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第3回 Pen編集部 佐藤俊樹氏 第3章 シャンパン入りの化粧品ってあるのかな。

<店主前曰>

わたしの若いころは”SHISEIDO MEN”のような高級男性化粧品なんてこの世に存在していなかった。ちょうどPenのサトウ・トシキと同じ歳ごろ、わたしはジャックダニエルの取材でテネシー州のナッシュビルを訪れたことがある。
「君はうちのジャックダニエルが好きなのだそうだが、どれくらい飲んでいるんだ」と広報担当部長がわたしに尋ねてきた。
「もちろん、毎晩あおっているよ。みんなとちがうところを言おう。ぼくは、毎朝ヒゲを剃って顔を洗ったあと、アストリンゼントの代わりとして、ジャックダニエルを手のひらに数滴垂らして顔にぬっている。また脇の下につけてから会社に行くんだ」と豪語した。これは作り話ではなく、本当の実体験を話したまでだ。広報部長は目を丸くして驚き社長に報告に行った。
結果、わたしを1万エーカーのオークを植えている広大な土地の所有者にしてくれた。わたしにとって何の役にも立たない土地だが、ちゃんと権利書までくれた。それがいまシマジ・サロンの壁に掛かっている。
 いまはシングルモルトばかり飲んでいるが、もったいなくて顔にはぬれない。しかも幸いなるかな、SHISEIDO MENという素晴らしい男性化粧品が出現した。まったくトシキの世代は幸せなのである。

シマジ トシキはSHISEIDO MENに巡り会う前は何を使ってたんだ。

トシキ いろんな外国の化粧品を試してみましたが、香りが強く肌にきついのでやめました。

シマジ おれもペンハリガンとかトゥルフィト&ヒルとかいろいろ使ってみたが、おれの肌に合わなかったな。結局、残ったのはトゥルフィット&ヒルのひげ剃り用のカミソリスタンドとシャボンとペンハリガンのボディーシャンプーとブレナムブーケのオーデコロンと脇の下の汗止めの同じブレナムブーケのデオドラント・スティックだけが残っただけだ。あとは全部お払い箱にして、いまではSHISEIDO MENさまさまだ。

BC杉本 ありがとうございます。今日は大阪からきた甲斐がありました。世界に誇れる最高の男性化粧品をわたしたちは提供していると自負しております。

シマジ 日本よりヨーロッパで売れているのがわかるね。ヨーロッパの白人たちにも、この柔らかな質感と押えた香りが受けているだろうね。自分の好きなオーデコロンをつけても邪魔しないのがいいよね。

トシキ 使ってみると、資生堂の研究所で実験を繰り返して丁寧に製造しているのが実感出来ますよね。

BC杉本 ありがとうございます。

トシキ 杉本さん、女性は男性のどういう香りに弱いんですか。

BC杉本 そうですね。すれちがったとき、ふっと感じるさわやかな香りに弱いんじゃないでしょうか。

シマジ オヤジ臭は最悪でしょう。

トシキ 「ボディークリエイター」のグレープフルーツの香りなんていいんでしょうね。

シマジ そうだね。だから、たっぷり腹部にボディークリエイターをぬったときは、おれはほかのオーデコロンはつけないことが多いね。

BC杉本 大変いいと思います。

トシキ お洒落な男はジョン ロブの靴を買ってピカピカに磨くように、いまは自分の顔の肌を磨く時代に入ってきたんですね。

BC杉本 そうだと思います。早くはじめるほど、エイジングケアとして効果を発揮するはずです。

シマジ 牛革の靴も人間の肌も呼吸しながら生きているんだ。トシキ、靴をピカピカにする最高の技を教えようか。

トシキ そんなものがあるんですか。

シマジ あるとも。最後にシャンパンで磨くんだよ。ビックリするくらい光り輝くよ。

トシキ へえ、さっそくやってみよう。

シマジ シャンパンの銘柄はなんでもいい。イタリアのスプマンテでもOKだよ。

トシキ 顔にシャンパンはどうですかね。

シマジ さすがにそれはおれもやったことがない。トシキ、一度やってみて結果を教えてくれないか。

トシキ やってみますか。報告します。

立木 シマジ、ここにはシャンパンはないのか。

シマジ シングルモルトしかありません。そうだ。今度、福原さんにお会いしたら、シャンパン入りの化粧品を開発するように進言しよう。立木義浩先生も大いに興味を示していたと言っておこう。

立木 シマジ、おれまで巻き込むな。

トシキ たしかに光沢のある肌ってリッチにみえますよね。女性にモテるひとつの条件ですよね。

立木 シマジなんてピカピカの肌だけで女をだましているんじゃないの。

シマジ いやいや。この光沢はSHISEIDO MENのお陰です。このようにおれの顔の肌は鏡のように輝いているから、女性が自分の顔を映していつもウットリしていますよ。

立木 杉本さん、こういうシマジのオーバーな表現を世間では何て言ってるか知っている?

