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第12回 六本木 Restaurant Ryuzu 飯塚隆太氏 第4章 人生に一生モノの出会いを。

撮影:立木義浩

立木:シマジ、そろそろ資生堂からきたお嬢にインタビューする時間がきたんじゃないの。

シマジ:そうですね。

立木:それが終わらないとおれも帰れない。それに食事と酒で緊張もとけただろうから、女性の笑顔を撮るには最適な時間でもあるんだ。シマジ、お嬢をうんと笑わせてくれよ。

シマジ:では土屋古都さん、よろしくお願いしますね。

土屋:こちらこそよろしくお願いいたします。ただその前に、シマジさんには日経新聞の全面1ページで、SHISEIDO MENのエッセイを書いていただきありがとうございました。お陰さまで問い合わせがたくさんあったと聞いています。

飯塚:たしか日曜日の日経でしたね。わたしもビックリしました。しかもシマジさんはもう13年もSHISEIDO MENをお使いになっているんですね。

シマジ:そのお陰で77歳にしてはまあまあの肌を保っているんですよ。もしわたしがミラノでのヨーロッパ先行販売に出くわしていなかったら、SHISEIDO MENを使ってはいなかったかもしれません。人との出会いも大切ですが、これは一生モノだというモノとの出会いもまた大事なことなんですよ。

立木:なるほど。たまにはシマジもいいことを言うね。

シマジ:では毎度お馴染みの紋切型の質問ですが、土屋さんはどういうモチベーションで資生堂に入社されたんですか。

立木:おれはこのシマジのいつもの質問が好きだね。

シマジ:タッチャンはこの質問を聞くと、もうそろそろ今日の仕事も終わるな、と思うからでしょう。

立木:いやいや、どんな人間でも会社を選ぶときは真面目に考えるものなんじゃないか。また運命的なものさえ感じるものだよ。

飯塚:たしかに料理人になるのも同じことが言えますね。

シマジ:ということで土屋さんの場合はどうだったんですか。

土屋:わたしは世界においてプレゼンスが高いグローバルな日本企業、ということでメーカーや貿易商社を中心に就活をしていました。ただ、当時はリーマンショックによる経済不振でまさに就職氷河期だったことに加え、震災で企業の採用活動が遅延し、就職活動がうまくいかず苦戦していました。そんななかで、憧れていた大学の先輩が勤めている資生堂に興味を持ちました。幼いころから人一倍興味があった化粧品や美容に携わる世界です。最初は正直軽い気持ちで受けたものの、二次面接のとき面接官だった女性管理職の方にはっとしました。子育てと仕事を両立してキャリアを築いている、その方のしなやかで上品な対応と仕事に対する真剣さに感銘を受けたんです。資生堂で働いたらこの方のようになれるかもしれないという憧れが膨らみました。と同時に、それまで受けていていた企業では出会うことがなかった運命的なものを感じ、どうしても資生堂に入りたいという気持ちが高まり、運良く入社できたんです。

シマジ:それは感動的なお話ですね。きっとその憧れの面接官も土屋さんのような方に資生堂に入ってもらいたいと秋波を送っていたのではないでしょうか。わたしも集英社の最終面接のとき、当時の専務の本郷保雄さんに出会い、格好いい方だとひとめぼれしていたら、本郷専務もわたしを気に入ってくれて「こっちに来い」と手招きされ、「君のような若者が入ってくるのをわたしは待っていた」と握手までしてくれたんです。

立木:後年、おれもシマジと一緒に本郷さんに会ったことがあるけど、じつにダンディな方だったね。

土屋:面接のときに握手をされたのですか。

シマジ:はい。あとでわかったことですが、本郷さんは戦前、『主婦の友』を160万部売っていた大編集長だったんです。

飯塚:たしかに人生にはそういう運命的な出会いってありますよね。

シマジ:土屋さんにとっては、そのしなやかで上品な女性の面接官に会えたのが運命的だったんでしょうね。

土屋:そうかもしれません。

シマジ:いま実際にやられている業務はどんなものなんですか。

土屋:いまの業務はSHISEIDOのスキンケア&サンケアの施策の企画立案です。以前の部署はコスメティックマーケティング部だったのですが、2018年1月からブランドSHISEIDOに異動になりました。同じマーケティング部なんですが、前は主に商品開発と売上管理を担当していたのが、今年からは新たなブランドでわからないことやはじめての仕事が多くなり、個人的にもとてもチャレンジングなでき事の連続です。でもチームの人たちに支えられて、忙しく充実した日々を送っています。

