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第2回 麻布 浅井 浅井太一 第2章 料理の味は料理人とお客の合作なんだ。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

まだ寒風が吹いているころの話だが、風の便りに「浅井」の情報が週刊文春に載っていることを知った浅井太一は急ぎ本屋に駆けつけた。だが、コラム「斬り捨て御免!食味探検隊」に書かれていた「浅井」の酷評記事は浅井をおおいに落胆させた。そこにはこっぴどく浅井の料理をこき下ろす文章が綴られていた。これには浅井もどう自分を慰めていいのかわからなかった。

シマジ: 浅井、そんなに気にすることはないよ。店はこんなに混んでいるし料理の味は料理人とお客の合作なんだ。まだオープンしたばかりじゃないか。

立木: 量も多くもなく少なくもなくよく考えられている。

シマジ: この値段でこれだけの上質な材料を揃えているだけでもおれは凄いと思う。味つけもおれは気に入っている。この間は、残ったグリーンピースご飯をおにぎりにしてもらって翌朝食べたけど、冷えても美味かった。

浅井: 万人に感動を与えられるようもっともっと頑張って創作和食に精進します。わたしは辻調理師専門学校でフレンチ、中華、和食のすべてを教わりましたが、在学中は全部の料理に魅せられて、これだという一本の道に絞ることが出来ませんでした。でも卒業して和食をベースにしていこうとミシュラン2つ星の京都祇園の「丸山」に、勇気を奮ってまずお客として食べに行ったのです。まだ10代のわたしにとっては、震えるほど凜としたたたずまいと独特の空気感がその店内にはありました。そこで料理に心底感動したわたしは、「丸山」で働かせてほしいという思いを手紙にしたため、店主の丸山嘉桜さんに送ったのです。そして丸山さんに直接お会いすることが出来たんです。丸山大将には「料理の世界は寺の修業より厳しいぞ」といわれました。

シマジ: どこの世界も紙爆弾はやっぱり効果があるんだね。

鈴木: 紙爆弾ってなんですか。

立木: シマジがいざというときに和紙の巻紙に墨で書いて相手に送りつける手紙のことだよ。

浅井: わたしは普通の便箋に万年筆で書きました。

シマジ: とくにいまはメールの時代だから、肉筆の手紙はそれだけで効果が抜群にあると思うね。伊勢丹新宿店のサロン・ド・シマジでは万年筆も売っているんだが、それがよく売れている。ブロッターというインクを吸い取る道具まで売っているんだよ。

立木: 浅井は京都生まれ京都育ちだから祇園の「丸山」を修業の場として目をつけたのは納得がいくね。

シマジ: 料理人の道は険しく、まずはトイレ掃除からはじまるんだよね。

浅井: そうです。一年間は、トイレ掃除、下足の番、庭掃除、台所ではせいぜい紅葉おろしを作ることが仕事でした。でもわたしが運がよかったのは、2年目から大将のクルマの運転手を任されたことです。当時から「丸山」は京都に2軒ありましたので両方を行ったりきたりしていました。そのクルマのなかで大将からいろんなことを言葉で教えていただきました。

