撮影:立木義浩
<店主前曰>
今回取材に応じてくれた和知徹オーナーシェフのフレンチ・ビストロ「マルディ グラ」を紹介してくれたのは、島地勝彦公認“食のストーカー”森田晃一である。その前にたまたまTBSの「情熱大陸」を観ていたわたしは、和知シェフに対し強く興味を掻き立てられていたところだった。番組の内容は、かつて旧ソ連の支配下から独立したウズベキスタン、カザフスタン、キルギスを訪ね、羊の全てを知り自分の料理に昇華させるという、ハードな“食の1人旅”であった。はじめて出会った家庭にまるで空気のように自然に上がり込んで、和知は家族の一員のような顔をしてみんなに料理を作ってあげる。そこにある食材と、そこにある包丁や鍋で料理をする。そして、そこにいる家族の顔が、和知の料理に感動して華やいでいく過程をカメラが捉えていた。今回“食の1人旅”で和知が獲得してきたのは「ラグマン」という中央アジアの名物料理だが、そこに和知の体験と感性が加えられて誕生した一品は、「マルディ グラ」のお客さまにも瞬く間に人気を博したという。探究心旺盛な和知が世界各地を訪ねる“食の1人旅”と、その土地の料理を自分の料理として進化させ極上の一皿を創作する試みは、これからも続いていくのだろう。
シマジ:こちらが、われらが立木巨匠です。こちらが、先日「情熱大陸」に出演された和知徹さんです。
立木:よろしくね。ターコイズ色の屋根の寺院で有名なサマルカンドの町で、美味そうに羊の料理を食べているシーンを観ましたよ。
シマジ:タッチャンは忙しいのによく観られましたね。
立木:和知シェフとはご縁があるのかもね。
和知:光栄です。今日は頑張りますのでよろしくお願いします。
シマジ:こちらは今日のヒロインの、資生堂からいらした金塚京子さんです。
金塚:金塚と申します。よろしくお願いいたします。
和知:では料理を作らせていただきます。
シマジ:完成したらまずは巨匠へ渡してください。撮影が終了したら、一点一点金塚さんに回ってきます。それまでちょっと待っていてくださいね。その前にいま商標登録出願中の、タリスカー10年の“スパイシーハイボール”を飲んでいてください。これはわたしが作ります。どうぞ、金塚さん。
金塚:いただきます。わっ、美味しい!これはイケますね。何杯でも飲めそうです。
立木:スパイシーハイボールセットがここにあるということは、この店はシマジの“えこひいき店”なのか。
シマジ:それが違うんですよ。この店は熱狂的なシマジ教信者のモリタという男の“えこひいき店”なんですよ。この間、モリタにご馳走になって初めて来たんですが、あまりの独特の美味さに感動して、その場でこの取材のお願いをしたんです。嬉しいことに、和知シェフはこのSHISEIDO MENの連載を読んでいて二つ返事でOKしてくださったんです。今日の料理はボリュームもあって撮り甲斐があると思います。
立木:撮り甲斐がある、なんて余計なことを言うな。それはおれが決めることだ。
和知:立木先生、これが最初の料理です。自家製フランス田舎風パテです。
立木:たしかにボリュームがあるわな。ヤマグチ、カメラをくれ。
ヤマグチ:はい。
金塚:ここまでパテの香りがしてきますね。美味しそう。
和知:これはブタ肉とトリのレバーを混ぜ合わせたものです。
シマジ:この回りの白い部分はなんですか。
和知:ここはブタの背脂を固めたものです。
立木:はい、撮影終了。お嬢、どうぞ。たくさん召し上がれ。
金塚:ありがとうございます。いただきます。シマジさん、スパイシーハイボールをお代わりしてもいいですか。
シマジ:何杯でもOKですよ。
金塚:うん、美味しい。ランチを抜いてきてよかったです。それにしても大きなパテですね。
和知:写真映りがいいように大きくしました。ではわたしは次の料理にとりかかります。
金塚:シマジさんも手伝ってくださいませんか。
シマジ:いただきましょう。うん、これは酒をよく利かせたパテですね。和知さん、料理中にすみませんが、このパテにはどんな酒が入っているんですか。コニャックはわかりますが、あとは?
和知:コニャックとマディラワインとポートワインです。
シマジ:うん。これはワインの誘い水になりますね。
和知:飲兵衛の方だと、ワインをチビチビやりながらこのひと皿を食べてお帰りになられる場合もあります。
金塚:たしかにお酒が誘われますね。シマジさん、もう1杯お願いしてもよろしいですか。
シマジ:喜んで作らせていただきます。金塚さんはイケるほうですね。
金塚:はい、おかげさまで。でも飲み過ぎて失敗したことは何度もありました。
シマジ:たとえば?
金塚:若かったころのことですが、実績を担当していた入社5年目のころ、二日酔いで数字を見ていたら目が回ってきてしまい、余計に気分が悪くなり、フラフラしながら即医務室に駆け込んで、ベッドの上で半日過ごしたことがありました。あれは恥ずかしかったですね。
シマジ:そのために医務室があるんですから、なにも恥ずかしがることはありませんよ。医務室も、暇にしているより仕事があったほうがいいでしょう。
和知:立木先生、お待たせしました。2番目の料理ができ上がりました。
立木:うん、これは色味がいいね。
シマジ:これは野菜料理ですよね。
和知:青森県の野辺地のカブをローストしたものに、ベーコンを燻製し直してあえています。この野辺地のカブは丹波のカブより凄く甘味があるんです。
シマジ:焼きカブですか。香りが美味そうですね。
立木:はい、撮りました。
シマジ:金塚さん、どうぞ。熱いうちに召し上がってください。パテはあとでいいですから。
金塚:いただきます。スパイシーハイボール、お代わりしてもいいですか。
シマジ:了解。すぐ作りましょう。はい、どうぞ。こんなにスパイシーハイボールが出るのは初めてのことです。バーマンとして嬉しいですね。
金塚:飲兵衛で申し訳ありません。焼いたカブってこんなに美味しいものなんですね。これってうちでもできますかしら。
シマジ:でも食材が違いますから、こうは美味くできないでしょう。
金塚:主人に食べさせてあげたくなりました。
シマジ:それなら簡単です。ご主人と一緒にこの店に来ればいいじゃないですか。
金塚:そうですね。
和知:3番目の料理です。これはいわゆるラムのシシカバブです。
立木:これは迫力あるね。撮り甲斐がある。
シマジ:これはどこのラムですか。
和知:オーストラリア産です。
立木:はい、お嬢、召し上がれ。
金塚:凄いボリュームですわ。シマジさん、手伝ってください。お料理の迫力に負けそうです。うん、でも美味しいです!
和知:最後の料理は先日シマジさんに気に入っていただいた中央アジア風ラグマンです。この麺に羊を煮込んだスープを浸しています。立木先生、よろしくお願いします。
立木:これは美味そうだ。さっき見ていたんだが、麺を一本一本手で揉みながら作るんだね。手間がかかっているんだ。ヤマグチ、ここに照明を一発当ててくれ。
ヤマグチ:了解しました。
立木:はい、料理の撮影は終了!お嬢、どうぞ。
金塚:麺がうどんより太いですね。いただきます。
シマジ:これは先日和知シェフが“食の1人旅”で発見してきた料理だそうですよ。しかもこのラグマンというのはラーメンの原型だそうです。
金塚:美味しいです。歯ごたえが堪りませんね。
シマジ:そうでしょう。わたしも先日初めて食べたとき、この歯ごたえが堪らなくセクシーだと感じましたね。