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第7回 恵比寿 雄 佐藤雄一氏 第1章 第1章  ここはまさに“シマジ食堂”でございます。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

「雄」はわたしの仕事場から歩いて信号一つ目という、まさに指呼の間にある割烹店である。もうオープンして9年にもなるというのに、わたしがはじめてこの店を訪れたのはいまから3ヶ月前のことであった。店の外装が真っ黒だったので入りづらかったのだが、あるときランチの看板に「大羽イワシフライ」と書いてあるのを目にしたときは迷わず飛び込んだ。丸々と肥り三枚に下ろされたイワシのフライに舌鼓を打ち、またご飯の美味さに感動した。それから4日間続けて通ったものだ。鯖の塩焼きにも感動した。刺身にも感激した。豚しゃぶにも感服した。宮崎県の尾崎牛のランチには驚愕した。そのうち「雄」の料理人の佐藤雄一が堪りかねて「お客さまは、アパレル関係の方でいらっしゃいますか」と体をモジモジさせながらわたしに訊いてきた。わたしの服装が少々派手だったせいだろうか。「まあ、そんなこともいまはやっているけどね」とわたしはまだ名前を名乗らなかった。すると料理人がいった。「是非一度、夜にいらして召し上がってみてください」。そこでわたしは迷わずその夜に訪ねたのであった。たしかに美味かった。漬け物も自分で漬けている。季節的にちょうど出始めであった北海道のトウモロコシの冷たいスープにも感心した。
 今回の資生堂からのゲストは岡村美智子さんである。資生堂を代表して「雄」の料理を賞味していただこう。

立木:すでにタリスカースパイシーハイボールセットがここにあるということは、この店もシマジの食堂みたいなところだな。

佐藤:はい、まさに“シマジ食堂”でございます。

立木:ここで何年やっているの。

佐藤:9年目に入りました。

立木:シマジはオープンのときから通っているんだろう?

シマジ:それが最近なんですよ。はじめてきたのは3ヶ月前のことかな。

立木:こんなに近くにあっていままでこなかったのは珍しいな。

シマジ:灯台下暗し、だったんだね。

立木:シマジは若いときから和食にはうるさかったから大変だろう。こいつは「京ふじ」のオヤジにえこひいきされていたから舌はかなり肥えているはずだよ。

佐藤:「京ふじ」というのは京都の「たんくま」出身の藤井さんのところですよね。でもお客さまがいい舌を持っていらっしゃるほうが、料理人としては腕をみせる甲斐があります。

シマジ:そうそう、こちらの方は資生堂からのゲストで岡村美智子さんです。

岡村:はじめまして、よろしくお願いいたします。はじめに佐藤さんのお肌チェックをさせていただけますか。

佐藤:わたしは肌には自信があるんです。どうぞどうぞ、やってください。

岡村:結果が出ました。Eでした。

佐藤:いままでの連載を読んでいますが、Eは普通でしたよね。

岡村:はい。

佐藤:おかしいですね。昨日飲み過ぎたからですかね。

シマジ:雄ちゃん、心配することはない。今日の謝礼としていただくSHISEIDO MENの化粧品を明日の朝から毎日使えばすぐにランクアップするよ。

佐藤:頑張ります。どうしても「ルッカ」の周ちゃんには負けたくないんです。

シマジ:雄ちゃんはいくつになったの。

佐藤:40歳です。そういえば「ルッカ」にはシマジスペシャルという特別料理がメニューに載っているじゃないですか。そろそろ「雄」でもシマジスペシャルを考えてください。

シマジ:わかった。そのうちにね。

立木:それじゃあ、3人一緒にレンズをみてくれる?そうそう、シマジ、今日は表情が硬いじゃないか。なにか心配ごとでもあるのか。「乗り移り人生相談」に相談してみてはどうだ。

シマジ:このあとすぐ仕事場に戻って連載原稿を書かなければならないんですよ。

立木:それがお前の仕事だろう。どうせあることないこと勝手気ままに書くんだろう。

シマジ:毎日毎日あることあることを真面目に書いているんですよ。

立木:おや、和食の店で助手が女性って珍しいね。

シマジ:彼女はカオリちゃんといって働き者のお弟子さんなんだよ。しかも寡黙のところがまたいい。

カオリ:――――。

シマジ:ははは。ところで雄ちゃん、今日の料理はなにからいくの。

佐藤:やっぱりシマジさんの大好きな“八寸箱”でしょう。

シマジ:岡村さん、これは飲んべえには堪らない料理なんです。少しずついろんなものがつまみ風に小分けにされて7、8種類入っています。

岡村:じつはわたしはお酒が飲めないんです。外で食事をするときは1杯だけいただきますが、2杯でフラフラです。先日無理して3杯飲んでトイレに駆け込みました。

シマジ:それは残念ですが仕方ないでしょう。まず立木先生が料理の写真を撮ったら岡村さんの前に出てきます。ゆっくり召し上がってください。ランチは抜いてこられましたか。

岡村:はい、そのようにいわれていましたから。

シマジ:雄ちゃん、それでは急いでどんどん作ってくれる。

佐藤:わかりました。

シマジ:岡村さん、雄ちゃんは小学生のときから料理少年で、両親が共稼ぎだったのをいいことに、厨房を使いホットケーキなんかを焼いて近所に配っていたようですよ。それでチャッカリお小遣いをもらったりしていたそうです。だから子供のときから料理人になりたかったそうです。

岡村:凄いですね。栴檀は双葉より芳し、ですね。

立木:岡村さんはさすがベテランですね。若いビューティー・コンサルタントだったら栴檀は双葉より芳し、なんて言葉は出てこないでしょう。

岡村:そうでしょうか。

立木:佐藤さんはどこで修業したの。

佐藤:18歳で高校を卒業して箱根の強羅花壇に見習いで入りました。

シマジ:強羅花壇の和食はたしか築地の「田村」がやっていたよね。

佐藤:はい、日本料理の神さま、田村平治さんが生きていらっしゃる頃でした。

シマジ:そのころ田村さんはいくつだったの。

佐藤:80歳くらいでしたか。じつにいいお顔をされていましたね。よく強羅花壇にきて料理の講演会をなさっていたんですが、田村さんが「味は人なり」と仰っているのを聞いて感動したことは、いまでも忘れられません。

立木:佐藤さんはしっかりしたガタイをしているけど、高校生のときはなにかスポーツをやっていたの。

佐藤:野球をやっていました。だから見習いに入ってしごかれても、根性だけは負けませんでした。

シマジ:料理人の見習いは刑務所よりキツイとよくいわれているものね。

佐藤:勉強は出来が悪かったのでサラリーマンの世界はとても無理だと判断して、オヤジのコネで強羅花壇を紹介してもらったのです。

シマジ:じゃあ、雄ちゃんは料理専門学校には行かなかったんだ。

佐藤:はい、直接「田村」の見習いでこの世界に入りました。見習いは賄いのご飯も決まった時間に食べられるわけではありません。また万が一ゴミ箱に食べられるものが捨ててあったりすると、よく殴られたものですね。

シマジ:雄ちゃんはどこの出身なんだっけ。

佐藤:茨城県の下妻です。

シマジ:岡村さんは。

岡村:大阪府松原に生まれました。

シマジ:雄ちゃんは独身だったよね。岡村さんは。

岡村:幸か不幸かまだ独身です。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

雄(ゆう)
渋谷区広尾1-15-3
クオリア恵比寿パークフロント1F
TEL:03-5793-8139
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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