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第11回 文藝春秋 文春文庫編集部統括次長 菊地光一郎氏 第2章 シマジ流の新人社員教育とは。

<店主前曰>

いまは亡き「ヴォーグ」のカリスマ編集長ダイアナ・ヴリーランドのドキュメンタリー映画を観て感動した。編集者という職業は素晴らしいと改めて痛感した。現在、編集力が年々低下しているなか多くの編集者たちに観てもらいたい映画だ。
 畢竟、物書きは優秀な編集者あっての存在なのである。このコンビネーションが巧くいったとき、傑作が生まれるのだ。わたしは編集者稼業を42年間やったあと、物書きになったのだが、痛切にそのことが感じられてならない。ちかごろわたしは編集長を乞われて「マグナカルタ」の責任編集長をやっているが、物書きは編集者の熱い情熱と迸る才能に鼓舞されて連載を続けたり、書き下ろしをしたりしてくれるのである。しかも編集者は縁あって物書きの前に突然現れる。2人の興奮が読者を感動させるのではないだろうか。
 わたしが鍾愛してやまない柴田錬三郎の『眠狂四郎』の初代の担当者麻生吉郎は凄かった。シバレン先生に「まず主人公の名前を考えてください」といったそうだ。シバレン先生はそのころ直木賞を受賞したものの、鳴かず飛ばずの状態だった。一ヶ月考えた末、「眠」という突拍子もない名字が閃いた。それから暫く考えてから「狂四郎」とつけたという。「週刊新潮」に『眠狂四郎』の連載がはじまると、たちまち大人気を博した。すると麻生が「先生、狂四郎の殺法を考えてください」といってきた。剣豪作家は思案の末「円月殺法」を編み出した。ことほど作用に編集者の存在はじつに大きいのである。

シマジ それではEの判定が下ったキクチにSHISEIDO MENの正しい使い方を伝授しようか。

キクチ お願いします。Bは無理でしょうが、Cは狙いたいですね。

シマジ いままでのおれの担当編集者たちの高判定は光文社のハギワラがただ1人Cだからね。しかも彼は資生堂からもらったSHISEIDO MENを女房にやってしまったそうだ。思い上がりもここまでくると始末に負えないね。

キクチ そうでしたか。男性化粧品を女性が使ってもいいんですか。

シマジ これくらい高品質になると構わないらしい。第一、悔しいことにハギワラの女房はまだ20代だと聞いている。キクチ、何とか頑張ってハギワラの鼻をへし折ってやってくれ。

キクチ ぼくに出来ますかね。

立木 キクチ、こうなったら徹底的にやるんだな。

高橋 わたしたちも応援しますわ。

シマジ じゃあ高橋さん、キクチにSHISEIDO MENの使い方を教えてください。

高橋 男性の方は毎日のシェービングや過剰な皮脂分泌で悩ましいお肌の事情が生じています。まずはクレンジングフォームでお顔を丁寧に洗ってください。ちょっと多めにぬってそのままシェーブしてもいいんですよ。

キクチ 凄いですね。シェービングクリームにも早変わりするんですか。

高橋 そうです。そうして使われている男性が多いそうです。そのあとこのトーニングローションを手のひらに500円硬貨大に落として、目のまわりをさけてお顔全体に軽くたたくようになじませます。

