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第7回 恵比寿 雄 佐藤雄一氏 第4章 料理人はみえないところにも手間をかけるんです。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

和食割烹「雄」の料理人、佐藤雄一は寿司屋やイタリアンで修業したときに知り合ったお客さまの紹介で、ここ広尾1丁目にやってきたという。そしていまではすっかりこの土地に根付いている。人生はまさしく運と縁である。
 わたしが広尾の住人になったのはおよそ35年前のことだが、当時のこの辺にはレストランも割烹もほとんどなかった。それが20年ほど前にサッポロビール工場の跡地にガーデンプレイスが出来、駅も改築されてアトレが出来、山手線でいちばん小さな駅だった恵比寿駅は様変わりした。恵比寿、広尾はいまやさまざまな飲食店の激戦区である。雨後の竹の子のように店がオープンするが、不味いとすぐに潰れてしまう。そんななか「雄」は開店して9年目に入るという。それは、佐藤雄一の料理に魅了されたお客さまが足繁く通ってくるからだろう。ぐぁんばれ!雄一。

シマジ:もう新米を使っているんだよね。

岡村:ここのご飯はホントに美味しいですね。

シマジ:わたしもはじめはランチにきてご飯の美味さに驚いたんです。

佐藤:ありがとうございます。毎年上質な新米を10種類ほど仕入れ先の米屋から取り寄せて、ブランド名を隠して炊くんです。それを自分で試食して、今年はこれでいこうという種類を決めています。

立木:飲んだあとの〆に美味い銀シャリを食べたときってじつに幸せな気持ちになるよね。でもシマジ、雄ちゃんのところで美味い美味いと米を食べていると太るんじゃないか。

シマジ:だからおれはいつも少し軽めによそってもらい、もっと食べたいなと思う気持ちをグッと抑えて、お代わりを我慢しているんだよ。

立木:へえ、お前にそんな克己心があるとは思えないんだがね。

シマジ:むかしの人がいっているでしょう。腹8分目ってもっともですよ。そうしないと、おれの場合、あとで飲むシングルモルトがまずいからね。でもタッチャンやおれは70代だから、腹6分目ぐらいでもいいんじゃないかな。

佐藤:シマジさんはうちではたいてい、宮崎県の尾崎牛のステーキを100グラムくらいと白いご飯を最後に召し上がります。そしてデザートもかならず召し上がっていらっしゃいますね。

シマジ:おれは子供のころからデザートを食べる習慣があったんだよ。

立木:どう考えてもそれはおかしいよ。福原家のお坊ちゃんならいざ知らず、おまえは一関に疎開した身分だろう。それは子供ごころに、デザートを食べた!という夢でもみていたんじゃないか。

シマジ:もちろん凝ったケーキなんかはなくて季節のフルーツが多かったけれど、おふくろが東京の山の手育ちだったせいかいつもデザートを出してくれていたんだよ。だから男にしては珍しくおれはいまでもフルーツが大好きなんだ。

佐藤:なるほど、シマジさんは梨でも葡萄でも桃でもよく召し上がりますよね。

シマジ:雄ちゃんは“料理武者修行”でイタリアンの門も叩いただけあって、ここは和食の店ながら洒落たデザートを出してくれることがよくあるよね。西洋梨のワイン漬けなんていうのも美味かったね。それと岡村さん、ここではアジのフライと大羽イワシのフライも抜群ですよ。

岡村:まあ、それは気になりますね。今度あらためて女子会でお邪魔してもいいでしょうか。

佐藤:どうぞ、どうぞ。

シマジ:そのときはわたしがここに置いているイカリソースを使ってください。フライにはイカリソースです。わたしの法律ではむかしからそう決まっているんです。

岡村:わたしは大阪出身ですからイカリソースは子供のころから大好きです。懐かしいです。東京でイカリソースは珍しいですものね。

シマジ:大阪の知り合いに送ってもらっているんです。

佐藤:しかもシマジさんはそのイカリソースをフライにもキャベツの千切りにもジャブジャブかけるんですよ。ちょっとかけ過ぎじゃないかと思って自分でもやってみたら、そのほうが美味いことがわかりました。

立木:イカリソースのなかをアジのフライが泳いでいるって感じだね。シマジはイカリソースからリベートでももらっているんじゃないの?

