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第6回 裏神田 自然生村 統括村長 越田裕之氏 第4章 内から自然薯、外からシセイドウ メン。

<店主前曰>

越田村長はいま裏恵比寿の自然生村1号店と裏神田の自然生村2号店の村長を兼務している。じつは2号店をオープンするにあたり、田中副村長に村長をやってくれないか、と頼んだところ、ぼくは副村長でいいんです、と拒否された。いまの若者の傾向として出世する野望がまったくないらしい。わたしは出版業界のことしか知らないが、ある日大手出版会社の専務と食事をしたとき、彼も同じことをこぼしていた。「今日、ある雑誌の副編集長を呼んで、君に編集長をやってもらいたい、と打診したところ、にべもなく、専務、勘弁してください。わたしは副編集長のままでいいです、というんだ。時代は変わったようだ」わたしはPLAYBOYの副編集長から週刊プレイボーイの編集長に抜擢されたとき、胴震いするくらい欣喜雀躍したものである。編集者になった以上、編集長にならなくてどうするんだ。編集長はサラリーマンの地位としては課長だけれど、雑誌を一冊丸ごとすべて任されるのである。たしかに責任は重いし才能が試される立場である。それでダメなら出世の道は閉ざされるかもしれない。でも一か八か自分の才能を試したいと若きわたしは興奮したものである。でもいまはちがうらしい。いまの若者は昇進や昇格に対して野心も意欲もゼロなのだろう。そんなわけで越田村長は2店の責任者として統括村長になった。

シマジ 田中副村長はよく働くしお客の対応も笑顔で接して明るい。十分村長が務まる人材だとおれも思うがね。

越田 そうでしょう。でも田中は頑として副村長でいいです、と村長を引き受けてくれなかったのです。いまの若者は上司から強制されても文句のいえない部下の立場で満足していられるのでしょうね。日本はこれでいいのだろうか、とこころのなかで叫びました。裏恵比寿の1号店はいま予約を断るのが大変なくらい繁盛している。中村社長は大喜びです。それなのに村長は勘弁してくださいといわれたんです。

立木 それは何かトラウマがあるんじゃないの。

越田 さすが立木先生は鋭いです。じつはよくよく話を聞くと、田中は以前ある店の店長をやっていたそうなのです。そのとき店が流行らないことに責任を感じたそうなんです。だから仮に自分がここで村長になったときに、もしも急にお客さまがこなくなって売り上げが落ちてきたらと考えると、気持ちが暗くなり心配らしいのです。

シマジ あれだけ流行っている店が急に流行らなくなるなんてありえない。それは杞憂に過ぎないと思うがね。

越田 本人にとってはまた悪夢がやってくるのではないかと心配なのでしょう。

立木 それは考えすぎだね。

越田 いよいよ自然生村の名物、ホルモン鍋が参りました。

永吉 匂いからして美味しそうですね。先に立木先生が撮影をなさるのでしたね。

立木 すぐ終わりますから。

シマジ タッチャンの仕事は、速い、巧い、高い、なんですよ。

立木 ウソつけ。お前が振ってくる仕事は、速い、巧い、安いじゃないのか。シマジは自分のことは、速い、巧い、高いって売り込んでいるんだよ。

シマジ でも原稿料はおたがい安いわな。このご時世だから仕方ないか。

立木 でもお前も経験したように編集者の給料は毎年上がっているんだからヘンだよね。

シマジ やぶ蛇だったかな。

立木 永吉さん、はい、どうぞ。

永吉 いただきます。これは豪華ですね。

シマジ 栄養も満点でおすすめメニューの一つです。越田統括村長、これでいくらだったっけ。

越田 一人前で1,680円です。

永吉 すぐにでも女子会のメンバーを招集したいですね。

シマジ 何人で来られる予定ですか。

永吉 そうですね。6人かしら。

シマジ それならホルモン鍋は3人前で十分ですよ。

永吉 貴重な情報ありがとうございます。このコリコリする白いお肉のようなものの正体はなんですか。

越田 これは広島産の和牛の小腸です。鮮度がいいから臭味がありません。

立木 オーストラリアから仔牛を輸入して広島の水で育てると和牛として売れるってホント?

越田 知りません。今度社長に訊いておきます。

永吉 コラーゲンがいっぱいって感じですね。

越田 それにこれから自然薯をすったドロドロの汁状のものを擂鉢いっぱい鍋に入れます。このドロドロの自然薯と和牛の小腸をシャモジで掬って食べてください。

永吉 これはお肌にいいですね。来週にも仲間を集めて女子会をやりたいです。予約は大丈夫でしょうか。

越田 裏恵比寿は難しいと思いますが、ここはまだ大丈夫です。来週でしたらシマジスペシャル・スパイシーハイボールも用意出来ます。

永吉 うれしいです。うちの女子会はお酒好きが多いからみんな喜びます。今日いただいた同じメニューで注文はできるのですか?

越田 もちろん、できますよ。

永吉 もしかすると今日のメニューはシマジスペシャルでなかなか食べられないものかもしれないと心配になったのです。

立木 シマジの行くところ、どこにでもスパイシーハイボールがあって、シマジスペシャルのメニューがあるんだよ。別にシマジだけが食べるんじゃなく、すべてのお客が食べられる。

シマジ 広尾のルッカなんてシマジコースを注文していただくと必ず、シマジスペシャル・ハイボールが一杯サービスでついてくるんです。

立木 またお前はオーナー面してそんなことをいう。

シマジ そういえばこの間、西麻布のコントワール・ミサゴに一人で行ってカウンターで土切シェフとあの料理の話をしていたら、近くにいた可愛いカップルの女性が相手の男性に小さな声でいうんですよ。「あのかたここのオーナーじゃないかしら」って。

立木 そうだろうな。お前の態度はデカイからな。

シマジ すると土切シェフがそちらのカップルのほうに体を向けて「はい、そうです」というではないか。おれは慌てて立ち上がり「毎度ありがとうございます」と挨拶しなければならない状況に追い込まれた。そのときはまいったね。土切シェフに一本取られた感じだった。あいつは稀代のユーモリストかもしれない。

越田 あっ、わかった。そのミサゴってヒグマのステーキを食べさせるお店ですね。

シマジ どうして知ってるの。

越田 シマジさんの『アカの他人の七光り』に載っていたレストランですよね。

シマジ そうだったっけ。

立木 シマジは本を出しすぎなんだ。現役を辞めて何年になるんだ。それで何冊出したんだ。

シマジ 67歳の11月に現役を引退して今年で5年目に入りますが、出した本の数は合計10冊ですかね。

永吉 10冊ですか。凄いですね!わたしは『甘い生活』しか読んでいませんが、これから全部読みます。

越田 そろそろご飯を入れて雑炊を作りましょうか。

シマジ ここの雑炊は最高ですよ。永吉さん締めに是非めしあがって下さい。そうだ。SHISEIDOMENの使い方なんだか今日は時間がなくなってしまった。越田総括村長、いままでのこの連載にアクセスして覚えなさい。そしてその通りに手入れをすれば、越田村長ならAも夢ではない。

越田 わかりました。お店の宣伝のためにも頑張ります。

今回登場したお店

自然生村
東京都千代田区内神田3-17-6小山第3ビル1F

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