撮影:立木義浩
立木:シマジ、そろそろいつものように、資生堂から来てくれたゲストのインタビューをする時間じゃないの。
シマジ:仰る通りです。では服部さん、この長きにわたり連載に登場していただいたゲストの最後のお一人としてお訊きします。
服部:ありがとうございます。なんでも訊いてきください。
シマジ:では、いままで資生堂で働いてきた体験の中で、最も大きな失敗というのは、どんなことがありましたか。
服部:恐ろしいインタビューから始まるんですね。失敗はいろいろありますが、じつは2年前のことなんですが娘が生まれたんです。しかも双子だったんです。
シマジ:えっ、双子ですか。それは凄くおめでたいことじゃないですか。
服部:そうなんですけど、じつは喜びのあまりその夜つい飲み過ぎてしまいまして・・・。翌日は二日酔いで意識が若干朦朧としていました。たぶんお酒のニオイも漂わせていたかもしれません。そんな状態で、営業の方々を前にブランドのプロモーション行なってしまったんです。
シマジ:時間は?
服部:60分でした。営業の方々には大変申し訳なかったと、いまでも思っております。
シマジ:でもそんな嬉しいことのあとだから、意識朦朧としながらもきっと何か特別なオーラが出て、うまくプロモーションできたんではないですか。
服部:さあ、どうでしょうか。自分としてはよくわかりませんが。
シマジ:では、その双子のお嬢さんたちは、いま2歳になっているんですね。
服部:そうです。
シマジ:ますます可愛いでしょうね。
立木:服部はなかなかのイケメンだから娘たちも美人じゃないの。
服部:ありがとうございます。親の目には可愛いですね。
立木:それに服部はなかなかお洒落じゃないの。
服部:いえ、じつはこの麻のジャケットもシャツも、伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジで買ったものなんです。
立木:やぶ蛇なことを言ってしまったかな。
服部:しかも連載最後のゲストとしてお招きを受けたということで、資生堂の伊東憲子先輩とサロン・ド・シマジを訪ね、シマジさんに選んでいただいて買ったものなんです。
長谷川:いい会社ですね。まるで服部さんを花婿として、衣装もつけて送り出してくれたようなものですね。
シマジ:そうそう、思い出しました。伊東さんと2人で土曜日にいらして、試着して買われたんですよね。
服部:ぼく自身、こんな洒落たジャケットも、背中にスリットが入ったシャツも持っていませんでした。資生堂からの最後のゲストとして恥ずかしくないようにと、先輩の女性たちが気を遣ってくれたんでしょう。感謝しています。
シマジ:服部さんはもちろんSHISEIDO MENの愛好者でしょう?
服部:当然です。毎朝使っています。やっぱり自分で使ってみないと、SHISEIDO MENの良さをお客さまにきちんとお伝えすることは出来ませんから。
シマジ:わたしも13年くらい毎日愛用していますが、SHISEIDO MENは日夜改良に改良を重ねている、というのが文字通り肌で感じられますね。
服部:ありがとうございます。その辺のお話は、今度横浜の研究所を取材したときに詳しく訊いてみてください。
シマジ:服部さんが大学を卒業して資生堂に入りたいと思った動機はなんだったんですか。
立木:きたきた。だけどこの紋切り型の質問も今日で最後だと思うと、なんだか淋しいね。
服部:ぼくが学生の頃に資生堂のCMがたくさん流れていて、実際にそれが世の中のトレンドになっていることを目の当たりにしました。そうした新しい価値を世の中に生み出せる仕事に就きたいなあと憧れて志望したんです。なかでもマーケティングやブランデングの仕事は価値づくりのど真ん中で、やりがいがあると確信しました。化粧品というのは、消費財という側面と嗜好品という側面を併せ持っています。複雑であるがゆえにいろいろな側面からアプローチが可能な、最も面白いマーケティングが出来る業界だと思うんです。日々刺激的な仕事が出来ているという実感もあります。
