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第4回 西麻布 ウォッカトニック 山田一隆氏 第3章 不思議なご縁に涙した日。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

山田バーマンは中学生のときにBOOWYの10枚組のCDが欲しいために叔母のスナックで働いたときの素敵な体験が忘れられず、中学の卒業文集に「ぼくは将来バーテンダーになるんだ」と書いて夢を膨らませたという。だから山田は高校を卒業したとき、迷わずバーマンへの道を選んだのであった。

シマジ:いまは大学を卒業しても何になろうと悩んでいる若者が多いというのに、山田は偉いね。中学生のとき抱いた夢に、まっしぐらに突き進んだんだね。

山田:はい。高校を卒業してぼくが入学したのは、渋谷にあったバーテンダースクールでした。約1カ月間その学校で勉強して、実地にいろいろなバーを見学に行ったのですが、恵比寿のオーセンティックバー「ODIN(オーディン)」が気に入り、修行先として迷わず選びました。そこの菊地オーナーバーマンはマニアックな方で、彼にぼくの師匠になっていただいたんです。

シマジ:オーディンの菊地バーマンか。それはいい師匠についたね。先日この連載で取材したばかりだよ。

山田:読んでおります。この取材依頼を受けたときも菊地師匠に報告いたしました。

シマジ:あそこはこだわりのバーだよね。山田は何年くらい「オーディン」で働いたの。

山田:4年半お世話になりました。その当時、菊地師匠はNBA(日本バーテンダー協会)の技術部長をされていましたね。

シマジ:じゃあ山田も「オーディン」の名物、ブラッディ・シーザーを作るのはお手の物なんだな。

山田:はい。ハマグリで作ると「オーディン」そっくりになりますので、ぼくは三重県の鳥羽の海女さんに頼んでアワビを送ってもらい、ハマグリではなくアワビで取った出汁でブラッディ・シーザーを作っています。アワビを柔らかくするために、まずはダイコンおろしでコトコト蒸して、それから日本酒でコトコト煮て出汁を取っています。

シマジ:出汁ひとつにずいぶん手をかけているんだね。トマトはやっぱり上質なものを使うんだろう。

山田:そうですね。実のところ美味いトマトは1月下旬から4月いっぱいで収穫が終わってしまいますので、今日は作れといわれても無理なんですよ。

シマジ:アワビも春先が旬だろうしね。

山田:そうですね。うちに送られてくる鳥羽のアワビは売り物にならないような小さなアワビが多いんです。まあ出汁を取るには大きさは関係ないですから。それからこのアワビの出汁で作る雑炊が人気です。

シマジ:ほかにもここは、小腹が空いたときに食べるものが多いという評判じゃない。

山田:そうですね。賄いから昇格したカレーライスもありますし、玉子かけご飯も好評です。玉子も上質なものを使っていますが、燻製したベーコンをカリカリに焼いたものをご飯に乗せて、関ヶ原のたまり醤油をさっとかけ、大分県産のプチプチマスタードを添えた絶品なんです。ですから3通りの味が愉しめます。

シマジ:聞いているだけで美味そうだね。

山田:うちの2色のカレーライスも凝っていますよ。真ん中にライスをはさみ、片方は黒コショウをベースにした真っ黒なカレーで、片方は黄色いカレーですが、まずタマネギを50個分包丁で細かく刻んで、ほかにニンジン、セロリ、ニンニクを混ぜて牛スジと一緒に8時間炒め、10日間煮込んだものです。

シマジ:うん、そのカレーライスも美味そうだね。

山田:それからぼくが考案した“マッカラン丼”というのがあるんです。

シマジ:なになに“マッカラン丼”だって?