シマジ: 料理人の世界も優れた親方につくかつかないかでその後の運命が決まるからね。「丸山」を選んだ浅井の選択はまちがっていなかったんだね。

浅井: はい、わたしの結婚式にも出席してくださいました。そのとき「お前もついに守るべき家族が出来たんだから死ぬ気で仕事をするんだぞ」と励ましていただきました。

シマジ: 「丸山」の大将はこの店にはいらしたの。

浅井: まだですが、「どうだ」とよく電話をかけてきてくださいます。開店の日には杉玉を贈ってくださいました。大将が特注して作らせたのでしょう。

鈴木: 杉玉ってなんですか。

シマジ: 杉玉とは別名酒林といって杉の葉を束ねて球状にして酒屋などの軒先にかけて看板にするという祝いものです。

立木: もう一度3人でレンズをみてくれない?そう、そう、いい感じだよ。はい、OK。

シマジ: ここで鈴木さやかさんのいままでの活躍を訊きますか。

鈴木: 突然振られたんでビックリしました。

シマジ: 岩手では何年働いたんですか。

鈴木: 約3年間、岩手県のドラッグストアの営業担当をしていました。岩手の人は本当に温かく優しい方ばかりでした。朝出社すると置き手紙とともに同じ職場の方から採れたての野菜や焼きたてのパンをいただいたことが何度もありました。あるとき老人ホームでおばあちゃまにお化粧をしてあげたとき、1人のおばあちゃまがいった言葉をいまでも忘れられません。
「もっと早くこの口紅に出会いたかったなあ」
そのときわたしは営業として、シマジさんがよくいっていらっしゃる“じかあたり”してよかったとつくづく思いました。もっと沢山のお客さまに化粧品を広めて使っていただきあのおばあちゃまのような笑顔を増やしたいと痛感しました。

立木: うん、いい話だね。お化粧することでお年寄りが元気になったり、歩けなかったお年寄りが歩けるようになったりしたエピソードはいっぱいあるんだよね。

シマジ: それはいままでまったく使ったことがない男性がSHISEIDO MENをはじめて使ったときの感動にも似ているね。わたしは毎週土日伊勢丹のサロン・ド・シマジで対面販売をしていて同じ体験を味わっています。リピーターの男性がニコニコしながら「スキンエンパワリングクリームがなくなってきたのでひとつください」というときのそのお客さまの艶やかな肌に思わず感動してしまいますね。あなたはこれで将来汚いジジイにはならないですよと暗黙のうちに目で話しています。

立木: SHISEIDO MENを一度使うことは「知る悲しみ」なんだ、もう前には戻れない、とそのあとシマジはいいたいんだろう。

シマジ: 仰る通りです。

鈴木: 立木先生とシマジさんは名コンビですね。何年のお付き合いなのですか。

立木: 鈴木さんがまだ生まれる前からおれはシマジにこき使われているんだよ。

シマジ: 資生堂に入社して盛岡で営業を約3年やったあとはどういうことをなさったんですか。

鈴木: その後本社のスキンケアブランド~メーキャップブランド商品開発部に異動になりました。そして去年の10月にSHISEIDO MENのマーケティング部に異動することになって立木先生とシマジさんにお会いすることが出来たのです。嬉しいことに異動したらすぐ一関での取材にお供する出張があり、久しぶりに岩手のお蕎麦や三陸の新鮮なサンマや岩手の松茸を食べることが出来ました。あのアビエントの松本さんやベイシーの菅原さんにもお目にかかれて光栄でした。ところがこのたび別な部署に異動になったのです。

シマジ: えっ、どこに移ったの。

鈴木: 同じ本社なんですが、デパート部です。

シマジ: それなら伊勢丹新宿店にも遊びにきてください。大歓迎しますよ。

鈴木: ありがとうございます。必ず寄らせていただきます。たった半年のお仕事でしたが、立木先生やシマジさんとの出会いがわたしにとって強烈で「世の中にこんな格好いい男性がいるんだ!」と衝撃を受けました。今回SHISEIDO MENを通じておふたりに出会えたことはわたしにとっての宝物です。わたしはNHK総合の『全身編集長』は正座をしてじっくり拝見しました。

立木: 鈴木さん、たった半年の付き合いだったのか。それじゃほとんど食い逃げだよね。

シマジ: アッハハハ。

鈴木: そうかもしれません。でもあのお蕎麦の歯ごたえもサンマの味も松茸の土瓶蒸しの香りも一生忘れることはありません。

シマジ: よし浅井、ここでも鈴木さんが一生忘れられない料理を出してあげてくれないか。

浅井: 了解しました。

今回登場したお店

麻布 浅井
東京都港区西麻布1丁目9−11 サワタカビル1F
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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