれているんだよ。

八木 あれはぼくも店が暇なときよく読んでいます。ユーモアとエスプリがいっぱい詰まっています。

立木 困ったものだ。みんなシマジの毒に騙されているんだね。

八木 水曜日のネスプレッソ、木曜日の乗り移り、金曜日のこのSHISEIDO MENの対談、欠かさず読んでいます。それにぼくが載るなんて夢のようです。しかも立木先生に撮ってもらうなんて明日死んでもいいです。

立木 シマジのようなオーバーなことはいうな。

シマジ 八木、今日の謝礼はSHISEIDO MENシリーズの5アイテムと立木巨匠の写真だからね。

八木 ありがとうございます。この高級男性化粧品がなくなったら、どうすればいいんですか。

シマジ それは、八木の店が休みのとき、伊勢丹メンズ館8階のサロン・ド・シマジにくれば、売るほど置いてあるよ。

八木 でもシマジさんはいないんでしょう。

シマジ おれは伊勢丹には土日祝日の1:00pmから8:00pmまでしかいないんだ。

八木 どうしてですか。

シマジ 平日は嵐のように原稿の締め切りに追われているからシェーカーを振れないんだよ。

土谷 ぜひわたしも今度伊勢丹のサロン・ド・シマジに寄らせてください。

シマジ どうぞ、どうぞ。お待ちしております。八木、そこにあるシガーキャビネットは凄そうだね。

八木 これはカストロのサイン入りのコイーバです。

シマジ それは50本入りか。

八木 そうです。これはロンドンの競売で落としたものです。

シマジ いくらで落としたんだ。

八木 500万円です。

シマジ すると一本10万円か。ようし働くぞ。

八木 どうぞ、どうぞ、お待ちしております。

今回登場したお店

BAR bridge
東京都港区南麻布4-11-27 オリエンタル南麻布 102

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