山田:はい、四国の阿波牛を細切れにして、カツオ出汁、醤油、そしてマッカラン12年で味付けするんです。

シマジ:“マッカラン丼”か。それはバーで出すメニューらしくていいね。

立木:山田はバーマンでなく料理人になっても成功していたんじゃないか。

山田:いえいえ。料理人は厨房に入っていますし、料理を作るのに忙しくて、お客さまとゆっくり会話を愉しむことができないと思います。バーマンにはじっくりお客さまとお話ができるという利点があります。シマジさんのご著書ではないですが「バーカウンターは人生の勉強机」だとホントに思います。

立木:そうだ、山田、おれにもモヒートを一杯作ってくれる。

山田:そうでしたね。失礼いたしました。すぐお作りします。

シマジ:わたしももう一杯もらおうかな。

立木:さっきからお前は飲み過ぎじゃないの。

シマジ:大丈夫。今日は原稿を書かなくてもいい日ですから。多胡さん、なにかほかにノンアルコールをもう1杯召し上がりますか。

多胡:いえ、わたし飲み物は十分いただきましたから、もう結構です。でも、できましたら先ほど話されていた玉子かけご飯を少量でいいんですが、いただけないでしょうか。

山田:お安いご用です。ではまずはモヒートを作りましょうか。立木先生、シマジさん、はい、どうぞ。

シマジ:タッチャンの撮影も光より速いけど、山田のモヒートも速いね。

立木:うん、これはハバナで飲んだモヒートより断然美味いや。リモンチェッロが隠し味としてよく利いてるわ。

シマジ:ミントの香りが抜群だね。頭がスッキリするような気がする。しかもミントのえぐみが全然感じられない。

山田:ありがとうございます。多胡さん、玉子かけご飯ができました。これはうちのスタッフが作ってくれたものです。

多胡:ありがとうございます。わあ、いい香りで美味しそう。

シマジ:山田が言うように、3通りの味を愉しんでください。そして丈夫な赤ちゃんを産んでくださいね。

多胡:はい、ありがとうございます。

シマジ:このバーにはスタッフは何人いるの。

山田:4人です。みんな平均以上に背が高いんですが、わたしが異常に高いため、自分たちが小さく見えるとこぼしていますけど。

シマジ:なるほど。背丈は比較の問題だからね。さっきタッチャンがあんなに小さく見えたのには驚いた。

立木:うるさい!シマジが山田の隣に立ってみろ。お前は山田の肩までもないぞ。

シマジ:いえいえ、遠慮します。今日は座っています。

立木:そうだ、記念写真を撮ってやるからこっちに来い。

シマジ:いえいえ、75歳になってまで無駄なコンプレックスを味わいたくはありません。勘弁してください。

多胡:この玉子かけご飯にはビックリしました。ベーコンの味がいいですね。いままで食べた玉子かけご飯はなんだったんでしょう。

山田:ありがとうございます。作ったスタッフが喜んでいますよ。

多胡:“マッカラン丼”も、といきたいところですが、生まれてくる子どものために今日は我慢します。

シマジ:偉いですね。多胡さんはもう母親の気持ちになっているんだ。ところで、山田がバーマンになっていちばん感激したことってなんなの。

山田:素晴らしい質問をありがとうございます。さきほどから今か今かとその質問を待っていたんです。

立木:そこまで言うんじゃ、よっぽど感動的な話があるんだろうな。

山田:はい。さきほど、中学生のときに叔母のスナックで働いていて、そこで可愛がっていただいた長岡の某有名不動産の社長さんの話をしましたよね。

シマジ:うん、よく覚えているよ。

山田:実は、約2年前ですか、その親切な社長さんの息子さんが、偶然にもここに現れたんですよ。最初はなにも知らず、お話ししていて、あの社長さんの息子さんだとわかったんです。いやあ、驚きました。それと同時に、この不思議なご縁に感極まって、ぼくは辺り構わず号泣してしまいました。

シマジ:それはもらい泣きしたくなるような素敵な出会いだね。その息子さんはいくつぐらいの方だったの?

山田:そうですね。45、6歳でしたか。よく見ると面影がお父さまソックリだったんです。すでにお父さまはお亡くなりになっていましたが。

シマジ:そんな感動的な話があったんだ。だから山田はバーマンをやめられないんだね。

立木:山田、泣かせるじゃないか。

多胡:事実は小説より奇なり、ってこのことでしょうね。いいお話を聞かせていただきありがとうございます。これは胎教にもいいかもしれません。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

WODKA TONIC
ウォッカトニック

東京都港区西麻布2-25-11 田村ビルB1F
03-3400-5474
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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