1000の真実

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1000の真実

赤ちゃんの肌を知る

生後半年までの保湿ケアがカギ!
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の防ぎ方・治し方
第1回 肌のバリア機能とアレルゲンの関係

赤ちゃんの肌やアトピー性皮膚炎に関するさまざまな常識が、昔とは大きく変わってきていることが、最先端の治療と研究を進める国立成育医療研究センター アレルギーセンターの大矢幸弘センター長のお話でわかりました。科学的根拠に裏付けされた正しいケア方法や治療法の知識をアップデートして、赤ちゃんの肌を健やかに保ちましょう。

赤ちゃんをアレルギーから守るには
肌のバリア機能を整えるのが鍵

 赤ちゃんの肌はきめ細やかでしっとりスベスベしているもの。そういうイメージをもっている人は多いかもしれませんが、実際には生まれつき肌がカサカサしやすい赤ちゃんは少なくありません。また、空気が乾燥する秋から冬にかけて生まれた赤ちゃんも、外的環境によって肌が乾燥しやすい傾向にあります。
 こうした乾燥しやすい赤ちゃんの肌は、バリア機能※1が低下しやすく、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いことがわかってきました※2。親やきょうだいにアトピー性皮膚炎の人がいるなど、遺伝的要因がある場合も同様の傾向が見られます。

 肌(表皮)の最も外側にある角層に備わっているバリア機能は、体内の水分が蒸発するのを防ぐ、細菌やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)など肌に刺激を与える要因となる物質が体内に侵入するのを防ぐ、という重要な役割を担っています。
しかし乾燥や肌荒れなどの炎症があってこの角層が乱れ、バリア機能が低下した状態にあると、アレルゲンが角層を通過して肌(からだ)の中に侵入しやすくなります。
アレルゲンは家にいるダニやカビなどのほか、食物も含まれます。近年の研究では、「乳幼児期の皮膚のトラブルによる湿疹などが、食物アレルギーの原因になる可能性がある」ということがわかってきています。
かつてはこれとはまったく逆の考え方が広く浸透していました。食物のアレルゲンが母親から移行したり、離乳期の初期から摂取することによって、赤ちゃんや子供が食物アレルギーになり、アトピー性皮膚炎を発症する。だからアトピー性皮膚炎の予防や治療のためには、妊娠中や授乳中に食物アレルギーを引き起こす可能性のある食物は避けるべきで、赤ちゃんの離乳食からもそうした食物は除去するべきだと多くの医師が指導していたのです。

 しかし最新の研究の成果をもとに、現在では、乾燥しやすい赤ちゃんの肌のバリア機能を整え、アトピー性皮膚炎の発症を防ぐことが、食物アレルギーを防ぐことにつながる可能性がある、という考え方に大きく変わってきています。アトピー性皮膚炎は、食物アレルギーの結果ではなく、原因である可能性が非常に高いという見解になってきたのです。

食物アレルギーが起こるしくみ
知っておきたい「経皮感作」と「経口免疫寛容」

 食物アレルギーを発症するメカニズムとしてぜひ知っておいてほしい2つのキーワードとして「経皮感作」「経口免疫寛容」があります。
炎症が起きた肌からアレルギーを引き起こす可能性のある食品の分子が体内に入ると、異物を排除しようとするからだの免疫機能によって「IgE抗体」という物質がつくられます。これを「経皮感作」といいます。
一度感作が起こった後に、この食品を食べたり、その分子が肌を通過するなどで再びアレルゲンが体内に侵入してIgE抗体に結合するとアレルギー症状が引き起こされ、食物アレルギーを発症することになるというわけです。

 一方、人間には本来、異物である食べ物を異物と認識することなく自分のからだに取り込んでからだを作る成分に変える力が備わっています。これを「経口免疫寛容」といいます。
 食品の成分が健康な腸を経て体内に入ると、アレルゲンにはならないのです。赤ちゃんに少しずつ離乳食を与えていくのは、この免疫寛容の仕組みを赤ちゃんにつけさせるためにも大切な役割を果たしていると考えられます。
 経口免疫寛容のシステムは時間をかけてからだに備わっていきますが、それが備わる前に食物アレルギーなどの原因となる物質を、荒れた肌から体内に侵入させないことが大切です。
 つまり、離乳食を始める前の赤ちゃんにアトピー性皮膚炎を起こさせないことが、食物アレルギーのリスクを減らすと考えられるようになったのです。

新生児期の保湿ケアで
アトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下

 肌のバリア機能を正常に保つ基本は「保湿」にあります。
私たちが行った臨床研究では※3、生後1週間以内の新生児期から保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが3割以上減らせることがわかりました(グラフ1)。

  • ※3 Journal of Allergy & Clinical Immunology (11.248) Vol. 134, Issue 4, October 2014.

(グラフ1)保湿剤の塗布とアトピー性皮膚炎発症率との関係

1日1回以上、全身に保湿剤を塗った群と塗らなかった群に分け、生後1週間以内~32週までのアトピー性皮膚炎の発症率を比較。塗った群のほうが、塗らなかった群よりアトピー性皮膚炎の発症リスクは3割以上低下することが確認された。
(Journal of Allergy & Clinical Immunology (11.248) Vol. 134, Issue 4, October 2014.を参考に作成)


(グラフ1)保湿剤の塗布とアトピー性皮膚炎発症率との関係

1日1回以上、全身に保湿剤を塗った群と塗らなかった群に分け、生後1週間以内~32週までのアトピー性皮膚炎の発症率を比較。塗った群のほうが、塗らなかった群よりアトピー性皮膚炎の発症リスクは3割以上低下することが確認された。
(Journal of Allergy & Clinical Immunology (11.248) Vol. 134, Issue 4, October 2014.を参考に作成)

 この研究では生後8カ月まで保湿剤の塗布を続けましたが、どのくらいの期間保湿ケアを行うべきなのかということについては諸外国を含む複数の研究結果があり、まだはっきりした結論は出ていません。
ひとつの目安としては、離乳食がスタートする前となる生後半年までが赤ちゃんの保湿に適したタイミングと考えられます。前述したとおり、この時期に適切な保湿ケアを行って肌のバリア機能を保つことができていれば、実際に食物を口にする前に、食物のアレルゲンによる経皮感作を起こさずに済む可能性が高いためです。
 生後半年まで保湿ケアを行っても、それ以降にアトピー性皮膚炎を発症する場合はありますが、保湿ケアをせずに生後半年以内にアトピー性皮膚炎を発症した赤ちゃんに比べると重症化しにくい傾向が見られます。
早い段階から保湿ケアを始めることは、そういう意味でも効果があるといえます。

profile

大矢 幸弘

国立成育医療研究センター アレルギーセンター センター長

アレルギーセンター総合アレルギー科診療部長併任。1985年、名古屋大学医学部卒業。国立名古屋病院、国立小児病院アレルギー科を経て、2018年より現職。小児アレルギー疾患を専門とし、診療と研究活動に従事する。日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医指導医。日本心身医学学会専門医。『子どものアレルギー アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・ぜんそく』(文芸春秋)を編監修。

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