Back to Top

第7回 赤坂 YOUR SONG 山田賢二氏・山崎八州夫氏 第3章 2つの夢を1度の人生で叶える方法。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

古くはペギー葉山の「学生時代」のモデルにもなっているように、青山学院大学のキャンパスはたしかに美しかった。正門から続く銀杏並木の向こうには図書館があったっけ。しかし、授業をサボってばかりいたわたしの大学時代に愉しい学生生活の思い出はほとんどない。いざ就活となったときに「優」が1つもなかったわたしは学校推薦が受けられず、仕方なく新聞の公募を頼りに集英社を受けたのだった。
「ユア・ソング」のオーナー、山田と山崎はおそらく学生時代を謳歌していたことだろう。そして堂々と王道を行き、山田はアサヒビールに、山崎はオリコに、目出度く入社したのであった。

立木:でも考えてみると面白いじゃないの。青学で学んだ親友の2人がいまこうして仲良く一緒にバーを経営している。一方で、曲がりなりにも青学を卒業したシマジがいま週末伊勢丹のバーのカウンターに立っているんだからね。

シマジ:タッチャン、それはたしかに面白い発見ですね。青学で学んだこととはまったく関係なく、この3人はいまバーをやっているんですからね。

立木:シマジは青山学院大学でなにか学んだことってあるのか。

シマジ:そう訊かれると耳が痛いですね。最悪の劣等生でほとんど学校には行かず、放蕩三昧、嬾惰遊蕩の5年間でした。

立木:どうして5年間なんだ?普通は4年間じゃないのか。

シマジ:恥ずかしながら、わたしは1浪人、1留年したんです。

立木:簡単にいえば、1年落第したんだな。

山田:先輩、それでよく集英社に入社出来ましたね。

シマジ:集英社もまだ小さな出版社でしたからね。わたしは学校の勉強はまったく興味がない代わりに、当時から本は沢山読んでいましたから、出版社以外の就職は考えていませんでした。それとじつはそのころからバーマンになりたいなあという妄想を抱いてもいたんですよ。

山崎:ということは、先輩は編集者とバーマンという2つの夢を1度の人生で叶えた稀有で幸運な方なんですね。

高口:本当ですね。シマジさんのご本を読むと、「人生は運と縁とセンスである」とお書きになっていますが、どうすればそのように、素晴らしい運と縁とセンスを掴みとることが出来るんでしょうか。

シマジ:本当のところわたし自身にもよくわからないんです。編集者を辞めてフリーになってからも、こうして立木義浩巨匠と一緒に仕事が出来る幸せは最高ですが、どうしてなんですかね。

立木:それはシマジを1人にしておくとどうも危なっかしく思えて、ついつい応援したくなってしまうせいだよ。

シマジ:高口さん、そのようです。

山田:立木先生とシマジさんの関係を見ていると、すべてを理解し合った男と男の仲、という感じがにじみ出ていますよね。

高口:でも山田さんと山崎さんの関係も素敵です。多くを語らなくてもわかり合っていらっしゃる感じが伝わってきますもの。

立木:シマジが青学に通っていちばん印象的だったエピソードを一つ語ってみてくれる?

シマジ:そうですね。前の夜、安酒を飲み過ぎてしまい、授業中腹痛に堪えかねてトイレに飛び込んだんですが、面白い落書きがあったんです。それが洒落ていましたね。「この世にカミはないのか」と神と紙をかけていたんですよ。わたしのときは紙はありましたが、落書きをした学生が入ったときはきっと紙がなかったんでしょうね。

立木:アッハハハ。くだらないけど切羽詰まっているところが面白いね。でも高い授業料を5年間も払って感心したのはそれだけか。シマジには編集者以外の仕事は無理だったのがわかるような気がするな。

山田:しかも週刊プレイボーイの編集者に新人で配属されたそうですね。

シマジ:それも運と縁ですね。学生時代、辞書を引き引き丸ごと一冊、アメリカ版のPLAYBOYを暇に任せて隅から隅まで毎月読んでいたのが華を咲かせたといった感じでしょうか。人生には運と縁とセンスが大事ですが、もう一つ、運命的な出会いというのが重要なんです。わたしの場合、集英社の最終面接で本郷専務に出会ったというのが大きかったといまでも感謝しております。