シマジ:一言で「ブランドSHISEIDO」と言っても、もの凄い商品数ではないですか。SHISEIDO MENのシリーズ1つとっても、わたしが持っているだけでたしか12品目はありますよ。いつも女房に「あなたはわたしより化粧品を使っているわよ」と呆れられています。

立木:シマジ、お前そんなにたくさん塗ったくってどうするんだ。

シマジ:それだけ塗らないと気分がスッキリしないんですよ。

立木:それはSHISEIDO MEN病だな。

シマジ:なんと言われようと死ぬまで使わせていただきます。

土屋:ありがとうございます。そうなんです。ブランドSHISEIDOは商品数が膨大で、また世界約90カ国で販売されている、社内でも非常に注目度が高いブランドなのです。一方ではより20代から30代の若い層を獲得し、ブランドの若返りをはかるために、他のブランドにはできない新たな試みにたくさん取り組んでいるブランドなんです。そのようなブランドの売上の基盤となるスキンケアやサンケアをどうしたら若いお客さまに買ってもらえるのか、それがわたしのミッションなので、毎日、世の中の若い層のトレンドやライフスタイルを観察し、またわたし自身消費者としてプレステージな体験の場に出向いたりして、消費者全体のニーズの理解に努めているんです。

シマジ:土屋さんはなかなかの情熱家ですね。きっとすべてがうまくいきますよ。

土屋:ありがとうございます。わたしが資生堂に入社していちばんよかったことの1つは、尊敬する上司との出会いだと思っています。

シマジ:それは土屋さんが強運だということですよ。親と上司はこちらからは選べないんですからね。

土屋:そうですよね。営業、マーケティング、とそれぞれの分野で1人ずつ、わたしの仕事観を変えるような上司に巡り会うことができました。

シマジ:凄いですね。地方で営業をしていたときから素敵な上司に巡り会えたのですか。

立木:でもシマジ、いままでのお嬢たちも、地方で愛情込めて揉まれたエピソードをみんな話していたような気がするよ。

シマジ:資生堂がこの制度を何十年も続けているということは、新人をより成長させるには営業という現場で愛情込めて揉まれることが大切だと信じているんでしょうね。出版社では、まあいまはどうなっているか知りませんが、わたしのころは新人研修として本屋の店頭で働いたものですよ。どういうお客さまがどんな本を買っていくのかを観察するのは、出版人としてはためになりましたね。土屋さんのお話を中断させてごめんなさい。それで土屋さんはどんな素敵な上司に出会ったのですか。

土屋:新人から3年間、わたしは広島でドラッグストアの営業をしていたのですが、当時は地元から遠く離れ知り合いもいない土地が配属先だったこと、それに加え、当時の営業の仕事を向こう何年するのかわからなかったことで、不安や焦りばかりが募り、仕事に対して真摯に向き合えない自分がいました。

シマジ:うーん、その気持ちはわかるような気がしますね。

土屋:そんなとき、当時の支店長だった上司に「どんなにつまらない仕事でも一生懸命やれば必ず自分のためになるから、本当にやりたい仕事をしたいなら、とにかく一度いまここでがむしゃらに頑張りなさい」と指導していただいたことで、根気強く仕事に取り組む姿勢を覚えることができました。

シマジ:その方は素晴らしい上司ですね。単調な営業活動に土屋さんがちょっとクサッていたのを見抜いていたんでしょうね。

土屋:もう1人は、マーケティング部に異動し3年弱アネッサという日焼け止めブランドを担当していた頃に出会った上司です。当時売上が低迷していたブランドの売上回復に貢献できたことがあったんですが、そのとき戦略立案から企画の実行まで体系的に教えていただいた上司の方には、いまでも尊敬と感謝の念を忘れたことがありません。本当に仕事のやりがいを1から教えていただいたんです。また1人で悩むよりも関係者みんなを巻き込んで、一丸となって作り上げる面白さが商品開発の仕事の醍醐味だと最近思うようになりました。

シマジ:今日はありがとうございました。土屋さんの今後ますますのご活躍が愉しみですね。頑張ってくださいね。

土屋:こちらこそ。今日は本当に美味しいものばかり食べさせていただき感謝いたします。

立木:お嬢、元気でね。

土屋:立木先生もいつまでもお元気でいてください。

立木:はい、ありがとう。

新刊情報

神々にえこひいきされた男たち
(講談社+α文庫)

著: 島地勝彦
出版: 講談社
価格:1,058円(税込)

今回登場したお店

六本木 Restaurant Ryuzu
東京都港区六本木4-2-35
Tel:03-5770-4236
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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