シマジ:もらってもいいくらい宣伝しているし自分でも使っています。ところで雄ちゃん、ここのアジのフライが美味いのは、もちろん一本釣りのアジを使っているのはわかるけど、ほかにもなにか手を施しているんだろうね。

佐藤:はい、アジの余計な水分を抜くために少し塩を振るんです。それからショウガのしぼり汁を塗るんです。

岡村:そこが家庭料理とはちがうところなんですね。

佐藤:料理人はみえるところばかりではなく、みえないところにも手間をかけるんです。

立木:雄ちゃんはいいこというね。写真もみえないところで手間をかけているんだが、シマジにはそれがわからない。

佐藤:そういえばシマジさん、時鮭(トキシラズ)が入っています。明日のランチにいかがですか。

立木:なんだって、トキシラズをシマジはランチで喰っているのか。贅沢過ぎやしないか。第一塩分が多いから血圧が上がるよ。

シマジ:シャケはもともと水っぽい魚だから塩でギュッと締めないと美味くない。若いときは塩鮭一切れでご飯を3杯食べたもんですよ。このごろは健康志向で甘塩なんていうシャケを売っているけど、あれはおれにはどうも美味いと思えない。だから雄ちゃんに頼んで昔風のしょっぱくて脂が乗ったトキシラズを仕入れてもらって、ここでこっそり食べているんです。

岡村:それはランチメニューにはないんですか。

佐藤:これはいわばシマジスペシャルです。ランチの値段にしては高くなってしまうので、ほかのお客さまには出せません。

シマジ:ところで雄ちゃんが偉いなあと思うのは、時間がありさえすれば農家や漁師や牧場を回って作り手に直接会っていることだよ。

佐藤:はい、お陰さまで出身地の茨城県大使に任命されました。残念ながら茨城県は、興味を持たれていない都道府県ランキングで上位に入ってしまうような県です。でもわが県自慢の鉾田メロンを食べてみてください。

シマジ:あれは美味かった。ハウスものだよね。

佐藤:茨城県の土は粘土質なので、メロンに最適なんだそうです。

立木:夕張メロンよりも美味いの?

佐藤:いい勝負だと思います。トマトも美味いですよ。そうだ、シマジさんに天然のウナギを食べてもらいたかった。

シマジ:天然のウナギは一関に帰るとよく食べているよ。それは北上川で獲れたものだけどね。ウナギは天然ものを食べると、養殖のウナギは当分食べられなくなる。

岡村:そんなにちがうんですか。

シマジ:天然のウナギはまず香りがいいんです。しかも皮が柔らかくて美味い。でも高いですよ。田舎でも鰻重で5,000円はします。東京だったら1万円はするんじゃないですか。

佐藤:涸沼(ひぬま)産の天然ウナギは抜群だったのですが、いまは放射能の関係で獲れなくなってしまったんです。

立木:シマジはもう放射能なんて関係ない歳なんだから、涸沼湖で一匹獲ってもらって喰わせてみたらいいよ。

シマジ:そういうタッチャンだってもう放射能なんて関係ない歳でしょう。一緒に食べますか。

岡村:わたしは辞退いたします。結婚前の体ですから。

シマジ:そうですよね。止めておいたほうがいいでしょう。

佐藤:まず現地が許してくれませんから入荷不可能です。

シマジ:じゃあ雄ちゃん、スッポンにしようか。天然のスッポンは虫がいて危ないから養殖でいい。それを1匹仕入れて、腿のところをじっくり塩焼きにして、タッチャンとおれに喰わせてくれないか。

佐藤:了解しました。

立木:スッポンの腿か、美味そうだね。

岡村:わたしも参加していいですか。

シマジ:どうぞ、どうぞ。じゃあ雄ちゃん、スッポン2匹だね。

佐藤:それでは残りはスッポン鍋にしましょうか。岡村さん、スッポンはコラーゲンいっぱいですよ。肌がツルツルになります。

岡村:それにSHISEIDO MENを使えば鬼に金棒ですね。

立木:わかった。シマジのその妙にツヤツヤした肌は、SHISEIDO MENプラススッポンのなせるわざだったんだな。

シマジ:ばれたか。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

雄(ゆう)
渋谷区広尾1-15-3
クオリア恵比寿パークフロント1F
TEL:03-5793-8139
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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