1000の真実

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1000の真実

赤ちゃんの肌を知る

生後半年までの保湿ケアがカギ!
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の防ぎ方・治し方
第3回 新生児から始めたい
アトピー性皮膚炎を防ぐための保湿ケア

赤ちゃんの肌やアトピー性皮膚炎に関するさまざまな常識が、昔とは大きく変わってきていることが、最先端の治療と研究を進める国立成育医療研究センター アレルギーセンターの大矢幸弘センター長のお話でわかりました。科学的根拠に裏付けされた正しいケア方法や治療法の知識をアップデートして、赤ちゃんの肌を健やかに保ちましょう。

保湿ケアを行う前に
顔やからだを泡で洗って清潔に

 肌が乾燥している赤ちゃんにしっかり保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎を発症するリスクを低くすることができる――。これは第1回でご説明したとおりです。
 だからといって、カサカサした肌の上から保湿剤をたっぷり塗ればよいというわけではありません。保湿剤を塗る前に、まず肌を洗って清潔に保つことが大前提です。

 肌には雑菌や汗、ダニやカビなどのアレルゲンなどが付着しています。これらの汚れを落とさずに保湿剤を塗ってしまうと、かえって肌への負担が大きくなり、湿疹などを悪化させる要因になってしまうのです。
 お湯だけでは汚れはしっかり落とせません。必ず、石けんなどの洗浄料を使って洗いましょう。その際、肌に刺激を与える可能性のある防腐剤や鉱物油などが少ないものがおすすめです。

アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの洗い方のポイントは次のとおりです。

1.洗浄料をよく泡立てる

固形、液体、ポンプから泡が出るものなど、顔やからだの洗浄料のタイプはさまざまですが、いずれも手のひらでよく泡立ててから使うことが大切です。

2.手を使ってすみずみまで丁寧に洗う

タオルやスポンジは、“こすり刺激”によって肌を傷つける原因になりやすいので使用を控えましょう。耳のまわり、横腹、背中、太ももの付け根などの洗い忘れしやすい部分や、腕やひざ裏など関節の曲がる内側など汚れがたまりやすい部分も、指の腹でやさしく触れて確認しながら丁寧に洗います。

3.顔も必ず泡で洗う

赤ちゃんや子供は、よだれや食べかすなどが顔についていることが多いもの。そのままにしておくと口のまわりの肌荒れなどを招く可能性があります。顔もすばやく洗ってすぐに水気をふき取ってあげましょう。

4.泡が残らないようしっかり洗い流す

洗浄成分が肌に残ると、刺激を引き起こす要因になります。すみずみまで念入りに洗い流しましょう。

5.タオルを押し当てて水分をふき取る

肌を傷つけないよう、ゴシゴシこするようにふくのは避けましょう。

保湿は少しべたつく程度がベスト
たっぷり肌を覆うように塗布を

 洗浄後の肌は、そのまま何もしないで放っておくと時間とともにどんどん乾燥していきます。バリア機能を低下させないためにも、なるべく早く保湿剤をたっぷり塗りましょう。

保湿剤の塗り方のポイントは次のとおりです。

1.十分な量を全身に塗る

チューブタイプの軟膏やクリームの場合は、指先の第1関節分の量(約0.3~0.5g相当)、ローションの場合は1円玉大(約0.5g相当)が1単位となります。
 この量を大人の両手のひら分の面積に広げて、赤ちゃんの全身に塗ります。生後半年の赤ちゃんの場合は全身で計9.5単位、1歳児の場合は12単位、3歳児の場合は16単位が目安になります。※1

  • ※1 Long C,et al.Br J Dermatol.1998;138(2):293-296

乾燥がひどく、上記の量でも足りない場合はさらに多めに塗布しましょう。
 また、気をつけたいのは、局所ではなく全身を保湿すること。乾燥がとくに気になる部分だけ局所的に保湿剤を塗っても、アトピー性皮膚炎を予防する効果は十分に得られないことが研究でわかっているからです。全身にまんべんなく塗布することを心がけてください。

2.ゴシゴシすりこまず、肌を膜で覆うように塗る

肌にゴシゴシとすりこむような塗り方をすると保湿剤がまだらにつきやすく、薬の成分が入っている場合、成分の肌への浸透が妨げられる要因になります。肌を薄い膜で覆うようなイメージで、均一にやさしく塗り広げましょう。塗り終えたときに肌にちょっとべたつき感が残るくらいが、適切な保湿ケアの目安です。

 油性の成分が肌着などに付着すると次第に生地が黒ずんできたりすることもありますが、だからといって塗る量を減らしてしまうと十分な保湿効果が得られなくなります。肌の状態が改善してくれば自然と塗る量は減らせるので、乾燥状態が落ちつくまでは適量をしっかり塗り続けましょう。
 なお、洗浄と保湿によるスキンケアは朝と夜の1日2回行うのが基本です。

