撮影:立木義浩
<店主前曰>
中目黒にある鉄板焼きの人気店「Plaque Cuisine de GAMIN BLOCKS」の藤井将之<42>は白金にあるオー・ギャマン・ド・トキオのオーナーシェフ木下威征の忠実な子分であり親友である。木下も昨年7月にこのシリーズに登場してくれた名シェフだが、「ブロックス」は木下配下のレストランのひとつである。最近、藤井シェフが考案した“フォアグラ・ハンバーグ”が店の大人気メニューとなっている。
人生は出会いである。藤井は以前、修行中のパリで巨匠立木義浩と偶然に出会い、美味なる和食で巨匠をいたく感激させた人物である。イタズラ好きなわたしは、今回の撮影相手が藤井であることをタッチャンには伏せていた。
一方、本日の資生堂からのゲストも凄い。SABFA<Shiseido Academy of Beauty & Fashion>の先生である矢野裕子さんだ。「サブファ」というプロのヘア&メーキャップアーティストを育成するこの学校は、多くの有名アーティストを輩出している。矢野先生はここでネールアートの教鞭も取っておられる。いまわたしのしているネールアートはじつに評判がよいのだが、これも矢野裕子先生の作品である。
立木: 藤井、お前か、懐かしいねえ。どうしてまたここにいるんだ。
藤井: 立木先生、お久しぶりです。たしか6年ぶりかと思います。相変わらず先生はカッコいいですね。わたしはここで鉄板焼き料理のシェフをしています。
立木: 藤井、パリでは世話になったな。だがお前の専門はフレンチじゃなかったのか。
藤井: ですからフレンチ風鉄板焼きをやっております。
立木: シマジとはどこで会ったんだ。
藤井: シマジ先生とは白金のオー・ギャマン・ド・トキオの地下の“はなれ”ではじめにお会いしました。
立木: 女性と2人で行っていたか。
藤井: 藤巻幸夫先生とお2人でした。それはそうと、わたしはシマジ先生には会ったその日から魔法をかけられております。
立木: ということはシマジが喰いたいという料理はなんでも作ってやっている関係なんだな。藤井、許さん!おれのことを忘れたのか。
藤井: 立木先生、あのパリの夜のことがどうして忘れられますか。先生こそ、ベルナールの家でわたしが先生のためにパリ中を駆けめぐり美味しい冷や奴を作って差し上げたことを、お忘れになったのですか。
立木: ゴメン、お前がおれよりシマジを好きになったのかと思って逆上してしまった。藤井ちゃん、許してくれる?
シマジ: 今日の“ビューティー座談会”は面白くなりそうだね。タッチャン、藤井、紹介します。こちらは資生堂の矢野裕子先生です。
立木: 資生堂からのゲストはキャピキャピの若い子の場合が多いけど、今日は貫禄十分なベテランという感じだね。矢野先生、立木です。よろしくお願いね。
矢野: 矢野です。立木先生、こちらこそよろしくお願いいたします。
シマジ: タッチャン、矢野先生はわたしのお気に入りのこのネールアートを描いてくださっている先生なんです。
立木: なにっ!シマジは街のネールショップではなく、資生堂でネールアートを教えている大先生にやってもらっているのか。
矢野: いえいえ、じつはわたしはシマジ先生の大ファンでして、楽しんでさせていただいたのです。
シマジ: タッチャン、男もネールアートをする時代がもうすぐやってくると思うよ。ネールアートをしてもらうと人生のモチベーションが上がるんだよね。
矢野: 立木先生もやってみますか。
立木: いやいや、以前やってもらったことがあるけど、おれはカメラを使う商売だから機材にぶつかったりして醜く剥げちゃうんだよ。
シマジ: そんなわけで今日はおれのネールアートも撮ってよね。
立木: 仕方ないか。描いた矢野先生もいらっしゃることだしな。だけどただ撮ってはつまらない。ちょっとふたりで手を絡めてみてくれる。そうそう。はい、OK。
シマジ: 藤井、まずは肌チェックといこうか。
藤井: なにをするんですか。
シマジ: ちょっとこっちにきて生年月日をいってくれれば、たちどころにお前の人生のすべてがわかる。
藤井: 怖い器械があるんですね。
矢野: 結果が出ました。Eでした。
藤井: たしかうちの木下はBでしたよね。わたしに自慢していましたから覚えています。
立木: 木下はエステにでも通ってその日のために準備していたんじゃないの。
藤井: 木下でしたらそれもやりかねないですね。負けず嫌いですから。でもEとBではかなりの差がありそうですね。
シマジ: 今日資生堂から進呈されるSHISEIDO MEN の化粧品を丁寧に使えば、D、Cと改善されていくから、そんなに落胆せずに明朝から使ってごらん。Bだって決して夢ではない。いま伊勢丹の常連客でSHISEIDO MENを毎朝毎晩使ってBに到達している男性が5,6人はいる。Aを獲得したら福原名誉会長とのスーパーランチに招待しようとご褒美をつけているんだが、もう2年経つのにAはいまだに現われないんだ。福原さんには毎月スーパーランチをご馳走になっているんだが、「シマジさん、まだAのお方は出ませんか」といわれる。「わたしのカンですが、多分、今年中に1人は現われるような気がします」といったんだが、なんとなくそんな予感がするんだよ。
矢野: シマジ先生の予感はあたりそうですね。
立木: うん、シマジのカンはドカンといってよく当たるとアラーキーもいっていたね。
シマジ: 藤井がこれから精進してAを獲得したりして――。
藤井: いやいや、それはないですね。でもうちの木下はやろうとしたら徹底的にやる男ですから、福原名誉会長とお食事するご褒美がもらえるといえば頑張るでしょう。さっそく伝えておきます。
シマジ: 藤井、今日はなにを作ってくれるんだ。矢野先生はランチ抜きでいらっしゃっているんだ。さっそく料理を作ってくれるか。
藤井: かしこまりました。まずはパリで立木先生に作ったフレンチ風冷や奴といきますか。
シマジ: どういう風に作るんだ。
藤井: 冷たい豆腐の上にソテーしたエビをポン酢で味付けして乗せ、薬味に大葉とミョウガと生姜を乗せたものです。
矢野: 美味しそうですね。
立木: これはイケルよ。おれがパリで感動した一品だ。
藤井: すでにみなさんがいらっしゃるまでに作っておきました。これです。
矢野: わっ、きれいですね。
立木: 矢野先生、それでは急いで写真を撮りますね。
矢野: 存じ上げております。食べる前に撮影があることは後輩たちから聞いておりますので。
シマジ: 資生堂の連絡網は凄いですね。
立木: はい、どうぞ。
矢野: もうお撮りになったんですか、速い。
シマジ: 有能な写真家ほど仕事が速いのです。
矢野: 美味しいです。この洋風冷や奴はメニューにあるのですか。
藤井: これはまだメニューには載っていません。いずれ木下に味見してもらって、OKが出れば載せたいと考えております。
立木: いいんじゃない。「パリ風冷や奴」と命名して出せばウケるんじゃない。
シマジ: 木下シェフは配下の店で出す料理をすべて自分で試食しているんだよ。
藤井: そうです。うちには総勢28人の料理人がいますが、競って木下の試食コンペに提出してはどんどん新しい料理をメニューに載せているんです。
立木: それでは3人でカメラのレンズをみて。そうそう、矢野先生、パリ風冷や奴のご感想はいかが。
矢野: 大牢の滋味でした。
立木: よくそんな難しい言葉をご存知ですね。
矢野: はい。シマジ先生の本で覚えました。