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第10回 広尾 ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー 下野昌平氏 第2章 スコットランドの森が香る雷鳥に舌鼓。

撮影:立木義浩

シマジ:別府さん、お待たせしました。ではご一緒に、いただきましょう。

別府:下野シェフのお料理はお皿も盛り付け方もセンスが豊かですね。

下野:ありがとうございます。ではまずシャンパンを飲みながら召し上がってください。どうぞ。

シマジ:今日はウイスキーではないですが、スコットランド式に乾杯しましょうか。スランジバー、ゴブラ!

別府:スランジバー、ゴブラ!

シマジ:この意味は・・・。

別府:知っています。わたしはこの連載の愛読者ですので。「あなたの健康を祝して、そしてあなたの成功を祈って」という意味ですよね。

シマジ:その通りです。今日のメインディッシュがスコットランド産の雷鳥ですから、敬意を表して、敢えてスコットランド風な乾杯にしたんです。

下野:へー、そういう意味なんですか。知りませんでした。

シマジ:健康を祝すスランジバーだけでなく、お酒を飲めるくらいに成功しないといけないから、ゴブラと言うらしいですよ。

下野:なるほどね。それは重要なことですよね。

立木:3人でレンズを見てくれる。うーん、3人とも表情が硬いな。一緒に「スランジバー!」と大きく口を開いて言ってくれる。

一同:スランジバー!

立木:そうそう、そんな感じ、OK。あとは勝手におしゃべりしていていいよ。

下野:別府さん、まずブリのタルタルから召し上がってください。

別府:その泡はなんですか。

下野:ヴァルサミコビネガーの泡です。

別府:美味しいです。

シマジ:別府さん、どんどん召し上がってくださいね。わたしは下野シェフにインタビューしていますから。下野シェフ、このお店はいつオープンしたんですか。

下野:忘れもしない2009年10月27日です。

シマジ:では8年前ということですね。それではこの店は2011年の3.11も経験したんですね。

下野:広尾は地盤がしっかりしているらしく、お陰さまでお皿1枚、ボトル1本被害に遭いませんでした。しかもグラグラっときたときはまだ営業中でしたが、そこの個室で食事をしていた広尾のマダムたちは悠々としていましたね。「死んでもいいからこの食事を食べさせて」なんて言っていましたよ。むしろ上の階にいた道場の若者たちが大慌てで外に飛び出してきました。それが対照的で思わず笑ってしまいました。シマジさんも広尾にお住まいでしたよね。

シマジ:あのときわたしは恵比寿ガーデンプレイスのスポーツクラブのサウナに入っていたんです。2時過ぎでしたのでサウナにはわたし1人でしたが、地下1階のためか揺れをまったく感じず、地震があったことさえ気付きませんでした。それから20分後に着替えて外に出てきたら黒山の人だかりだったんで、近くの人に「どうしたんですか」と尋ねると怪訝な顔をされて、「いま大きな地震があったんです。このビルの最上階の35階にいたんですが、1メートルくらいの揺れを感じて慌てて降りてきたんです」と言うではありませんか。わたしは200本近いシングルモルトを、狭い部屋にむき出しで棚やテーブルの上に置いていましたから、急いで自宅まで走って帰りました。マンションのエレベーターは停止していたので、非常階段を11階までやっとのことで昇って部屋に入ると、シングルモルトのボトルは1本も床に落ちることなく無事だったんです。それから女房がいる同じフロアの部屋を訪ね「大丈夫だったか」と声をかけると、「立てかけていた鏡が倒れて大変なの」と言っていました。女房よりシングルモルトのことを真っ先に心配したことは、我ながら忸怩たるものがありましたけどね。ともかくこのあたりは地盤が堅牢なんでしょうね。

下野:あの日は明治通りを夜遅くまで大勢の人が帰宅のために歩いていましたね。別府さん、その芽レンコンの料理はちょっと大きいですけど、一口で召し上がってください。すると乾燥ハム、エノキダケ、ハーブの香りと芽レンコンの香りが同時に口のなかで広がります。

別府:この感触と味ははじめて知る美味しさです。

シマジ:下野シェフ、失礼ですがお歳は?

下野:2018年で45歳になります。

別府:そうしますと下野シェフは1973年生まれですか。

下野:そうです。

別府:のちほどお肌チェックをしますが、そのときそのデータを使わせていただきます。

立木:シマジ、シャンパングラスを高く持ってくれない。そうそう、それを入れてシェフを撮りたいんだ。OK。

下野:そろそろサンマのムニエルがきます。白ワインをどうぞ。

別府:シャンパンもこの白ワインも美味しいですね。

シマジ:サンマがこんなに大きくなったんですね。

下野:今年はサンマが不漁で、細く小ぶりのものばかりでしたが、ここにきてやっとフルボディのサンマが入荷するようになったんです。でも今年はこれでもう終わりでしょう。

シマジ:読者のみなさま、下野シェフの調理した美味しいサンマのムニエルを食べたい方は、来年の秋まで待ってください。

下野:スコットランド産の雷鳥も、もうそろそろ終わりに近いですね。

シマジ:読者のみなさま、申し訳ありません。そういうことでございます。

別府:サンマの骨を外しているから食べやすいですね。これもはじめて味わうサンマ料理です。トマトの味が効いていますね。それにこの、サンマのはらわたのソースが絶品です。美味しいです。

下野:ありがとうございます。では、いよいよメインディッシュのスコットランド産の雷鳥をお出しします。ここはやっぱり赤ワインでしょう。どうぞ。

シマジ:うーん、雷鳥の野趣豊かな香りが堪らないですね。赤ワインがよく合います。

下野:雷鳥は小さいですから1人1羽が最適です。

立木:お嬢、ワイングラスを持って高くあげてくれない。そうそう。

シマジ:下野シェフはどちらのご出身なんですか。

下野:ぼくは山口県徳山市出身です。ぼくが生まれた町は過疎化が進み合併してしまいました。でも有り難いことに、徳山駅には新幹線が停車するんです。

シマジ:山口と言えば、古くは偉人吉田松陰が出たところですし、いまの日本国の首相、安倍晋三の出身地です。そして下野昇平シェフの出身地でもあるわけですね。

下野:いやあ、ぼくなどそんな中に入れる人間ではありませんが。でもシマジさんから見ていまの安部首相はどう映りますか。

シマジ:国家のリーダーとしていちばん必要なことは、まず本人が強運であることだと思います。その点安部首相は稀にみるような運が強い人だと確信しています。去年トランプ大統領が来日して2人が一緒にゴルフをしたときは見事な日本晴れでしたよね。ああいうとき、運がなければ大雨が降ったりするものです。そんなことよりも、下野シェフにお訊きしたいことがあるんです。

下野:なんなりと、どうぞ訊いてください。正直にお答えしましょう。

シマジ:なぜ料理人になろうと思ったか、そしていつ頃からそう考えたんですか。

下野:ぼくは子どものときからカレーライスが大好きで、カレー屋さんになろうと秘かに思っていたんです。

シマジ:えっ、カレー屋さんですか。

下野:はい。高校を卒業して大阪の辻調理学校に入学したんですが、カレー科がなかったことにはショックを受けましたね。

シマジ:面白い話ですね。

新刊情報

神々にえこひいきされた男たち
(講談社+α文庫)

著: 島地勝彦
出版: 講談社
価格:1,058円(税込)

今回登場したお店

ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー
東京都渋谷区広尾5-19-4 SR 広尾ビル1F
Tel:03-5422-8851
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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