アトピーによるかゆみや湿疹には
肌の炎症を鎮める治療が不可欠

 保湿ケアは乾燥しやすい赤ちゃんの肌のバリア機能を整えるために不可欠ですが、かゆみや湿疹を改善する効果まではありません。かゆみや湿疹がある場合は、前述のスキンケアに加えて、肌の炎症を鎮めるための治療が必要となります。
 かゆみを伴う湿疹はアトピー性皮膚炎の代表的な症状です。下記のような症状に気づいたらできるだけ早く皮膚科を受診し、適切な治療を行うことが大切です。

●赤ちゃんが顔やからだを寝具などにこすりつける

赤ちゃんはかゆみを言葉で訴えることはできませんが、かゆそうな様子は見てわかるものです。かゆみで機嫌が悪くなることも少なくありません。

●頭や顔、腕や脚の外側に湿疹が多い

赤ちゃんのアトピー性皮膚炎による湿疹はまず頭や顔から始まり、からだから手足へと広がっていく傾向があります。湿疹の種類は赤み、でこぼこ、ぷつぷつ、ジュクジュク、ごわごわなどさまざまで、一度に複数の種類の湿疹が現れる場合もあります。

 かゆみや湿疹など肌の炎症を抑える治療の中心となるのがステロイド外用薬(塗り薬)です。抗炎症作用をもつステロイド外用薬は、患部に適切な量を塗布することで効果が発揮されます。医師の指示に従って、正しい方法で治療を行いましょう。

 アトピー性皮膚炎の肌にはアレルギーの悪化因子となる黄色ブドウ球菌が大量に存在しています。健康な肌では黄色ブドウ球菌をやっつける抗菌ペプチドという天然の抗生物質がつくられますが、アトピー性皮膚炎の肌ではつくられにくいため、菌がどんどん増殖し、肌の炎症を悪化させることになります。
 そこで欠かせないのがスキンケアのひとつとして先に挙げた「肌の洗浄」ですが、黄色ブドウ球菌がバイオフィルム(筋膜)に覆われてしまっているアトピー性皮膚炎の場合は、洗浄料だけではすべてを除去することができません。肌をきれいに洗浄した後にステロイド外用薬を塗布することで次第に肌がツルツルになり、黄色ブドウ球菌が住みつきにくい環境に整えることができるのです。これはステロイド外用薬による治療の大きなメリットのひとつといえます。

再発を防ぎ、健やかな肌を長く保つ
「プロアクティブ治療」とは

肌がツルツルになり、かゆみや湿疹が消えてきたら、「もうステロイド外用薬を塗る必要はないのかも」と考える人は多いものです。
 しかし重症のアトピー性皮膚炎の場合などは、肌の表面がよくなった後も、肌の中では炎症の“火種”が残り続けることがあります。“火種”が残っている段階で急にステロイド薬治療をやめてしまうと、またかゆみや湿疹がぶり返すなど再発のリスクを高めることになります。

 そこで近年、アトピー性皮膚炎の新たな治療として普及しつつあるのが「プロアクティブ治療」です。肌の中の“火種”がやがて完全に消えるまで、少しずつ“火消し”をしていくイメージの治療法です。
 具体的には、毎日のステロイド外用薬による治療とスキンケアによってかゆみや湿疹がいったん治まった後も、皮膚炎が再発しないよう、週に1~2日、ステロイド外用薬を塗る日を設けます。その後も徐々にステロイド外用薬を塗る日の間隔を長くして、保湿剤のみの日を増やしていくことで、最終的には洗浄と保湿によるスキンケアのみで安定した肌の状態を維持していきます(図1)。
 ステロイド外用薬を塗る日の間隔などは、患者さんの重症度や経過などに応じて調整します。
 副作用を回避しながら、長期にわたって肌の状態を良好に保つことができるのが大きなメリットのひとつです。


図1 プロアクティブ治療でのステロイド外用薬の使用方法
(大矢幸弘・編監修 『子どものアレルギー アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・ぜんそく』 出版社:文芸春秋)

 毎日赤ちゃんや子供の肌に薬を塗ったり、スキンケアのために手間ひまをかけることは誰にとってもなかなか大変なもの。肌の状態が良くなってきたら治療やスキンケアをやめたくなってしまうのはごく当たり前の心理といえるでしょう。
 しかし、途中で治療やスキンケアを中止してしまうことが、再発を繰り返し、アトピー性皮膚炎を長引かせる原因になりやすいのもまた事実です。
 治療やスキンケアのモチベーションを保ち続けるために大切なのは、「どのくらいしっかり治したいのか」という目標を明確にしておくこと。最近は「赤ちゃんの将来の食物アレルギー発症のリスクをできるだけ防ぎたい」という思いがモチベーションのひとつになり、赤ちゃんが生まれた後、治療やスキンケアに真剣に取り組む保護者の方も増えています。

profile

大矢 幸弘

国立成育医療研究センター アレルギーセンター センター長

アレルギーセンター総合アレルギー科診療部長併任。1985年、名古屋大学医学部卒業。国立名古屋病院、国立小児病院アレルギー科を経て、2018年より現職。小児アレルギー疾患を専門とし、診療と研究活動に従事する。日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医指導医。日本心身医学学会専門医。『子どものアレルギー アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・ぜんそく』(文芸春秋)を編監修。

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