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第2回 恵比寿 BAR ODIN 菊地貴彦氏 第1章  最高のトマト探しの旅に出るバーマン。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

オーセンティックバー「オーディン」は恵比寿駅から1分のところにある。ここのチーフバーマンの菊地貴彦はこだわりの人である。すでにオープンして21年経っているが、菊地バーマンはカクテルの味を毎年グレードアップさせている。たとえば最高のブラッディメアリーを作るために、最高のトマトを探しに旅に出る。静岡県掛川の地に日本一のトマト作りの農家があることを知ると、居ても立ってもいられず、そのトマト作りの名人にじかあたりしに行くのである。
通常は、バーでブラッディメアリーを注文するとウォッカを缶詰のトマトジュースで割ったものを出してくるのだが、オーディンの菊地バーマンはあえて収穫の少ない特選4Sという最高ランクのトマトのみを使っている。たいがいのトマトは水に入れると浮かぶのだが、この宝石のような高級トマトは水底に沈む。収穫の期間は毎年1月下旬から4月末まで。だから菊地の最高のブラッディメアリーを飲みたくなったら、その季節に行かないと味わえないのである。
菊地バーマンは、じかあたりの旅から東京に戻ってきた今日も、いつものようにバーのカウンターに立っている。
5年前の東日本大震災の後は、彼のバーも例外ではなく大きな痛手を被った。震災直後は売り上げがまったくなく、その後も半年間家賃が払えなかった。いよいよ払わないと退去させられるというとき、国民公庫から1000万円を借り入れてなんとかその場を凌いだ。それでも菊地は素材の品質を落とすようなことはせず、むしろ向上させてきた。これぞ一流のバーマンの心意気である。

シマジ:菊地さん、こちらが写真家の立木義浩先生です。

菊地:この店に立木先生が本当にいらっしゃるとは、まるで夢をみているようです。

立木:本物の立木です。よろしくね。

シマジ:こちらは資生堂の岡田美樹さんです。

菊地:背が高いですね。身長はいくつですか?

岡田:168センチです。

立木:シマジよりお嬢のほうが大きいんじゃないか。

シマジ:わたしは一応169センチありますが、そうですね、たしかに以前より少し縮んでしまったかもね。167センチくらいかな。

菊地:お酒好きな女性と島地さんがいると腕が鳴りますね。島地さん、最初はなにを作りましょうか。

シマジ:では菊地さん得意のカクテルで、そうですね、ブラッディシーザーといきましょうか。

菊地:かしこまりました。

岡田:ブラッディメアリーは飲んだことがあります。ウォッカベースでトマトジュースを使ったカクテルですよね。ブラッディシーザーというのは、どんなカクテルなんですか?

シマジ:まずはブラッディメアリーについて説明しましょうか。これは16世紀中頃、イングランド女王として即位したメアリー1世の異名に由来するという説があります。敬虔なカトリック教徒であった彼女はプロテスタントを迫害し、女性や子どもを含む約300人を処刑したため、「血まみれのメアリー」(Bloody Mary)と呼ばれて恐れられていたんです。

岡田:勉強になりました。

シマジ:さて、いまから飲んでいただくブラッディシーザーは、ローマ帝国の天才的な英雄ユリウス・カエサル(英語読みでシーザー)を弔って作られたカクテルで、ベースにハマグリのスープを使います。普通は缶詰のクラマトジュースを使うのですが、このオーディンでは菊地バーマンのこだわりから、自家製のハマグリのスープを使うんです。ドライフルーツを作るマシンでハマグリの身を乾燥させて、それをミルで粉末にしたものを上から振りかけます。トマトジュースには掛川市の石山さんのトマトを使い、ウォッカはオーガニックのネミロフを入れています。まさにこだわりのブラッディシーザーなんです。

菊地:はい。できあがりました。

シマジ:では立木さんのほうに出していただけますか。まず写真を撮ってから飲みましょう。そうか。2杯作ってくれたんだ。それじゃ岡田さんはこれを飲んでください。わたしは撮影してからいただきます。

岡田:うわ!美味しいです。いままで飲んだことがない味です。

菊地:このトマトを使ったんです。これは糖度が非常に高く、このように水に沈むんですよ。

岡田:凄いですね。普通はトマトって水に浮きますよね。

立木:はい。撮影はOK。シマジ、飲んでもいいぞ。

シマジ:いただきます。うん、何度飲んでもこれは美味い。体にもいい気がする。

菊地:このトマトは4月末で収穫が終わってしまうので、今日はギリギリ間に合ったんです。岡田さんは幸運な方ですよ。

岡田:ありがとうございます。今度こちらに女子会の仲間を連れて来てもいいですか。

菊地:どうぞ、どうぞ。ただそのときはブラッディメアリーもブラッディシーザーもありません。トマトがないので作れないんです。

岡田:でもほかのカクテルはいろいろあるんでしょう。

菊地:もちろん。売るほどあります。

シマジ:じゃあ、菊地さん、このあとはモスコミュールをお願いしますか。

菊地:承知いたしました。

シマジ:岡田さん、オーディンのこだわりのモスコミュールを飲んだら、まさに知る悲しみを感じてしまい、大変なことになりますよ。

岡田:菊地さんはなにをすりおろしていらっしゃるんですか。

菊地:これはいまから作るモスコミュールのために、高知のオーガニック生姜をすりおろしているんです。

シマジ:凄いでしょう。生姜ひとつにまでこだわって、高知のものをわざわざ取り寄せて使っているんですよ。見てください。シロップはリュウゼツランからとれるアガベシロップです。

菊地:ジンジャービアも自家製です。

岡田:驚きです!

菊地:さあどうぞ、といいたいところですが、まず立木先生に撮影してもらうんでしたね。それにしても凄いカメラですね。立木先生は3脚はお使いならないんですか。

立木:ストロボを焚いているから大丈夫なの。

菊地:やっぱり巨匠ともなるとちがいますね。

立木:このモスコミュールの器はなかなか凝っているね。美しい。

菊地:さすがです。気づかれましたか。これは京都の有次に頼んで、銅で作ってもらったものなんです。

シマジ:何個作らせたんですか。

菊地:8個です。表は銅にしてなかは錫で仕上げています。

シマジ:これはよく冷えるでしょうね。

菊地:唇に当たると冷やっとします。そして氷がなかなか溶けないんです。

立木:はい、撮影は終了!

シマジ:では岡田さん、資生堂を代表して飲んでください。

岡田:わたし1人で飲んでいいんでしょうか。

シマジ:どうぞ、どうぞ。その代わり飲んだ感想をおしえてください。

岡田:うわ!美味しい!いままで飲んだモスコミュールはなんだったんだろう。これは凄いです。これも季節限定ですか。

菊地:これは1年中あります。

岡田:今度女子会でくるときにはまずこれからはじめてもいいですか。

菊地:いいですよ。

シマジ:その飲みっぷりを見ていると、岡田さんは結構いけそうな口ですね。

岡田:ここのカクテルがあまりに美味し過ぎて、いくらでもスイスイ入ってしまいます。今日はわたし幸せです。

シマジ:菊地さん、普通はライムを使っているけど今日はレモンなんですね。

菊地:残念なことに、ここのところいいライムが入ってこないんですよ。

立木:でも写真的にはライムよりレモンのほうがきれいかもね。

菊地:よかった。レモンも最高のものを使っております。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

バー オーディン 恵比寿店
東京都渋谷区恵比寿1-8-18 K-1ビル 地下1階
03-3445-7527
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