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第2回 現代ビジネス編集長 瀬尾傑氏 第4章 ”最後の晩餐”は鳥政のヤキトリだった。

<店主前曰>

SHISEIDO MENを使い出して4週目に入ったセオの肌に少しテカリが出てきた。いままでいぶし銀のようにマットであった肌に、いい兆候が現われてきた。そんなわけで”うちのカミサン”も喜んでいるそうだ。セオはいまどき珍しいスクープを追いかける勇敢な編集者である。いままで夜陰に乗じて張り込んだことも何度かあった。いぶし銀のような輝きを失ったセオの肌は姿を隠すのには役に立った。でもこれからは、ピカピカ輝く肌がむしろ夜陰のなかで目立ってしまうかもしれない。しかしインタビューするときは、この輝ける肌は役に立つはずだ。しっとりとした健康そうなピカピカ肌は相手を威嚇するにちがいない。またどえらいスクープをゲットするかもしれない。
 先週に引き続き、話はセオのイラク戦争体験からはじめる。セオは日本を出発してイラクに行くとき、”最後の晩餐”を1人で愉しんだ。その店は銀座にある鳥政であった。
「オヤジ、明日からイラクに行ってくる」
「いま戦争しているイラクに行くんですか」
「そうだよ。だから”最後の晩餐”にここの美味しい焼き鳥を選んだんだ」
「ありがとう御座います。わたしもセオさんの無事を祈っています」
「じゃあ、今夜もシマジスペシャルを頼もうか」
「そのほうがシマジさんも喜ぶでしょう」
「シマジさんのタリスカーはあるの」
「もちろんあります」
「じゃあ、出して。ソーダーも一緒にね」
「イラク行きはシマジさんには報告したんですか」
「もちろん」
「シマジさん、何て言ってましたか」
「『セオ、おまえらしい。無事を祈る』って言ってくれました」
「セオさん、たくさん召し上がってください。今夜はわたしのオゴリにさせてください」
 セオ・マサルは、タリスカーを遠慮なしに悠々とボトル半分飲み干し、焼き鳥を2人前ペロっと平らげた。

野田 お肌がますます輝いてきたようですね。

セオ ありがとう御座います。今朝もカミサンに同じことを言われたばかりです。

シマジ セオ、今日は対談最終日だ。先週のイラク取材の続きから話してよ。

セオ どこまでお話しましたっけ。

シマジ フセインが隠れていた穴におまえが横になったところまでだ。

セオ あ、そうそう。戦争は行ってみないとわからないことがいっぱいあります。日本は戦争で負けてヘナヘナになってしまったけど
イラクは何であんなにテロが多いのか。まずイラクは豊かな国なんです。中東の国々は石油は出るが水がない、あるい水は豊かだけれど石油が出ない、このどちらかなんですよ。ところがイラクは両方出るんです。だから豊かなんです。アメリカに負けた気がしないんでしょう。バクダッドのマーケットに行くと物が溢れ返っている。やっぱり日本のギブ・ミー・チューインガムとはわけがちがう。編集者の勘が働いて酒を探すと、ちょっと怪しい路地裏で酒も売っている。すべて米軍が横流ししたものでバドワイザーが1缶1ドルで日本より安い。ジョニー・ウオーカーは赤も黒の同じ値段で30ドル。向こうの人は酒を飲まないから値打ちがわかんないんでしょう。イラクではアメリカ軍がきても日本とちがって、ありがたみがなかったようです。イラクにはまだまだ余力が残っていた。この辺は現地に行かないとわからないところです。まあアメリカはベトナム化を恐れて短期決戦を挑んだんでしょう。
 そのあとぼくたちは帰国するんですが、橋田さんと甥っ子の小川さんはイラクに残ったんです。小川君は30歳そこそこだったんですが、以前NHKで働いていた優秀な若者で、中国語がペラペラでした。NHKに入って中国語講座を担当していたんですが、先輩に「おまえ、このまま一生中国講座担当だよ」と言われた。国際部に入って国際ジャーナリストを目指したかった小川君はそれでNHKを辞めて、まず橋田さんの助手としてイラクで働いていたんです。ある日の明け方5時ごろ、入稿して家に帰ろうとしていたら、外務省から電話があった。「日本人のジャーナリストが撃たれた。あの辺で仕事している誰か知ってるか」という知らせがあった。いまイラクで取材してるのは、橋田さんと小川君しかいないので、すぐ彼らだと思いました。あとで知らされたのですが、橋田さんは即死で小川君はテロリストに拉致されたあとで殺されたそうです。

