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第11回 西麻布 HABANA VEGAS 竹中光毅氏 第2章 ヘミングウエイが愛した特別なパパダイキリ。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

オーセンティックシガーバー「ハバナベガス」の店内は、ハバナの街のバーを彷彿とさせる。ここで売られている葉巻はすべて、竹中バーマンが自ら仕入れてきたものである。年に4回ほどハバナを訪ねるという。
そんな竹中バーマンは、葉巻はフレッシュのほうが美味いという。まあそれは好みの問題だろう。わたしはどちらかというと熟成したビンテージシガーを好んでいる。
むかし、貴族は葉巻を吸い、芸術家はパイプを吸った。作家のアラン・シリトーが名言を吐いている。
「インテリは禁煙するがジェントルマンは吸い続ける」

高橋:このスムージースタイルの「クリスタル・マウンテン」はコーヒーそのものの味がして美味しいですね。でも撮影の前に飲んでもよかったんでしょうか。

シマジ:大丈夫です。そのために2杯作ってもらっています。高橋さん、そのお皿の上にあるコーヒー豆を齧りながら飲むと、また格別な味がしますよ。

高橋:うーん、本当ですね!美味しいです。

立木:はい、クリスタル・マウンテンの撮影は終了!次はなんなの?

竹中:ではこれもキューバ名物の「ピニャコラーダ」でいきましょう。ピニャはパイナップルのことで、コラーダはたくさんという意味です。これはフレッシュなパイナップルをミキサーにかけ、デルモンテのパイナップルジュースを追加して、マレーシアのアヤム・ココナッツミルクとクラッシュアイスを入れて混ぜ、最後にシナモンを振りかけます。そしてラムを別のジャグ(水差し)に入れて脇におきます。では1杯は立木先生へ、もう1杯は高橋さんへ、でしたよね。

シマジ:そうです。わたしには撮影したピニャコラーダでいいですよ。高橋さん、ラムはお好きなだけジャグから入れて飲んでください。

竹中:この飲み物は高速道路沿いでも売られているんです。ラム抜きでも結構イケるんですよ。

高橋:このサッパリ感が凄いですね。これにラムを入れるんですね。うん、大人の味に豹変しました。

立木:ピニャコラーダも撮影終了!これはシマジが飲む分だろう。最後はなんなの?

竹中:最後はヘミングウエイに敬意を表して、「パパダイキリ」といきますか。ダブルで作りましょう。ヘミングウエイは行きつけの「フロギリータ」で、グレープフルーツで作ったダイキリを飲んでいたんです。ハバナラムを普通は45ミリ入れるところをパパヘミングウエイは60ミリ入れてくれと言って、毎晩「フロギリータ」で5杯飲んで、魔法瓶に別に5杯分作ってもらい、お土産に持って帰ったそうですね。レシピをちゃんというと、ラムの他にライムジュース15ミリ、砂糖小サジ1杯、グレープジュースを20ミリ、それをシェーカーに入れてシェークします。はい、でき上がりました。1杯は立木先生、もう1杯は高橋さんでしたね。ではどうぞ。

高橋:うん、美味しいけど強いですね。

シマジ:ヘミングウエイはこれを毎晩5杯飲んでいたんですよ。

高橋:ヘミングウエイはお酒が強かったんですね。

シマジ:そうでしょうね。お土産にもう5杯分持って帰るくらいですからね。ヘミングウエイが毎晩通った「フロギリータ」でわたしも実際に飲んだことがありますが、カウンターの奥にヘミングウエイの銅像が等身大で置いてあるんですが、それが大きいのには驚きました。わたしも粋がって、パパダイキリを3杯くらい飲んだのですが、凄く酔った記憶がありますね。

高橋:ヘミングウエイは葉巻が好きでハバナに住み着いたんですか、

シマジ:鋭い質問です。ヘミングウエイはシガーを吸ったことがないようですよ。シガーを咥えた写真が1枚もありません。パイプを咥えている写真は少ないけどありますがね。

高橋:ホントですか。勿体ないお話ですね。

シマジ:作家という人は変わった人が多いんですね。たとえば「アニマルハウス」の名作を書いたジョージ・オーエルなどは、スコットランドのアイラ島の隣のジュラ島に移住したのにウイスキーを飲まずラムを飲んだそうですよ。これも勿体ない話ですよね。