BC杉本 知りません。

立木 これは現代ビジネスのセオの命名なんだが、”過剰なるリアリズム”って言うんだ。杉本さん、言い得て妙でしょう。

BC杉本 はい。

立木 このレトリックで多くの人間がだまされてきたんだよ。もちろん、おれも含めてね。杉本さん、はやく荷物まとめて大阪に帰ったほうが無難だよ。

トシキ ”過剰なるリアリズム”ですか。それはうまい!

立木 そんなところで感心しているトシキもまだ甘いね。たんにシマジのメガネに相手の女性の顔が映っていたんじゃないか。

シマジ おれは”過剰なるリアリズム”のレトリックでメシを食っているんだ。これはおれの売りの芸だな。

立木 芸にまでしてしまったのか。しょうがねえヤツだ。杉本さん、我慢してもう少しつきあってくれますか。

BC杉本 はい。大丈夫です。

トシキ シマジさんのヘアは”過剰なるリアリズム”ですか。

シマジ どういう意味だ。

立木 シマジの髪の毛はカツラかどうかとトシキが婉曲に訊いているんだろう。

トシキ そうです。

シマジ おれは若いときから床屋のオヤジに禿げる禿げるって脅されていたんだが、幸い、まだ地毛でこれだけ保っている。

トシキ 71歳としては大したものですよ。

シマジ おれ自身いま71歳とは思っていない。70歳のとき逆回りの腕時計をデザインして手作り時計職人に作ってもらった。だから時はどんどん逆に回っておれはどんどん若くなっているんだ。今年の4月7日でおれは69歳になったと自分では確信している。

立木 歳まで嘘ついてるのか。シマジらしくていいかもな。

シマジ トシキは何歳だったっけ。

トシキ 今年で35歳になります。

シマジ うん、35歳か。49歳のミツハシだったら同年になれる可能性はあるが、35歳は無理かもな。

トシキ いや、シマジさんのことだからわかりませんよ。

立木 シマジ、おれを忘れて勝手に長生きしててくれ。

シマジ でも10年後たとえ禿げても、おれの性格上カツラは許せない。そうなったら、思い切って潔くスキンヘッドにしているだろうな。

トシキ いま御髪はどういう手入れをしてるんですか。

シマジ ヘアも資生堂さんにお世話になっている。これはSHISEIDO MENとはラインがちがうんだが、朝、シャワーを浴びるとき、「薬用アデノゲンシャンプー」で髪の毛を洗う。それから「薬用アデノゲンコンディショナー」でリンスする。しばらくそのままにしておいて「クレンジングフォーム」で顔を洗う。ペンハリガンのブレナムブーケの香りがするボディーソープで全身を藤本虎のボディーブラシで丁寧に洗う。そのあと「薬用アデノゲンコンディショナー」を洗い流すんだ。

トシキ 藤本虎のボディーブラシってなんですか。

シマジ これはスグレモノだよ。ボディーブラシは馬毛で、ヘアブラシはイノシシの毛だ。

トシキ どこで売ってるんですか。

シマジ 浅草だ。おれは30年以上これを使っている。この感触なしではおれは生きていけない。気持ちがいい。そのあと一連のトリートメントをやったあと、薬用アデノゲン発毛促進剤を頭皮に振りかけゴシゴシぬり込んで、最後にSHISEIDO MENのヘアワックスで整髪する。そのときも藤本虎のヘアブラシを使うんだ。

トシキ でもヘアワックスを使うと、ブラシの目が詰まって汚くなりませんか。

シマジ いい質問だ。藤本虎にはその詰まった汚れを落とす見事な道具まで売っている。

トシキ シマジさんがそんなに褒めるんだから、おれも買いに行こうかな。

シマジ これは英国製品より職人技が際立っている。おれはいちばんハードなものを使っているが、柔らかいものも揃っている。

立木 トシキ、おまえが買いに行くんなら、ひとつおれのも頼む。

トシキ 了解しました。お安いご用です。

シマジ SHISEIDO MENのヘアワックスの威力がすごいのは、朝、一度つけるだけで、寝るまで髪の形が崩れないことだ。しかもいまおれが気に入っているハイドロゲンの迷彩キャップを長時間かぶっていても、この通り崩れないだろう。

トシキ たしかに帽子をかぶるとヘアはグジャグジャになりますよね。

BC杉本 それがSHISEIDO MENの売りでございます。

立木 あれ、杉本さん、まだいたの。シマジサロンから早く帰ったほうが身のためだよ。

BC杉本 仕事ですから、がんばります。

シマジ 早く帰らないと、この叔父さんに水着にされちゃうよ。

立木 そうだ。おれ、そのこと忘れていた。

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