キクチ ちょっと待ってください。メモを取らせてください。

高橋 その次はアクティブ コンセントレイティッド セラムです。これは乳液ですが、ここのディスペンサーを2回押して取り出し、お顔全体にぬってください。

シマジ これは以前はなかった新兵器なんだ。効果抜群だよ。

キクチ あまり匂いがしませんね。

シマジ SHISEIDO MENは全体として香りがほのかなんだよ。ここがいいいんだ。男の顔からプンプン匂ったら可笑しいだろう。

キクチ なるほどね。

高橋 それからスキンエンパワリングクリームです。このクリームを指先でパール粒1個分を取り、お顔全体になじませてください。

シマジ これが最強の兵器だよ。

高橋 そしてアイスーザーを適量絞り出して、目頭から目尻に向けて上下のまぶたを数回往復させながらなじませてください。

キクチ まぶたにもぬるんですか。

シマジ これがよく効くんだ。おれは71歳だけど、みろ、まぶたが垂れ下がっていないだろう。

立木 シマジの自慢のまぶたをよくみてやってくれ。

高橋 たしかにシマジさんはお目々パッチリですね。この間、伊勢丹のサロン・ド・シマジでシェーカーで振っているときも、わたしはそう思いました。

シマジ ありがとう。おれは70代のSHISEIDO MENの”実践モデル”だからね。毎日の手入れにぬかりないんだ。

キクチ なるほど。

高橋 最後にリップトリートメントを唇にぬってください。とくに冬は乾燥しますので、これは重要です。

シマジ おれは冬はゴルフをしないけど、ゴルファーにとってこれは必需品だね。

キクチ すると全部で6種類あるんですね。これを朝1回顔を洗ったあとぬればいいんですね。

高橋 出来たら朝と寝る前がいいんですが、編集者のキクチさんは毎晩飲んでご帰宅されるでしょうから、無理でしょうね。

シマジ 無理だよ。ひたすら寝るだけだろう。な、キクチ。

キクチ そうですね。

高橋 でも編集者って職業は憧れますね。

シマジ そうですか。おれなんて編集者にしかなれなくてなったんだよ。

キクチ いまはちがうようですね。銀行と出版社を両方受ける若者が大勢いるようです。

高橋 ネットで東洋経済オンラインの「就職人気ベスト100」をみていましたら、集英社は8位でしたよ。出版社ではダントツです。

シマジ そうですか。まだ出版社は人気があるんだね。

キクチ とくに集英社は凄いでしょう。

シマジ 『ワンピース』があるからじゃないのか。おれが25歳で新卒で入ったころは、親父に集英社に入ったと電話したら、まったく知らなくて、「どんな雑誌を出しているんだ」と訊くから「明星だよ」といったら、「ラーメンを作っている会社か」といっていたんだよ。当時は、雑誌の「明星」より「明星ラーメン」のほうが有名だったのかな。

キクチ アッハハハ。それは傑作ですね。

高橋 いまでは考えられませんね。集英社には「少年ジャンプ」はある。「ノンノ」はある。「モア」はある。「シュプール」はある。大出版社ではないですか。

シマジ そういえば先日その「シュプール」から取材されたんだ*。集英社の雑誌から取材されたのは、じつは生まれてはじめてのことなんだよ。
*2013年2月23日発売

キクチ 後輩たちはみんな怖がってシマジさんを取材しにこないでしょうか。

シマジ そうかもな。伊勢丹のサロン・ド・シマジに取材にやってきたのは、ヤマサキ・タカユキという男の編集者だった。嬉しかったのはヤマサキが新入社員の研修のとき、おれが講師で教えたんだというんだよ。おれはまったく覚えていなかったがね。ヤマサキは昨日のごとく覚えていてくれた。部屋に入ってくるなり、オーデコロンの匂いがプンプンしたそうだ。いまでもおれが使っているペンハリガンのブレナムブーケの香りだったわけだね。それから集英社から出していた開高健さんとの共著『水の上を歩く』と『うろつき夜太』の文庫本を新入社員全員に渡したそうだ。そして「編集者になって幸せなのは、2度寝が出来ることだ」と太い葉巻を吹かしながら、おれが語ったそうだ。

キクチ シマジさんらしいです。新入社員は呆気にとられたでしょうね。

シマジ おれはすっかり忘れていてまったく覚えていないんだ。

高橋 新入社員には女性もいたんでしょう。さぞカルチャーショックだったと思いますわ。

シマジ どうでしょうか。とんでもない会社に入ったと思ったんじゃないですかね。でもおれは新入社員全員に開高さんからいただいた「出版人マグナカルタ」を名刺サイズに印刷して配ってやったらしい。「これを財布に入れて出版人のお守りにしろ」っていったそうだ。そのお守りを「シュプール」のヤマサキがちゃんと財布のなかから出してみせてくれたときは驚いたね。すっかり忘れていたけど、おれもいいことしてやってたんだなと思った。

キクチ ぼくも12月創刊された「マグナカルタ」を拝読しましたが、まさにあれは編集者にとって至言ですね。遅ればせながら、ぼくは暗記してしまいました。

立木 ホントか。じゃあ、ここでいってみな。

キクチ 出版人マグナカルタ。1、読め。2、耳をたてろ。3、両眼をあけたままで眠れ。4、右足で一歩一歩歩きつつ、左足で跳べ。5、トラブルを歓迎しろ。6、遊べ。7、飲め。8、抱け。抱かれろ。9、森羅萬象に多情多恨たれ。 補遺1つ。女に泣かされろ。
上の諸則を毎日三度、食前か食後に暗唱、服用なさるべし。

立木 キクチ、大したものだ。

シマジ 「週刊プレイボーイ」の部下の男たちとおれがいまから30年前、開高健作のこの名言に忠実に生きながら働いたから、「週プレ」は瞬く間に100万部の大台に乗ったんだよ。まさしくこれは編集者にとっては御利益のあるお言葉なんだよ。

キクチ ここにある”抱け。抱かれろ。”ってどういう意味なんしょうか。

立木 鋭い質問だ。

シマジ おれも開高文豪にいただいたとき同じ質問したんだよ。そしたら「シマジ君、いまはいっぱい女性編集者もいるじゃないか」と仰っていた。

キクチ ぼくはてっきりゲイの道も極めなくてはいけないのかと誤解していました。

立木 それは美しい誤解かもしれないぞ。

シマジ でもそれはキクチが肌を健やかに美しくしてからの話ではないか。

高橋 編集者って大変な職業なんですね。

シマジ そうですよ。とくに組織になかで非凡を発揮するのは大変なことです。

立木 高橋さん、シマジの”非凡”のために、おれがどれだけ苦労させられたか、おわかりでしょう。

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