立木:おれもシマジと本郷さんの3人で食事をしたことがあったけど、チャーミングでダンディーな紳士だったね。

シマジ:本郷保雄さんという方は戦前「主婦の友」の大編集長で、毎月100万部以上を売った伝説の編集長だったんです。集英社へ請われて専務で入り、戦後の夢を売る雑誌「明星」を創刊したんですよ。集英社をお辞めになってからもわたしはよく食事をご一緒させていただき、いろんなことを教わりました。本郷さんのことははじめてお会いしたときからずっと、理想の編集者像として尊敬の念を持って崇めていました。

山田:本郷さんという方は凄いお方だったんですね。いまでもシマジさんがそれだけ熱く語られるんですから。

立木:シマジに本郷さんや若菜さんといったかつての先輩たちの話をさせるとこのようにもう止まらなくなってしまうんだ。シマジ、そろそろ本題に戻ろうぜ。

シマジ:そうでした。では高口さんのお話を聞きますか。いま高口さんはいわゆる逆単身赴任で東京の資生堂本社に勤務なさっているそうですが、ご家族は九州において1人で頑張っているわけでしょう。

高口:東京への異動の打診があったとき、娘がまだ中学1年生でしたので、もちろん、主人と娘と義母を置いて東京に単身で行くなんてことは考えておらず、即答でお断りいたしました。でも、帰宅してその話を主人にすると、「少し時間をくれないか」と言うので、何かなあ?と思っていました。翌々日のこと、主人が「えりな(娘の名前)と話し合った結果、お母さんを東京に行かせてあげることにした」と言うんです。わたしは驚き「えっ?」というと、主人が「人生は一度だし、社命に逆らわず仕事をしてみたら?」と。わたしは凄く悩みましたが、取りあえず2年間ということでしたので、OKのお返事をして本社に来たんです。が、あっという間に8年が過ぎてしまいました。

立木:女性の単身赴任って資生堂らしいね。

シマジ:資生堂は女性の多い会社ですが、社員の育児支援などに関しては日本一環境が整っているようですね。

高口:店頭も本社も工場も研究所も、多くの女性が働いています。それぞれ子育てと仕事の狭間に苦しみながら頑張っていらっしゃいます。女性は、会社と家族の協力なしでは、中々スムーズに仕事をやっていけないと思いますが、資生堂では幼児を預け、夕方一緒に帰宅できるといったような育児サポートや、男性社員の育児時間制度なども行っています。うちの社員が愛社精神が高いと言われる理由の一つに、こういう制度も挙げられるところかもしれません。

シマジ:いまは資生堂の株価も好調だし、いうことないでしょう。

高口:ありがとうございます。お客さまに「美」を提供して、美しくなることをお手伝いする素敵な仕事だと、30年経ったいまでも思えるんですから、本当に入社出来てよかったと思います。

山田:やっぱり資生堂に入社出来たらわたしの人生も変わっていたかもしれませんね。

シマジ:でもアサヒビールも面白そうではないですか。

山田:スーパードライの誕生でうちは蘇りましたから。現役中は忙しくも愉しかったですね。

山崎:いま出版業はどうなんですか。

立木:シマジはまさに食い逃げ世代だったから現状はよくわからないと思うけど、全体として全盛期の勢いはどこにもないようだね。

シマジ:いまの若者には酒を飲まない人が増えているように、雑誌や本を読まない人がかなり増えてきています。そのことが、才能のある若者が出版界に集まってこなくなっていることとも併せて悪循環しているようです。本当は編集者ってすてきな稼業なんですけどね。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

GOOD MUSIC BAR YOUR SONG
東京都港区赤坂7-5-7
赤坂光陽ビル2F
Tel: 03-5572-7220
>公式サイトはこちら (外部サイト)

PageTop

このサイトについて

過去の掲載

Sound