シマジ:服部さんが生き生きと仕事をしているというのは、お顔にも表れていますね。
服部:ありがとうございます。化粧品業界は世界のすべての人に幸せになっていただくことがビジネスの基本だと思っています。シマジさんのこの連載のお陰でSHISEIDO MENは売り上げが断然伸びています。この間の日本経済新聞の全面1ページ広告も凄くインパクトがあり、たくさんの問い合わせがありました。
長谷川:わたしもあの日経新聞の全面広告を読みましたが、伊勢丹のサロン・ド・シマジで実際に販売しているところが面白いですよね。
シマジ:サロン・ド・シマジを伊勢丹にオープンしてもう5年8カ月になりますが、伊勢丹メンズ館にSHISEIDO MENの全商品を並べたことは画期的だったようですね。
服部:本当にありがとうございます。
シマジ:ショップにはわたしが愛用しているすべてのものを置いてください、というお願いをして、SHISEIDO MENの全商品を扱うことがスムーズに決まったんですが、わたしが親しくさせていただいている福原義春名誉会長が「本当ですか」とわざわざ見に来られたんですよ。あのときは驚きましたね。
服部:先輩たちの話でも、これは画期的なことだったようです。
シマジ:ところで、いままで資生堂からいらした女性のゲストの方たちにお話を伺うと、ほとんどの方が入社するとまずは地方に2、3年出て、現場の営業を体験するということが共通していましたが、服部さんのような男性でもやはり地方での営業活動から始まるんですか。
服部:はい。ぼくは3年と少しの間、三重県の四日市で営業を経験しました。でも最近は、初期配属から本社で働くケースもあるようですね。
シマジ:そうなんですか。まずは地方で修行を積む、というのは基本的な人間力をつけるためにもとてもいいシステムだと思っていましたが、英語の出来る新入社員などは即戦力として本社に配属されるんでしょうね。時代はグローバル化していますものね。
服部:たしかにぼくもいまの業務ではニューヨークの開発チームとやりとりをすることが多く、グローバルなトレンドの最先端で戦っている実感があります。毎日エキサイティングな仕事をさせてもらっていると感じます。そのようなグローバル化の流れのなかで、海外で語学研修に参加させてもらうなど、成長の機会をたくさん与えていただいていることも感じます。
立木:服部が資生堂に入社したときは、何人ぐらい新入社員がいたの。
服部:ちょうど100名でした。男性と女性が50名ずつでしたね。
シマジ:わたしの時代、集英社では新入社員は男性だけの9名でしたね。ちょうどいまから52年前の話ですが。
立木:シマジの新入社員の話は古すぎる。いまや政治家も男女半々にしようという時代だよ。
シマジ:集英社もその後女性誌が創刊されて、女性編集者が急に増えだした感じでしたね。料理の世界もだんだん女性シェフが増えてくるんではないですか。
長谷川:少しずつですが、その傾向はありますね。
立木:タクシードライバーだって、いま若い女性が増えているじゃないの。
シマジ:いまやまさに女性の時代ですよね。
服部:シマジさんが「週刊プレイボーイ」の編集長だったころは、女性の編集者はいたんですか。
立木:服部、鋭い質問だよ。
シマジ:社員編集者とフリー編集者が40人ほどいたと思いますが、女性編集者は1人もいませんでしたね。いま考えると時代錯誤の感じですが、その当時はそれでいいと思ってやっていたんでしょう。よくそれで毎週100万部も売っていましたよね。
立木:シマジの感覚は、いまはむかしの感がありすぎるね。
服部:いえいえ、興味深いお話です。今日は長谷川さんの美味しい料理をいただくことができましたし、シマジさんから面白いお話も聞けて愉しかったです。立木さんに撮影していただいたことも光栄です。どうもありがとうございました。
シマジ:こちらこそ。
長谷川:シマジさん、わたしからもありがとうございました。服部さん、また来てくださいね。
服部:喜んで参ります。