シマジ えっ、ホント!身につまされる悲劇が起こったんだ。

セオ そうなんです。そのとき同行していたイラク人のドライバーも通訳も結局殺されてしまったんです。

シマジ うん、言葉がないね。

セオ 小川君は優れた才能あるジャーナリストでした。彼のデビュー作で遺作となったイラクのファルージャで米軍がイラク人に拷問していたことを書いた『現代』の原稿は大スクープでした。そのあと米軍はその事実を認めたんです。本当に惜しい男を亡くしました。これから中国問題を彼と組んで取材しようと考えていた矢先のことでした。

シマジ セオの”取材突撃隊”の6人中4人が殺されたのか。

セオ そうです。それくらい治安が悪いところなんです。

野田 凄まじいお話ですね。

シマジ なぜいままでセオの肌がこんなにあれてたのか、わかったような気がする。

野田 平和な日本にいては想像もできない話ですね。

シマジ ようし、話柄を平和な日本の資生堂に戻そう。

野田 資生堂の初代社長福原信三は、「ものごとは、すべてリッチでなければならない」「商品をして、すべてを語らしめよ」という言葉を残したんです。

シマジ うちの商品はすべて使えばいいものかどうかわかるだろうということだね。

野田 パッケージ・デザインから中身まで、そうするんだとわたしたちは創業以来その魂を受け継いできているんです。

セオ たしかにこの入れ物のデザインは洒落てますよね。

シマジ これはヨーロッパの古い革製の本をモチーフにしているみたいだね。

野田 はい、そうです。知的な感じを出しているんです。

セオ 講談社の社員になると、創業者である野間清治の名言集を書いた手帳をもらうんです。そのなかに「記事のなかに屑が入ると雑誌は屑になる」というのがあるんです。これはなかなか鋭い警句です。雑誌も化粧品も渾身を込めてつくらないとダメだということでしょうね。

野田 シマジさんは何年くらい「週刊プレイボーイ」の編集長をおやりになったのですか。

シマジ 41歳から4年半かな。

セオ シマジさんは週プレの編集長を20年くらいやっていたような存在感がありますね。プレイボーイと言えばシマジ、みたいになっていますね。いまでも伝説のシマジ編集長ですものね。

シマジ いやいや、いまではしがない物書きです。

野田 でもシマジさんはお洒落ですよね。全部ご自分で買われるんですか。

シマジ はい、アンダーパンツからソックスまで。セオは?

セオ ぼくはすべてカミサン任せです。

野田 どちらが幸せなんでしょうか。

シマジ それはセオだ。すべて自分で揃えるのは金もかかるし大変なことだよ。

野田 でも「MEN'S Precious」を読んでますと、愉しそうじゃないですか。

シマジ 裕子ちゃんは、どうしてあの高級男性ファッション誌まで読んでるの。

野田 はい。それが仕事ですので。「Pen」はわたしの担当です。届くといの一番に『SALON DE SJIMAJI』を読みます。

シマジ うれしいね。セオ聞いたか。Penの担当編集者サトーに言わなくちゃあ。あいつもいまかいまかとこの連載に登場したくてウズウズしているんですよ。

セオ サトーは悔しいかなイケメンです。

野田 その時またこようかしら。

シマジ 残念だなあ。資生堂の女性も担当編集者の男性も毎月代わるんです。契約書にそう書いてありました。ねえ、大樂さん。

大樂 はい。

セオ 突然ですが、質問してもいいですか。

シマジ 許す。

セオ 女性は失恋すると肌があれるんですか。

野田 そう言われていますけど、わたしはあれないみたい。

シマジ 裕子ちゃんは、失恋させて男の肌をあらしてんじゃないの。

セオ なるほどね。

野田 セオさん、何がなるほどなんですか。

セオ そう言えば今日は立木先生はどうしたんですか。

シマジ 先週でセオの顔写真は十分撮ったと言っていた。だから今日はお休みだよ。たまには休ませてあげないと巨匠も可哀想だ。おれより5歳も年上なんだからな。

セオ でもぼくは立木先生に写真を撮っていただくなんて夢のようなことです。もうこれでどこでも取材に行けます。もし死んでも立派な遺影ができました。ありがとうございました。

シマジ カミサンに言っておきな。そのときは必ず撮影・立木義浩と入れろってな。

セオ 考えてみると、立木先生の遺影は誰が撮るんでしょうか。

シマジ おれが撮るか。冗談、冗談。今度会ったら聞いておく。でもタッチャンは100歳くらいまで写真を撮ってるぜ。

セオ シマジさんも100歳くらいまで書いてるんじゃないですか。

シマジ セオ、おまえはいまどき珍しく、九死に一生を得た人間だ。そういう人は長生きするそうだ。もっともっとカミサンを大事にしな。そのうちブーメランのように大きな温かい愛が返ってくるぞ。

セオ ありがとうございます。

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