立木:パパダイキリの撮影、終了!ではこれからみんなを撮りますか。

シマジ:最初は3人の集合写真を撮ってもらいましょう。

立木:レンズを見て笑ってくれる。シマジ、なんか面白いことを言ってくれ。

シマジ:一緒に「スランジバー!」の、スランジーのジーを伸ばして言ってください。そうすれば笑顔で写るでしょう。では、スランジーーーーー。

全員:スランジーーーーー。

立木:完璧だ!たまにシマジも役に立つんだね。あとは勝手に話していてくれる。そう、ヘミングウエイはキューバに長く滞在していて葉巻を吸わなかったんだ。『老人と海』という大傑作を書いたけどね。カジキマグロの釣りをしたくてハバナに住んでいたんだろうね。

竹中:開高健先生はどうだったんですか。

シマジ:鋭い質問です。開高先生はパイプはこよなく愛したけど、葉巻は苦手でしたね。高級な葉巻をいただくと全部わたしに回ってきたものです。「オーパ」の取材で英国の元ヒューム首相に招かれて一緒に魚を釣ったお礼にと、ヒュームがチャーチルのように特別にキューバで巻かせている高級な葉巻を送ってきたことがありましたが、そのときもわたしが1箱そのままいただきましたね。

竹中:開高先生はパイプタバコはなにをお吸いだったんですか。

シマジ:それがさきほど竹中さんに差し上げた「ヘレニズム」の葉っぱだったんです。

竹中:あれはシマジさんの、いわゆるマイミクスチャーだったんですか。

シマジ:そうです。たまたまニューヨークのパイプ屋の葉っぱとロサンジェルスのパイプ屋の葉っぱを半々に混ぜたらこの味になったんです。

竹中:そのように偶然から凄いものが生まれるものですよ。

シマジ:東西のブレンドなので「ヘレニズム」と開高先生が命名してくれたんです。

竹中:ヘレニズムか。洒落ていますね。よくまたそれを復刻されましたね。

シマジ:これはドイツのダンというタバコ屋が復刻してくれたんですが、じつは開高先生とわたしが吸っていたヘレニズムより美味いんですよ。ですからいちばん吸ってもらいたかったのは開高先生なんです。そこで先日ヘレニズムを1缶持って、開高先生の墓参りをしてきました。お世話になった浅草の柘製作所の柘社長と三井常務とわたしの公認バトラー・ミズマの4人で鎌倉の円覚寺に行って、開高先生の墓前でお線香を焚く代わりに、4人でパイプにヘレニズムを詰めてバカバカ吸ってきたんです。

立木:シマジの趣味の1つが墓参りなんだよな。上野寛永寺に眠る今大僧正はじめ、伝通院に眠る柴田錬三郎先生とか、しょっちゅう墓参りをしているんだ。

シマジ:そうなんです。お墓の前でみなさんは無言で手を合わせてお参りしているでしょう。わたしはそこに今先生やシバレン先生や開高先生がいますがごとく、大きな声を出して語りかけるというか、近況報告をいつもしているんですよ。

高橋:お墓は1人でお参りしたほうがいいとどこかで読んだ気がしますが、シマジさんのように大勢で行くのもいいですね。

シマジ:わたしは1人でも2人でも何人でも、気が向けば墓参りに行きますね。強運を増やすには墓参りがいいんだぞと今東光大僧正に教わってからはじめた趣味かもしれません。

竹中:どれくらいの頻度で行かれるんですか。

シマジ:少なくとも月に1回はどなたかのお墓を尋ねていますね。

竹中:数珠を持って行かれるんですか。

シマジ:最近伊勢丹のサロン・ド・シマジで売っている千日回峰行を成功した仙台の慈眼寺の塩沼亮順大阿闍梨が1本1本念を入れて作ってくれたありがたい「うでわ念珠」をこうして始終つけていますから、数珠は持っていきません。

高橋:それはおいくらで売っているんですか。

シマジ:1,000円+税です。

竹中:御利益ありそうですね。

シマジ:はい、毎月100本送られてくるんですが、ほとんど完売です。あっ、そうそう。これは他人にプレゼントしても効果がないそうです。自前で買ってこそ法力が発揮されるようですよ。

高橋:今度の休みのとき買いに行こうかしら。

シマジ:どうぞ、どうぞ。

新刊情報

Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である
(ペンブックス)
著: 島地勝彦
出版:阪急コミュニケーションズ
価格:2,000円(税抜)

今回登場したお店

HABANA VEGAS
ハバナベガス

東京都港区西麻布2-25-32ブレスビル1
03-6433-5318
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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